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はじまりの物語  作者: はあや
本編
346/431

序曲 ④

(ただ、見舞うだけだ・・・・・・)


レオリードが連れ帰ったシスツィーアが目覚めたのだから、レオリードが見舞うことは不自然なことではない。


それなのに、レオリードはシスツィーアの部屋の前で、見舞いの花を持ったまま立ち尽くしていた。


アランがいない今なら、シスツィーアと話せる。


そう思う一方で、心のなかには会うことへの恐怖も広がっていて





あの日、シスツィーアとアランの手を繋いだとき





眩しすぎるほどの白い光


目を瞑っているのに、眩暈を起しそうなほど輝いていて、レオリードも光に包まれた。


「なん・・・・・だ?」


どれだけの時間が経ったのかわからないが、光がおさまり、恐る恐る目を開け視界が戻ると、ルークが呆然とふたりを見下ろして呟いた。


レオリードにも何が起こったのかは分からないから、ルークへ答えることは出来ない。


けれど


(あの光は・・・・・・あの日の・・・・・)


レオリードの部屋でレオリードの持っていた『護符』が消えて、アランが倒れたときの眩い光


直感だが、同じものだと思えた。


「ん・・・・・・」


微かに声が聞こえて、レオリードが慌ててベッドの側に跪く。


アランの表情はまだ眉間にしわが寄っているけれど、さっきまでと比べて呼吸は穏やかだ。


(良かった・・・・・・シスツィーア嬢は)


シスツィーアの頬には赤みが差し、胸が微かに上下している


レオリードがそっと手を取ると、さっきまでの凍えそうなほど冷たさとは違い、ほんのりとしたあたたかさを感じて


「良かった・・・・・・!」


安堵のあまり、レオリードは握ったままの手にさらに力が籠る。


ぱきっ


小さな音がして、シスツィーアの腕に付けられていた魔道具がベッドの上に転がる。


首元を見れば、チョーカーは原型を留めないほど、粉々に砕かれていて


「外れたな・・・・・・」


ルークはアランとシスツィーアを診て、異常はなさそうだと、ひとまずは安心だと肩の力を抜く


「本当に・・・・・・良かった・・・・・・」


泣きそうになりながら、レオリードは握った手に縋りつき


(もう、大丈夫だ)


これから先、どうなるかは分からないけれど


最悪の事態は回避できたのだと、心から嬉しかった。







それが







(迷惑・・・・・・だろうか・・・・・・・)


魔道具の事故のときのように、シスツィーアの目覚めを自分の目で確認したい。


けれど、あのときのように衝動的に部屋に入ることはできずにいる。


「レオリード殿下」

「あ、ああ」


扉の前で立ち尽くしたままのレオリードへ、護衛騎士が声を掛ける。


レオリードは城へ戻った日から、たとえ城内であっても護衛騎士を側に置くようにと、シグルドに命じられていた。


当然「キアルがいるから」と断ったのだが


「キアルにも護衛を付けることになった。しばらくの間は、お前の護衛に付くことはできない」


そう言われては、逆らえるはずもなく


意を決して、静かに扉を叩く。


コンコンコン


しばらく待ってみたが、返事はなく


「・・・・・・・・失礼する」


レオリードは扉を開けて、部屋へと足を踏み入れる。


部屋はそう広くなく扉からでもベッドが見えるし、誰かが眠っている姿も


本来のレオリードなら、眠っている女性の部屋に入るなど非常識だとするはずもない。


けれど、いまは眠っているシスツィーアとなら言葉を交わす必要もないと、逆にほっとしていた。


レオリードは足音を立てないようにそっと近寄ると、シスツィーアは眠っていて


(良かった・・・・・・・・)


少しずつだが、身体も動くようになったと、食事も自分で採っているとも聞いていた。


それでも、自分の目で確かめたいとの想いが消えることなく膨らんでいたが、シスツィーアが無事でいると確かめたことで落ち着いて


静かにその場を離れ、持って来た見舞いの花をテーブルにある、昨日贈った花が生けられている花瓶へとさす。


今日の花は、オレンジがかったピンク色の可憐な花。


シスツィーアへ届けている花は、毎朝レオリードが選び、自分で摘んでいる。花の名前は知らないが、全てシスツィーアを思い浮かべて選んでいた。


(これで・・・・・良いか?)


昨日の花は、かすみ草のような白い小さな花。そこへ慎重に今日の花を差し込んで


なんとか綺麗に飾ると、レオリードは部屋を出る前に、最後にシスツィーアの側に寄る。


ぐっすりと眠っていて、目覚める気配はないけれど


穏やかに眠る表情は、魔力不足のときを連想させることなはい。


(そうか・・・・・・もう、魔力は・・・・・・・)


いまのシスツィーアは回復のために眠っている。


ほんの数日前の、魔力が足りなくて意識を失っていたときとは違う。


そのことは喜ばしいはずなのに、その手を取る必要がなくなったことに一抹の淋しさを感じて


そのことに罪悪感を覚えて後ろめたく思いながら、レオリードは部屋を後にした。





最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話は1月14日投稿予定です。

お楽しみいただければ幸いです。

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