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はじまりの物語  作者: はあや
本編
319/431

傷つけたもの ②

「シスツィーア嬢」

「っ!」


レオリードが優しくシスツィーアの名前を呼びながら、シャツを掴んだシスツィーアの手に自身の手をそっと重ねる。シスツィーアは弾かれたように身体をビクッと震わせて


「す・・・すみません」

「いや。急に考え込んでいたが、なにかあったのだろうか?」


戸惑いながらもシスツィーアを気遣うレオリード。手はシスツィーアに重ねられたままで、伝わってくるあたたかさがくすぐったくて、シスツィーアはかぁっと顔を赤らめる。


「すみません、その、失礼を・・・・・・・」

「いや、かまわない」


アランの手を振り払ったみたいにはできなくて、シスツィーアはシャツから手を離してそっと引く。もともと握られていたわけではないから、スルリと手は離れて


手にあったあたたかさは離れてしまったけれど、いつの間にか身体の震えはとまっていて、いつもと変わらずにシスツィーアを気遣ってくれるレオリードにほっとする。


(考えすぎよ・・・・・きっと)


こんなに優しい人に「犠牲になれ」だなんて、そんな残酷なことを出来る人なんていない


ぎゅっと両手を握りしめるシスツィーアへ、キアルと話し込んでいたルークが声を掛ける。


「嬢ちゃん、弟王子の急変はオレたちが王都を離れた日だ」

「王都を・・・・・」

「アイツとの面会中らしい」


ルークから教えられて、シスツィーアは人目もはばからず、また考え込む。


(城に行くとは聞いていたけれど、まさかアランと会っていたなんて)


あの日、城に行くとは聞いていたけれど、何をしに行くかまでは聞いてなかった。


アランがエリックを呼び出したのなら、シスツィーアに、『護符』に関係することかと思うけれど


(公爵が、アランになにかしたのかしら・・・・・)


アランの急変はエリックと関係がありそうだけれど、ロイやラルドといった護衛騎士だっているし、なにかしたとすぐにバレるような、危険なことをするとも思えない。


シスツィーアにつけた『魔力を受け取らない為の魔道具』。その効果が表れたのが4日前なのだろうか?


それとも


(マリナさまからの・・・・・・・)


そっとチョーカーを触る。ルークから王都を出た日からのことを教えてもらって、この魔道具が『人の持つ魔力へ干渉するもの』には間違いないと思っている。


どちらかの魔道具、それともふたつの魔道具。両方が作用して、アランにも影響が出たのかもしれない。


どちらにしても、魔力が飽和状態だなんて聞いた事がない。


優愛のときの全身の痛みが蘇って、シスツィーアはぎゅっと目を瞑り、握った両手にも力が入って


(そうよ・・・・わたしが『奪っていた』のに『歪みが正された』のなら、当然そのことも考えておくべきだったわ・・・・・・)


エリックが予測していなかったとは思えない。


アランの状態はエリックの予想の範疇


それだけは、間違いない


エリックと「取引」したことが悔やまれて、逃げ出さなかったことに後悔しかないけれど


「アランは・・・・・それまでは、何か変わったことは」


シスツィーアが恐る恐るレオリードたちに尋ねると、3人は顔を見合わせて


「さっきの、続きだが」

「はい」


レオリードが躊躇(ためら)いがちに口を開く。


こくっとシスツィーアの喉がなって、無意識のうちに腕輪を触っていて


「アランは『女神の部屋』へ入ることができなかった。『扉』を開くことが出来なかったんだ」

「まさか!」


思わず口を両手で覆い、シスツィーアが叫ぶ。


(うそよ・・・・・そんな・・・・・)


血の気が引いた顔で、カタカタと震えるシスツィーアだけれど、緊張感を孕んだレオリードの声が追い打ちをかける。


「君は・・・・・・『女神の部屋への扉』を、開ける(ひらける)のだろうか?」

「え?」

「アランだけでは、アランひとりでは『扉』を開くことはできない・・・・・・アランはそう言っていた」


レオリードからの言葉が信じられなくて、シスツィーアは両目を見開いて


「な・・・・・・んで・・・・・」

「君は『扉』を『開くことができる』、アランの為に黙っていたのだろう?」


ちくりとシスツィーアの心が痛んで、目にはまた涙が溢れて


「正直に答えて欲しい。君とアランの秘密」

「っ・・・・・・・」

「君の知っていることを、話してくれないか?それが、アランを救う手立てになるかも知れない」


真っすぐにシスツィーアを見るレオリードは、どこか悲し気だけれど、アランを心配する必死さも伝わってきて


静かに、涙がシスツィーアの頬を伝う。


(アランを・・・・・・・・)


アランを救う。レオリードたちはそのために来たのだと


シスツィーアの心のなかに、ほんの少しだけ寂しさが芽生えて


けれど、シスツィーア自身がそれに気づくことはなく、必死に涙を拭って答える。


「わから・・・・・ないん・・・・・・・です」

「シスツィーア嬢!」

「キアル!シスツィーア嬢、分からないとは?」


キアルが非難めいた声をあげるけれど、レオリードがそれを制して


「わた・・・・・しは・・・・・『扉』、()けて・・・・・」

「父たちの前で『扉』が開かなかったのは聞いている。あれは『開け(ひらけ)なかった』のではなく、『開く(ひらく)ことをしなかった』のだろう?」

「は・・・・・・い・・・・・」


こくりと頷く。


「それなら」

「わたし・・・・・・それからも・・・・・・・試して、ないんです」


シスツィーアの言葉に、レオリードたちに衝撃が走る。


「んな・・・・・わけ」

「シスツィーア嬢。『扉』は、たしかにアラン以外が開いた痕跡があるんだ。君でないなら・・・・・」

「・・・・・・・・・・」


キアルは信じられないと呆然とし、オルレンも驚きのあまりシスツィーアを凝視している。レオリードもシスツィーアが開いたと考えていたから、シスツィーアの言葉に困惑するしかなくて


けれど、シスツィーアはそれ以上話すことは出来なくて、そっと目を伏せる。


そんなシスツィーアたちを、ただひとりルークだけが黙って見つめて


「シスツィーア嬢!教えてくれ!開けた者に・・・・・心当たりは」

「っ・・・・・・」

「知っているなら!」


レオリードから両手で肩を掴まれて、必死な姿に、それ以上黙っていることは出来なくて


「・・・・・・・・マーシャル、公爵・・・・・・・彼が」

「「マーシャル公!?」」


キアルとオルレンの声が重なる。


「な・・・・ぜ?彼が・・・・・・・」


レオリードも信じられないと、愕然とした表情でシスツィーアを見つめて


「・・・・・アランに、会わせてください」


ぽろぽろと大粒の涙を流しながら、シスツィーアは口を両手で覆って


「お願いします・・・・・会わせて」


そう、懇願した。



最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話は11月25日投稿予定です。

お楽しみいただければ幸いです。

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