光
レオリードを先頭に王城へ入る。
門の前でも止まることなく、「退け!」と門番の横を強行しすり抜けて
「着いた!」
王宮内にある馬車の停車場に着くと、レオリードたちは馬から飛び降りる。
「っ!」
「キアル!?」
降りた瞬間、キアルが姿勢を大きく崩しその場に大の字になって寝転がる。
「大丈夫か!?」
「わり・・・・も・・・・」
キアルの額には汗が滲んで、息は荒いし顔色も悪い。
「魔力の使い過ぎ・・・・過労だな」
「ん・・・・で、おっさんは平気なんだよ」
「慣れだろうな。ま、経験の差だ」
ルークも疲れが滲んだ顔をしているが、それでもシスツィーアをしっかりと抱きかかえて、危ぶまれることもない。
「ああ!んっとに!」
「キアル、平気か?」
同じく経験もないはずのレオリードだが、顔は青くなっているものの身体におかしいと感じるところはない。
「レオンは平気なんだよな?じゃあ、早く行け!」
「わりぃな。王子!」
キアルは真剣な顔つきでアランの部屋の方へと指さす。
一刻も早くシスツィーアをアランの元へ
レオリードは力強く頷くと、ルークとともにアランの部屋へと走り、飛び込むが
「いない!?」
部屋の前に護衛騎士はおらず、部屋に控えているはずのメイドもいない
(まさか・・・・・アランは・・・・)
ベッドは綺麗に整えられ、部屋のなかはあたたかいものの、シンとした静けさに支配されていて
最悪な状況がレオリードの頭に掠めるも
(そんなはずはない)
シスツィーアを連れてくるまでアランは「待つ」と約束した
「おい。ほかに何処か居そうな場所は」
「ああ・・・・・・・・」
必死にレオリードは頭を巡らせるが、焦りもあってアランが居そうな場所が思い浮かばない
「リオンは」
リオリースがいれば、なにか情報が分るかもとレオリードが顔を上げたとき
リーン! リーン!
城のなかに、静かに鈴の音が響く
「っ!?」
「なんだ?」
シスツィーアをアランのベッドへと寝かせ、ルークは首を傾げる。
「っ!今日は!」
静かに、けれど厳かに響く鈴の音
レオリードは目を見開くと、焦りながらシスツィーアを抱き上げる。
「お、おい!」
「こっちだ!」
今度は王宮の馬車止まりとは反対側へと駆け出す。
(こっちのほうが近い!)
王宮内を走るより庭を突き抜けた方が早いと、レオリードは渡り廊下から庭へと入り
「どこへ行くんだ!?」
「『建国記念の儀式』で使う部屋だ!」
魔道術師団の棟の方へと走る。
この道は、かつてシスツィーアとアランがこっそりと『女神の部屋』へと向かおうとして、レオリードと偶然出会った辺り。
そこから神殿の方ではなく、王城の方へと向かう。
(もう、今日は・・・・・・)
すっかりと忘れていたが、今日は今年最後の日
明日になれば、新年となる
「っ!何かあんのかよ!?」
「君も儀式を行っているだろう!?」
暗くなって足元がおぼつかないなか、焚かれたかがり火を頼りに走りながら叫ぶ
「なんのことだ!?」
(っ!?『儀式』を行ったことがないのか!?)
レオリードは男性王族が行う『建国記念の儀式』と、同じことを公爵家も行うと聞いていた。
それとも、王家と公爵家では伝わる『儀式』の意味が違うのだろうか?
「俺たち王族は、新年に女神から授かった『祝福』を、女神へ還すんだ!」
「それは知ってっけど・・・・・・まさか!?」
女神から授かった『祝福』は、きちんと初代国王の血を継ぐ者へと引き継がれている。
それを女神へ知らせるための儀式
「ああ!アランが『儀式』を行うなら・・・・・魔力が!」
アランの魔力を『女神』へと還すなら、シスツィーアは・・・・・・・・
「って!『儀式』は明日じゃねぇのかよ!なんで、今日から!」
「いつ夜が明けても良いように、部屋で夜を明かすんだ!」
『儀式』の行われる時間は、夜明けと決まっている。
けれど、慣例として男性王族の年越しは『儀式』の部屋で行うのだ
はぁはぁと息が上がるが、レオリードは足を止めることなく走り続けて
「殿下!?」
「退け!」
部屋の前に待機していた護衛騎士たちの間をすり抜け、レオリードはシスツィーアを抱きかかえたまま扉を叩く
「父上!開けてください!」
「殿下!おやめください!」
「どうか落ち着いてください!」
「放してくれ!アラン!なかにいるのか!?」
神聖な儀式の邪魔になると、騎士だけでなく控えていた神官もレオリードを止める
「おい!邪魔だ!」
「なっ!」
ルークがレオリードの隣へと移動し
「っぐ!」
重く閉ざされた扉を押すが、びくりとも動かない
「ルーク、この扉は国王にしか開くことはできないんだ!」
そう言いながらも、レオリードはシスツィーアを抱き直すと扉へと手を触れて
「え?」
ぎ・・・・・・・ぎぎ・・・・・・
あり得ないのに、扉が開く。
レオリードはシグルドが明けたのかと、なかから溢れ出る光に目を細めるけれど
「レオリード殿下」
「マーシャル公!?」
後ろから声を掛けられ、振り返るとそこにはエリックが立っている。
「アランは!」
「アランディール殿下はこちらには」
エリックは言いかけて、ぐったりしたシスツィーアへと視線を向け
「まずいな」
石の色がさっきよりも濃く赤くなり、透明の部分はなくなりはじめている。
「殿下、アランディール殿下は霊廟の護り部屋に」
「霊廟!?なぜそんなところに!?」
「あそこが、この王城内で一番魔力が集まらない場所ですから」
言いながらも、エリックはレオリードの背中を押して
「話はあとから。早く!」
「分かった!」
詳しい話はあとから聞けばいいと、レオリードはシスツィーアを抱き直して、また走り始める。
はぁはぁはぁ
レオリードの足は疲労を訴え、いまにももつれそうになるけれど
「ん・・・・・・・・」
走る振動が伝わって、シスツィーアは微かに声を溢す
レオリードの身体は動いているせいで熱い。
なのに、シスツィーアを抱えている腕だけ、冷たくて
(ここで・・・・・諦めるなど・・・・・・・)
抱えた両腕も痺れてきて、さすがのレオリードも倒れそうになるけれど
(駄目だ!)
レオリードの全身は汗だくで、目にも汗が入ってくるけれど
(まだか・・・・・・)
霊廟は神殿とは王城を挟んで反対側
いつもは馬車で移動するので、あとどれくらい走ればよいのか見当もつかない
けれど、いまここで足を止めては、シスツィーアは救えない
なんとか自分を奮い立たせ、必死に足を動かす
「王子!交代する!」
「大丈夫だ!」
ルークはずっと側にいたのか、レオリードの隣へ並ぶとそう言うけれど、レオリードはシスツィーアを離したくなくて
「あそこだ!」
静寂の支配する、真っ暗ななか
ぽつんと灯りが見えて
「ぐ・・・・・・!うっ!」
部屋の外にまで聞こえるのは、苦し気な呻き声
「アラン!?」
ルークに扉を開けてもらい、レオリードたちが部屋へと飛び込む。
「あ・・・・・に・・・・」
「アラン!」
レオリードがアランの側へと駆け寄り
「つぃー・・・・・・て・・・・・・・」
アランは息も絶え絶えになりながら、シスツィーアへと手を伸ばす
「かのじょ・・・・・・ひだり・・・・・・・」
「左手だな!?」
ベッドへと腰かけ、レオリードはシスツィーアの左手をアランへと差し出す
「ぼく・・・・・・みぎ・・・・・」
ルークがアランを支えて、アランの右手をシスツィーアへと伸ばす
瞬間
「っ!?」
見たことのないほどの光が、重なった手から溢れ出て
「なっ!」
ルークも言葉を失い、眩すぎる光に目を閉じる
目を閉じているのに、激しすぎるほどの白く明るい光を感じて
「アラン!シスツィーア嬢!」
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
次話は1月7日投稿予定です。
お楽しみいただければ幸いです。




