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はじまりの物語  作者: はあや
本編
318/431

恐ろしい考え

「約束?シスツィーア嬢、それは」


レオリードが呟くも、シスツィーアの耳には届いてなくて


「嘘を・・・・・わたしに言ったのは嘘だったの!?」

「落ち着け、嬢ちゃん」

「アランは、いつも通りだって・・・・・・それなのに・・・・・どうして!?」

「どういうことだ!?」


信じていたのにと、裏切られた思いでシスツィーアは涙を零しながらルークを問い詰める。けれど、ルークが答えるよりも早く、キアルがレオリードを押しのけて


「シスツィーア嬢!「約束」とはアランに関係することだな!?一体どういうことだ!?」


キアルはシスツィーアを無理やり自分の方へ振り向かせる。その俊敏な動きは、いつかの夏の終わりより騎士らしく、そして


「場合によっては、王族への反逆行為。拘束させてもらう」

「っ!・・・・・・ちが・・・・・」


シスツィーアへ向けられるのは、あの日とは違って冷ややかな咎人に向ける視線


誤解されることを言ってしまったと、シスツィーアは顔を青くするけれど


「騎士の兄ちゃんも落ち着け。嬢ちゃんはアンタらを裏切ることはしてねぇ」

「では、釈明を」


オルレンもレオリードを守るように、シスツィーアとレオリードの間に立つ。


「シスツィーア嬢。我々とて、貴女がアランディール殿下を害するとは思っておりません。ですが、貴女の今の発言は看過することはできません。釈明を」


キアルほどではないにしろ、オルレンからも疑いの目を向けられて


(どうしよう)


シスツィーアがしたのは、正確には「約束」ではなく「取引」


けれど、エリックは「アランを支持する」とシスツィーアに言ってくれた。


シスツィーアが大人しくエリックに従うことへの見返りだと思っていたし、なにより『歪み』を正すことがエリックの目的なら、アランを害することはないとそう思って


「え・・・・・?」


ふと、シスツィーアの脳裏に



『幼いときの僕は『魔力が多くて寝たきり』だったんだ』



(そうよ。幼いころのアランは、魔力が多くて・・・・・・それで)


魔力が多くて苦しんでいたから、レオリードはエリックに頼んで『護符』を貰ってくれた。


(アランの魔力不足は『護符』のせい・・・・・けれど、それは)


魔力が多いアランを救うための『護符』で、そしてその『護符』があったからこそ、アランは魔力過多から救われた。


(魔力不足なのは・・・・・・・意図的にではなくて、結果としてそうなってしまったのなら?それなら、本当にアランを救うための『護符』だったのなら・・・・・・・・・)


幼いアランには多すぎる魔力を、アランの為に身体から出すための『護符』


身体に見合った魔力を保有することで、アランは苦痛から解放される。


(アランは、魔力不足で苦しむ必要はなくて・・・・・・健康に)


アランは普通の人と同じように成長して、そして、王位を目指せるはずだったのに、『護符』が思った以上の働きをしてしまった。


(それなら)


それなら、エリックが望んだ働きをしていなくて、意図せずに生じた『歪み』を正そうとして当然だ。


「シスツィーア嬢?」


いつの間にか、レオリードがキアルやオルレンを押しのけて、ぺたりと地面に座っているシスツィーアの前で跪いている。


キアルもオルレンも、急に黙ってしまったシスツィーアに訝しそうにしているけれど、シスツィーアは考えに没頭してしまって


「おい、弟王子が急変したのはいつだ?」

「あ?えーっと、3日、いや4日前だな」

「・・・・・オレたちが王都を出た日か」

「ああ」


ルークとキアルのやりとりも、シスツィーアの耳には入っていなくて


「シスツィーア嬢?」


再度のレオリードの呼びかけに、シスツィーアはぎこちなく顔を上げる。


シスツィーアを責める瞳ではなく、心から心配していることが伝わるような、安心感を与えるようなまなざし。


(じゃあ、レオリード殿下は・・・・・?)


レオリードを見つめ返しながら、シスツィーアはぼんやりと思考を巡らす。


エリックはきっと、『余分な魔力』だけをレオリードに流れるようにしたかった


アランを救うために、アランの負担でしかない魔力をレオリードに


(え?)


また、ふと頭に浮かんだ考えに、シスツィーアは冷たい水をかけられたようになって


(『護符』は、アランを救うためのもの・・・・・・・・それなら、レオリード殿下は?)


アランの魔力をレオリードへと流したら、今度はレオリードが魔力過多になってしまったかもしれない。


(殿下が・・・・・・・苦しむことに・・・・・・)


シスツィーアは大丈夫だった。けれど、それはきっと偶然大丈夫だっただけで、レオリードが大丈夫な保証はどこにもない


(レオリード殿下が)


レオリードがアランのように寝たきりになった可能性は、十分にある


「あ・・・・・・・・」


呆然とレオリードを見上げる。


瞳に溢れていた涙は、いつの間にか乾いていて


「シスツィーア嬢?」


シスツィーアを気遣う、レオリードの優しい声とまなざし


ぞわっと、シスツィーアは全身に鳥肌が立って


「あ・・・・・・」


レオリードを王位につけるために、レオリードに魔力が流れるようにしたのだと、アランもシスツィーアも思っていた。


けれど、それは思い込みで


(アランを王位につけるために・・・・・・・レオリード殿下を・・・・・)


アランの為に、レオリードを犠牲にする


その為の『護符』だったのだとしたら?


カタカタといつの間にか全身が震えて


「っ!」


恐ろしい考えを振り切るように、レオリードを見上げる。


シスツィーアを見下ろすレオリードからは、困惑や戸惑いが伝わって


「なん・・・・・・・で・・・・・・・」

「シスツィーア嬢?」


震える手を伸ばして、ぎゅっと、シスツィーアはレオリードのシャツを掴む。


「ちが・・・・・・そんなこと・・・・・・・・」


肩を震わせながら、シスツィーアはレオリードを見上げる。


レオリードは、シスツィーアの知るいつものレオリードで


魔力過多で苦しんでいるようにも


アランの為に犠牲になることを、望まれているようには見えなくて


(・・・・・・・っ!)


こんな恐ろしい考えは、きっと間違い


浮かんでしまった恐ろしい考えを、シスツィーアは早く振り切ってしまいたかった




最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話は11月23日投稿予定です。

お楽しみいただければ幸いです。

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