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はじまりの物語  作者: はあや
本編
311/431

王城へ ②

「あ、ああ。すまない、キアル」


キアルとオルレンの存在をすっかり忘れていたレオリードが謝罪するけれど、キアルはレオリードではなくルークへ真っすぐに対峙して


「アンタがルクルス・マーシャル?」

「そうだ」

「聞きたいことはいろいろあるけど、レオンに何させた?」


シャッと音がなり、キアルは腰から短剣を抜いてルークへと向ける。


「なっ!キアル!?」


レオリードは慌てて立ち上がろうとするが、キアルに目で制されて浮かしかけた腰をまたベッドへと下ろす。


「状況は良く分からないが、シスツィーア嬢へレオンは魔力を流したんだよな?なぜ、王族であるレオンがシスツィーア嬢へと魔力を提供しないといけない?」


王族であるレオリードがシスツィーアへ魔力を流すなんて、常識的にあり得ない。


さすがに眠っているシスツィーアに非があるとは思っていないし、アランとシスツィーアの関係がはっきりするまではその身柄を確保し、安全を保障することにキアルとて異論はないが、それとこれとは話が別だ。


いくらレオリードの頼みとはいえ、そして同じ建物内だからすぐに合流できると、マーシャル家の者がレオリードを害することはないだろうと、軽く考えて了承したことにキアルは苦い思いしかない。


半分八つ当たりと自覚しながらも、キアルはルークへ問い詰めることをやめられなくて


「王族を顎で使うなんて、許されない暴挙だよな?それに、シスツィーア嬢が何でそんな状態になってるんだ?」


ルークは眉間にしわを寄せて、臆すことなくキアルを見つめ返す。


ほんの少し動けば短剣がルークの喉へと当たるのにものともしない姿に、キアルは苛立ちが抑えられなくて


「答えろ!」

「キアル!俺が、俺がやると」

「だからと言って、本当ならルクルス・マーシャルがやるのが筋だろ?理由を説明しろよ」


キアルの声に含まれた怒りに気が付いたレオリードが慌ててルークを庇おうとするけれど、キアルはルークに向けた短剣を下ろすことなく


「レオンは黙っててくれ」


他人へ魔力を渡すなんて、医療者であっても滅多にない行為。


それをまだ学生のレオリードに行わせたルークへ、そしてなによりもそばを離れたことでレオリードを危険に晒したと、後悔でキアルは自分自身への怒りが湧いていて


レオリードとてキアルの怒りは理解できる。けれど、「やる」と言ったのはレオリードであって、ルークから言われたからではない。だからルークへの怒りは筋違いだけれど、レオリードとてシスツィーアがなぜこんな状態になったのかも知りたいから、強くキアルを諫めることも出来なくて


「・・・・・・嬢ちゃんがこんな状態になった理由は、オレにも分からん」

「それで?」

「・・・・・・・・オレの魔力は、朝、嬢ちゃんへ流した。そっから、まだ全快じゃあねぇ」

「今朝?ずいぶん短いな」

「ああ。王子がやんなきゃ、オレがやっていただろうが、嬢ちゃんを救えたかは分かんねぇな。最悪、共倒れだ」

「ですが、殿下にさせることではなかったのでは?」


オルレンもキアルの隣に立ち、ルークへ非難の視線を向けるけれど


「王子の魔力なら問題ないと踏んだ。実際、何ともなかっただろ」


すっと目を細めて、キアルとオルレンより背の高いルークはふたりを見下ろす。


「嬢ちゃんの状態は一刻を争った。あのままだと死んでただろうな」

「っ!」


ルークが淡々と放った言葉に、レオリードはまだ握りしめたままだったシスツィーアの手をさらに強く握りしめる。


「だから!」

「ルクルス卿、あなたはシスツィーア嬢を救うためにはレオリード殿下が魔力が必要だったと、あれが最善だったと、そう断言できるのですか?」


思わず怒鳴りそうになるキアルを制して、オルレンが抑えた声で尋ねる。


オルレンとてレオリードの行為は予想外で、レオリードがシスツィーアへ魔力を流しているのを見つめながら、離れるべきではなかったと自己嫌悪に陥っていたのだ。


それでも、それが必要なことだったのであれば


(必要なことだったのであれば・・・・・・・まだ、飲み込める)


幸いレオリードは無事だった。このことを教訓として、今後は絶対にそばから離れなければいい。


起こってしまったことは取り返しがつかないから、せめて納得したい。


そんなオルレンの思いが伝わったのか、ルークは肩をすくめて頷く。


「ああ。あれが最善だった」

「キアル、オルレン、心配させてすまない。だが・・・・・・・同じ状況になったら、俺はまた同じようにする」


シスツィーアから手を離すことなく、レオリードはふたりを真っすぐに見上げて


「すまない」


レオリードの心からの謝罪に、キアルとオルレンはそれ以上何も言えずにレオリードからそっと視線を逸らして


何とも言えない気まずい雰囲気にのまれそうになるけれど、それよりもレオリードには気になることがあって


(さっきの、ルークが言っていたことが本当なら・・・・・・)


朝から魔力を補充したのに、夕方にはまた足りなくなっている。


それほど、シスツィーアの『器』が大きいと言うこと


(・・・・・・・王都まで、移動に耐えられるか?)


レオリードはシスツィーアへと視線を落とす。レオリードの魔力がどれほど持つのかは分からないけれど、王都まで約二日。その間にもシスツィーアは魔力不足に陥るだろうし、魔力を補充するとなると休息も多く必要だ。レオリードの回復を考えてると、もっと日数がかかるかもしれない。


なにより


「・・・・・・・・シスツィーア嬢は、王都まで・・・・・・」


持つのだろうか?とは口にすることができず、けれどキアルたちには伝わったのか、はっと息をのむ音が響いて、ルークも顔を険しくする。


「さあな。出来ねぇことはないだろうが、魔力を補充しながらの移動は簡単じゃあねぇ」


シルジの街まで、シスツィーアが魔力不足にならなかったから2日かからずに来れた。それよりも日数がかかるのは想像に難くないし、なによりも魔力の回復が追い付かなければ、シスツィーアは魔力不足で死ぬしかない。


けれど、このままシルジの街にいてもシスツィーアの問題を解決できそうにはなくて


ルークからも迷いが伝わって、レオリードは逡巡するけれど


「ん・・・・・・・」


不意に繋いだままのシスツィーアの手が動いて、微かに開かれた唇から声が零れる。


「シスツィーア嬢!?」


レオリードが身体をシスツィーアへと向けて、名を呼びかける。


けれど、瞼が開かれることはなくて


「ん・・・・・・・・・や・・・・・・・・」


シスツィーアの声は弱弱しく、眠ったままの表情はそれまでと変わることはなくて


身じろぎすることもなく、うなされているわけではなさそうだけれど、指先が微かにピクピクと動いて


ぎゅ


安心させるように、レオリードが強く握りしめるけれど、シスツィーアの手からすっと力が抜けて


「・・・・・・・・・・王都へ、戻る」

「レオン?」

「殿下?」


(迷っている暇はない)


アランとシスツィーアの魔力が繋がっているのなら、シスツィーアを、アランを救うために二人を再会させる必要がある。


(このままここにいても、シスツィーア嬢は・・・・・・・)


シスツィーアの手を包み込むように上げると、そっと手に口づける。


(必ず、助ける)


すっと立ち上がると、レオリードはキアル、オルレンとじっと視線を合わせて


言葉を交わすことはないけれど、レオリードの決意が伝わったのかふたりが頷く。


レオリードも頷き返すと、最後にルークと真っすぐに向き合って


「ルーク、協力してくれ」


険しい顔つきのままのルークへと、視線を逸らすことなく頼んだ。




最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話は11月8日投稿予定です。

お楽しみいただければ幸いです。

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