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はじまりの物語  作者: はあや
本編
336/431

真相 ①

「ちょっと待ってよ!どういうこと!?」

「と、言われましても」


エリックは首を傾げるが、これまでとは違って誤魔化したりはぐらかしたりするつもりはないようで、アランが向けた視線を逸らすことはないし、意味ありげに笑うこともない。


「ただ、アランディール殿下の今の状態は、私の予想の範疇を超えている。それは、シスツィーア嬢の状態が、私の知る状態とは違っているからでしょう?」

「っ!だから!それがツィーアに危険が迫ってるってコトだよね!?」

「恐らく。ですが、今はレオリード殿下を信じて待つよりほかはありません」



『彼女は、必ず連れて帰る。それまで、待てるな?』



レオリードは確かにアランにそう言って、シスツィーアを迎えに行った。


(約束してくれた。だから)


アランにできることは、信じて待つことだけ


ぎゅっとシーツの上で手を握りしめると、エリックは目をすっと細くして、本の表紙へと視線を落としている。


(いまなら・・・・・もしかして)


部屋のなかにはふたりきり。エリックから話を聞くには絶好の機会で、アランはベッドの上で姿勢を正すとエリックへと話しかける。


「聞きたいんだけど、僕とツィーアの魔力は繋がってたの?」

「ええ。でしょうな」


はっきりと頷くエリック。


まったく迷うことのないことからも、本当なのだと伝わってきて、アランは思わず目を見張る。


「ツィーアの魔力は、僕の魔力だったってこと!?」

「・・・・・・・・・」


シスツィーアの豊富な魔力はアランから『奪った』もの


アランは信じられない思いでエリックを見つめるけれど、エリックは曖昧な表情をするだけで、何も言うことはない。


(だって、ツィーアは!)



『わたしは!あなたさまから、魔力を奪っていません!』



『でも・・・・わたしは、知らない・・・』



初めてであったときもお茶会のときも、アランはシスツィーアがアランの魔力を『奪っている』と考えていた。


アランの魔力を利用して王族に取り入り、その地位を上げよう(権力を手にしよう)としているのだと


けれど、問い詰めるアランにシスツィーアはすぐに怒って否定したし、瞳も心細そうに揺れて困惑していた。


あのときのシスツィーアから、嘘や誤魔化しを感じることがなくて、アランは関係ないと信じることができたのだ。


(あのときの直感は、間違っていない)


アランの魔力が流れたのは、シスツィーアの意志でない。


それなら


「僕の魔力をツィーアへと繋げたのは、公爵?」

「いえ。私の意志ではありません」


一番の容疑者であるエリックを睨みつける。けれど、エリックも困った顔でため息をついて


「本当に?」

「ええ。そもそも、殿下とシスツィーア嬢を繋げる理由がない」

「じゃあ・・・・・・?」


たしかに、シスツィーアへとアランの魔力を繋げたところで、エリックにはなんの益もない。


それなら、アランとシスツィーアの繋がりが意図的でないなら


(この繋がりは『偶然』?)


そんなアランの疑問は顔に出ていて、エリックは「ふぅ」とまたため息を吐くと、トントンと持っていた本を人差し指で叩く。


「アランディール殿下は、どこまでご存じなのでしょう?」

「・・・・・・・どういうこと?」


エリックからそんなことを聞かれるとは思わず、アランは訝しむ。


(これまでは、はぐらかしたりしていたのに)


アランが追求しようとしても、そのきっかけすら掴むことは出来なかった。


それなのに、いまのエリックはアランの望む答え(真相)を話してくれそうで、アランは何か裏がありそうな気がして、胡乱な視線を向ける。


「アランデューク殿下とシスツィーア嬢が『繋がった』であろう原因。殿下は見当がついてらっしゃるでしょう?」


アランたちが調べていたことくらい筒抜けだったと暗に言われ、今度はアランが「はぁっ」と息を吐く。


「兄上がくれた、『おまじないの護符』・・・・・・あれが原因だよね」

「ええ。ほかには?」

「あと・・・・・・・あの『護符』は、僕の魔力を兄上に流すための物だった。違う?」

「左様です。理由はおわかりですかな?」

「・・・・・・僕の魔力を兄上に流して・・・・・・兄上を王座に就けるため・・・・・」


言いながらも、アランは鼻の奥がツンとしてきて泣きそうになる。


(僕は・・・・・・疎まれていた・・・・・・)


理由は分からないけれど、ミリアリザが他国出身であることも関係しているだろう。


(それなら・・・・・婚姻を結ばなきゃ良かったんだ)


反対を押し切って夫婦となったふたりのことは誇らしいけれど、結果としてリネアラが側妃になりレオリードが生まれたのに、アランも生まれてしまった。


この国生粋の王族が誕生した以上、他国出身のミリアリザとアランが歓迎されなくて当然だ。


アランが涙を堪えているのを横目に、エリックがぼそっと呟く。


「なるほど。そのように理解されておられたのか」

「え?」

「だが、そうなると・・・・・・」


トントンと叩く手を休めることなく、エリックは考え込み始める。


(違うの?)


アランの予想は間違っていて、本当にアランを救うための『護符』だったのだろうか?


知らず知らずのうちに期待して、アランの心がほんの少し軽くなる。


薄っすらと滲んだ涙で濡れた瞼をぱちぱちと瞬きさせて、アランがエリックを見ると


「あの『護符』はレオリード殿下から頼まれて用意した物。アランディール殿下はレオリード殿下が「魔力欲しさ」に、あの『護符』を殿下にお渡ししたとお考えか?」

「兄上はそんなことしない!」


反射的にアランは叫ぶ。


レオリードがアランの為にどれほど親身になってくれていたかなんて、アランが一番よく知っている。


(兄上は、僕を裏切らない)


魔力が多くて苦しんでいた幼いころも、魔力不足で寝たきりだったときも


レオリードがずっと励ましてくれたから、アランは負けずに生きてこられた


シスツィーアと出会って日常生活を送れるようになったときも、公務を学び始めたときも


変わらずに支えてくれたから、アランはなんとかやってこれた。


たしかに、疑ったこともあったけれど、レオリードは行動で『アランの味方』だと示し続けてくれた。


(そんな兄上を)


「兄上が、そんなこと望むはずがないだろ!」


『レオリードがアランを陥れる』


そんなこと、信じない


ぎりっと奥歯を噛みしめてアランがエリックを睨むと、エリックは肩を竦める。


「ふむ。レオリード殿下の人徳のなせる業か、それとも・・・・・・・」


またぼそぼそと独り言を言うエリックへ苛立って、アランは手を伸ばす。


「公爵!」

「あの『護符』は、確かにレオリード殿下へとアランディール殿下の魔力を繋げるものでした」

「っ!」


びくっとアランの肩が跳ねて、エリックの肩へと置きかけた手が止まる。


「ですが、それはレオリード殿下を王座へと就けるためではありません」

「どう・・・・・いう・・・・・」


レオリードを王座へつけるためではない


けれど、レオリードへと魔力を流す


(どういうこと?)


アランの多すぎる魔力がレオリードへ流れたら、アランの魔力は安定したとでも言うのだろうか?


「アランディール殿下のために、あの『護符』は作られた」


エリックの言葉からは、微かに『後悔』と呼べそうな響きがあって、アランはなぜだか急に頭が冴えて





(まさ、か・・・・・・?)






ひやりと背筋が冷たくなって



頭から冷水を浴びたように、身体が冷たくなって



「・・・・・・・・まさか」


呆然としながらも、信じたくない思いでエリックを見つめる。


「兄上を・・・・・・・犠牲に・・・・・・・?」


そんなはずはないと、どくどくと嫌な音を立てて鳴る心臓を、ぎゅっと手で押さえる。








けれど






「ええ。アランディール殿下の多すぎる魔力。それをレオリード殿下へと流すことで、アランディール殿下には健やかにお育ち頂く予定でした」






エリックの言葉は残酷にアランの心に響き、ぐさりと心を穿った。


最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話は12月28日投稿予定です。

お楽しみいただければ幸いです。

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