二日目
側近の仕事を始めて二日目。
昨日と同じようにアランの部屋へ向かい、二人でレオリードの執務室へ。
今日は顔合わせのための、スケジュール調整を教えてもらうことになっている。
「専属の騎士か、俺みたいな側近の騎士が、主君と騎士団との調節をすることになってるからな」
今日の先生はキアル。
同じ騎士同士の方が話しは早いし予定も組みやすい。
だから騎士団との顔合わせは、キアルを中心に行う。できればアランも専属の騎士を決めた方が良いと言われ、顔合わせの時に何人かの騎士と話してみることにする。
アランの希望としては、ずっと一緒にいる相手だから「シスツィーアと上手くやれる人」と、「兄上と僕を比べない人」が最低条件だった。
「比べるのは仕方ないよ?けどさ、ずっと一緒にいて「レオリード殿下ならこうするのに」とか、「こんなことも出来ないのか」って呆れられたりするのも嫌だし、ツィーアと上手くやれないのも困る。偉そうにされるのも嫌だし、そんな雰囲気の中で過ごすなんて冗談じゃないよ。それに『死にぞこない』って目で見られるのもうんざりだし」
「待て、アラン。『死にぞこない』ってなんだ!?」
「え?兄上知らなかったの?僕の異名?二つ名?」
きょとんとするアランに、目を吊り上げているレオリード。
「キアル!オルレンも知っていたのか!?」
「あー。まあ。まさか、本人が知ってるとは思わなかったけどな」
「ええ。さすがに本人の耳に入るような失態を犯すとは」
呆れた顔のキアルとオルレン。シスツィーアは「そう言えばお茶会の時に言ってたわね」と思い出し、ただ言葉の意味が分からずに首を傾げていた。
(響きからして、いい意味ではないでしょうけど)
ちょっと嫌な気持ちになりながらキアルを見ると、案の定どことなくキアルは焦っている。
「あー。アランの状態を指したあだ名だよ。寝たきりだったか」
「え?キアル、僕がいるから兄上が王太子になれないって「アラン!!」」
ぼかして終わろうとしたキアルに、間違いを指摘するつもりで言ったアラン。だが慌てたキアルに遮られる。
「あとで!あとで話してやるか「今話せ」」
アランの口を手で押えて黙らせるキアルに、冷ややかな空気を纏った低い声でレオリードが命じる。
(レオリード殿下の怒るってこんな感じなのね)
(兄上も怒るんだ)
シスツィーアは入学式のことを思い出し、「あれは単に不機嫌だったのね」と怒っていたわけではなかったと、少しだけほっとする。
一方のアランは、レオリードが怒る姿をみたことがなくて、怖くなって首を竦めていた。
「あー。アランは王妃の子で、本当なら王位継承権はレオンよりもあるだろ?」
「ああ。本当ならもなにも、実際そうだろう」
レオリードをこれ以上刺激しないようにと、キアルは言葉を選びながら話す。
「けど、アランは寝たきりで原因不明の魔力不足。王族としての教育もままならなかった」
「・・・・そうだな」
「だから、僕が死んでしまえば兄上が王位を継ぐのに、なんの障害もないのにって意味だよ」
「あのな、それを今ここで言う必要あるか!?というよりも、なんでお前が知ってんだよ!?」
「えー?僕の部屋の前にいる騎士とか、メイドとかが話してるの聞こえたから?」
本人があっさりバラしたことに、キアルは悲鳴をあげて頭を抱える。
オルレンは使用人が聞こえる場所で、そんなことを話していることに呆れかえっていたし、レオリードは無表情でテーブルを見つめている。
(さすがに、それは酷いわ)
シスツィーアは『死にぞこないの王子』の意味に納得しながらも、本人に聞こえるところで話すなんてと眉を顰める。
けれど、当の本人は気にしてないのか首を竦めるだけだ。それにどこか観察するように冷静にレオリード達を見ている。
そんなアランに、シスツィーアは違和感を覚えた。
「あのね、アラン?その、レオリード殿下の前で言う必要はなかったんじゃないかしら?ご存じなかったようだし」
「あー。うん。そういうこと。ごめんね、兄上。まさか兄上が知らないとは思わなかったんだ。それに、ここまで言ったなら中途半場になるよりも、ちゃんと知った方が良いかと思ったし」
「いや、俺は良いんだ。そんなことを言われて、一番傷ついたのはアランだろう?むしろ知らずにいた俺が暢気だった」
「仕方ないと思うよ?兄上の前じゃみんな言わないだろうし」
何てことでもないように話すアラン。
レオリードは険しい表情のままだ。
騎士からもメイドからも慕われているレオリード。彼に王位を継いでほしいと思う人が多いからこその、アランのあだ名。それはシスツィーアにも理解できた。誰だって『国王』には不安材料がない、安心できる人物になって欲しい。
けれど、本人が知って傷つくのは別問題だ。
(そもそも本人の耳に入る場所で、言う必要はないわ)
アランだって好きでこんな状態になっているわけではないのに。
仕える者が陰で主君を陥れる言葉を吐く。身近にいて、つらい思いをしていることも分かっているのに。
その事がシスツィーアはたまらなく嫌だった。
それと同時に、なぜアランがレオリードのことを嫌っていないのかも気になる。
シスツィーアが見る限り、アランはレオリードを兄として慕っている。
卑屈になっても仕方がないのに、アランがレオリードに抵抗なくこうやって教えてもらっているし、頼りにしている。
そのこともシスツィーアには不思議だったし、だからこそさっきのアランの視線も気になったのだ。
「では、この日とこの日、ああ、こっちも大丈夫です」
「ありがとうございます。殿下方の予定と合う日は・・・・この日の午前中は如何でしょう?」
「良いんじゃないか?」
気まずくなった部屋から抜け出して、シスツィーアはキアルとともに、騎士団の事務室へ来ていた。騎士団の事務官から顔合わせのできそうな日をいくつか教えてもらい、アラン達の予定と合せていく。
騎士団長も副団長も、ここ10日ほどはスケジュールに余裕があるらしく、キアルの許可もでて顔合わせは3日後とすんなり決まった。
魔道術師団への打診は明日行うことにして、今日はキアルの好みのお茶を淹れて解散となる。
「ねぇ、アラン。聞いても良いかしら?」
「さっきのこと?」
「ええ。あのね、わたしの気のせいなら良いんだけど、わざと?レオリード殿下にアランのあだ名教えたの」
「・・・どうしてそう思うの?」
「なんとなく?かしら。あ!レオリード殿下を傷つけようとしたとは思ってないのよ?だけど」
アランの部屋への帰り道。シスツィーアはさっき感じたアランの違和感を、思い切って聞いてみた。
「なんと言えばいいのかしら?その、アランはレオリード殿下のこと恨んでないのかしら?って」
部屋に戻ると、アランは黙ってソファーに座る。
怒っている風ではないけれど、どことなくさっきの無表情のレオリードと重なって
(触れて欲しくないことだったかしら・・・)
ぎゅっと、持っていたノートを胸の前で抱きしめる。
「あの、ごめんなさい。変なことい」
「帰りに、ちょっと時間貰える?どうせいつかは話そうと思ってたし、授業終わったら話すよ」
「え、ええ。分かったわ」
さっきと同じで、どこか冷静な目で言うアランに、シスツィーアは頷いた。
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