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はじまりの物語  作者: はあや
本編
315/431

再会

日が暮れて、今日はこれ以上の移動はナシだとルークに言われたレオリードたち。


キアルとオルレンは馬を休ませるために、水をやったりブラシをかけたりと世話をしていて、ルークは野宿の準備を始めている。


レオリードも手伝おうとしたのだが、シスツィーアへ水を飲ませろとルークに言われて、敷物へと寝かせたシスツィーアのところへと向かう。


あれから目を覚ますことのないシスツィーアを、敷物を敷いてあるとは言え、土の上に寝かせたくはなくて


レオリードはシスツィーアを抱き上げると、敷物の上に座り樹に背中を預ける。


膝の上にのせたシスツィーアへ、そっと唇を開いて水玉を入れると、眠ったままでも「こくっ」と微かに喉が動いて


レオリードはほっとすると、シスツィーアが少しでも楽なようにと姿勢に気を付けながら、水玉をまた一つ口に入れる。


腕のなかにいるシスツィーアは、レオリードが思っていたよりも小さくて、軽くて、大丈夫かと不安になるけれど、『ここにいてくれる』安心感もあって、シスツィーアを支える手には自然と力が入る。


さっき、馬を走らせているときにバランスが崩れそうになり、レオリードが慌ててシスツィーアの姿勢を治すと、シスツィーアの手が微かに動いてレオリードのシャツを掴んだ。


力は入っていないし、ほんの少しだけ手が動いたように見えただけだから、見間違いかもしれない。


それでもレオリードの心のなかは、じんわりと温かくなって


ずっと食事をしていないからか、青白い顔で微かに唇を開けて呼吸しているシスツィーア。


レオリードは目を離せなくて、飽きることなくシスツィーアを見つめ続ける。


昼にルークが魔力を流したから、チョーカーも腕輪も石の色は透明。


それでも心配で、今日はもう眠るだけだからと


(魔力を・・・・・)



『息を吹き込むようにして、魔力を流せばいい』



ルークの言葉が蘇り、吸い込まれるようにレオリードはシスツィーアに唇を重ねる。


(ゆっくりと、そっと)


微かに開いた唇へ、魔力を流す。


こくり


シスツィーアの喉が嚥下するように鳴って、重ねたままの唇が小さく動いて、レオリードの魔力がシスツィーアに飲み込まれたのが分かる。


(もう一度)


今度は微かに開いた唇を、もう少し開いて


先ほどとは違い、深く唇を重ねて


「ん・・・・・・」


シスツィーアから甘やかな声が溢れて、微かに身じろぎするけれど、レオリードは離れることなく魔力を流す。


こくり   こくっ


またシスツィーアの喉が鳴って


「ん・・・・・・・・」


レオリードとシスツィーアの間にあった、シスツィーアの指先が小さく動いて、レオリードのシャツを掴む。心なしか頬に赤みが差したようにも見えて


思わずレオリードの頬が緩み、蕩けるような笑みを浮かべる。


(もう一度・・・・・・・・・)


シスツィーアの姿勢を少しなおすと、レオリードはまた魔力を流そうとして



「そこまでだ」


惹き寄せられるように、吸い込まれるように唇を重ねようとしたレオリードに、キアルがさすがにストップをかける。


「それ以上は、犯罪だ」


キアルは怒っていると言うより、恥ずかしさから顔を真赤にして、レオリードの額に手をやりシスツィーアから顔を離す。


「いくら生死がかかってるとは言え、気を失ってるときに襲うとか、なに考えてんだ」

「なっ!襲ってなど」

「相手の合意なくすることでもないだろ!」


顔を上げればオルレンも気まずそうにレオリードから視線を逸らすし、ルークに至っては「若いな」とにやにやと楽しそうに見ている。


まさかキアルたちに見られているとは思わず、レオリードも顔を真っ赤にして反論するけれど、シスツィーアの合意を得ていないのだから説得力は全くない。


「嬢ちゃんが目を覚まさなくて良かったな」

「っ!ルークこそ」


ルークこそシスツィーアを組み敷いていたではないかと反論するレオリードだが、


「あ?オレのは人助けだろ。ついでに言うなら、アンタのは」

「っぅぅぅぅぅぅぅぅ!分かっている!」


ルークがシスツィーアを組み敷いていたように見えたが、実際は胸の傷を治癒していただけ。単なる医療行為で必要なことだったと納得したし、そこに邪な思いがないことは分かっている。


むしろ問題なのはルークではなく、レオリードの行為。


いくら魔力をシスツィーアへ渡そうとしたとは言え、さっきと同じように手から流せばよかっただけのこと。


なぜ口づけたのは、レオリードにも分からない。


気を失っている女性に、勝手に口づけるなど紳士のすることではない。


レオリードだって普通なら理性が働くはずなのだが・・・・・・・


(それだけ・・・・・・惹かれているのだろうな)


シスツィーアへの想いを自覚してから、まだ数時間。


けれど、レオリードは『愛おしい』という想いが抑えきれなくなっていた。











「なあ。嬢ちゃんを連れて行くのは城か?」


火を焚いて囲みながら、ルークが手早く作った温かいスープと炙ったベーコンにパン。


そんな簡単な食事を摂りながら、ルークは行き先を確認する。


予定通りに進めば、明日の夜には王都郊外に着く。無理にでも王都に入るか、それともあと一泊野宿をするか微妙なところで、考えるための質問だった。


「ああ。一刻も早くシスツィーア嬢を治癒したい。何か問題でも?」

「いや。夜中でも城に入るのは可能か?」

「レオンがいるから問題ないと思うぜ」

「となると、明日は」


ルークが地図を広げて考え始めると、オルレンがこそっとレオリードに尋ねる


「彼の処遇はどうなりますか?」

「・・・・・わからない」


レオリードはゆっくりと首を横に振る。


シスツィーアを探しに来たのは彼女を『保護』する為であって、王都を出たときにはこんな状況は想定してなかった。


シスツィーアのこの状態は、誰かが意図的にシスツィーアを傷つけようとしているとしか思えなくて


(やはり・・・・・・マリナ、か・・・・・・?)


シスツィーアを傷つけたい人物なんて、レオリードにはマリナしか思い浮かばない。


それに、シスツィーアと反比例するように魔力が飽和状態になったアラン。


アランがなぜ急にあんな状態になったのかも分からないままだし、シスツィーアが『女神の部屋の扉』を開けるのかもはっきりしていない。


謎ばかりがレオリードの前に積み上げられ、そしてその全ての鍵を握っているのはシスツィーア。


だから、レオリードにもルークが今後どうなるのか見当もつかなくて


(ルークからも話を聞くべきだが)


ルークにも詳しい話を聞くべきだと分かっているが、話を聞いて、シスツィーアを救うために力を貸してくれているルークを、処罰するようなことは避けたくて聞けずにいるのだ。


(君が、目覚めてくれたら)


敷物の上に寝かせたシスツィーアへと手を伸ばし、そっと手を取る。


「おい、もう魔力は流す必要ねぇぞ」

「分かっている」


まだ城までは距離があるから、ここでレオリードが無理をして足を引っ張るわけにはいかない。


それでも、シスツィーアに少しでも触れていたくて、そっと手に口づける。


「ん・・・・・・・・」


ぴくり


シスツィーアの瞼が動いて


「シスツィーア嬢!?」


慌ててシスツィーアを抱き起して、必死に呼びかける。


「どけ!」


このまま目を覚まさせようと、ルークがシスツィーアの口に何か流し込み


「お・・・・・みず・・・・・・?」

「気が付いたか!?」


ぼおっとした視線がレオリードに向けられる。


完全には目覚めていないが、意識を取り戻しそうで


口の端からはルークが飲ませたものがつーっと溢れて、レオリードは慌てて手で拭う。


また瞼が閉じられようとして


「駄目だ!」


シスツィーアの手を握りしめて、身体を揺さぶって


必死になって呼びかける。










どれくらい、それを繰り返しただろう







「レオ、リード・・・・殿下・・・・・?」









まだぼんやりした視線のまま、掠れた声がレオリードの名を呼んだ。


最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話は11月15日投稿予定です。

お楽しみいただければ幸いです。

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