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はじまりの物語  作者: はあや
本編
31/431

初日

いよいよ今日から本番。


通勤にどれくらい時間がかかるか分からないから、かなり早めにシスツィーアは家を出た。


まだ朝早かったから乗合馬車は出発前で、出発まで待って乗っても、途中で停まることや着いてから支度することを考えると、間に合うか微妙なところ。


仕方ないから、歩いて城へ向かうことにする。


人の通りもまばらで、歩きだが思ったよりも早く城へ着き、使用人用の通用口から入り更衣室へ向かう。


用意してもらったロッカーに荷物を入れて、シャワー室へ。


まだ涼しかったからあんまり汗もかいてないけど、念のために軽くシャワーを浴びて髪を乾かす。


邪魔にならないように髪をまとめて、持ってきた制服に着替え終わるころには、先日案内をしてくれたメイドが出勤してきた。


「おはようございます。先日はありがとうございました」

「おはよう。今日から出勤?」

「はい。さっそくシャワー使わせてもらいました」

「ふふっ。備え付けのシャンプーとか、なかなか良い使い心地でしょう。『試しに使ってみてください』って、新商品が出るとお店の人が試供品くれるのよ」

「そうなんですね。どうりで、家のよりさらさらになりました」

「うん。今日もおかしなところはないわ。大丈夫よ」


話しながらシスツィーアの身支度をチェックしてくれる。


そんな事をしているうちに、そろそろ出勤時間だ。


「いってらっしゃい。頑張って」


まだ始業時間まで余裕があるメイドに見送られて、アランの部屋へ向かう。


「おはようございます」

「おはよう」


扉の前にいる護衛騎士に挨拶して、アランへ入室の許可を取ってもらい部屋の中へ入ると、アランはソファーに座って、お茶を飲んでいた。


「おはよ、ツィーア。いらっしゃい」

「おはよう、アラン。調子はどう?」

「んー。少しだるい。ね、手」

「はいはい」


先日と同じように、両手を重ねて魔力を循環させて


「ふう。やっと楽になった」

「どれくらいの間隔でした方が良いのかしら?」


ほっと肩の力を抜いて安心した表情のアラン。


シスツィーアは首を傾げながら一度手を離す。


「んー。今みたいに循環させただけだと、僕の体内に残るのは一週間ないくらいかな?」

「じゃあ、あなたに『渡す』感覚でやってみるわね」


今度はアランの右手をとり、シスツィーアの左手と重ねる。


一方通行で流れる感覚がして


「どう?」

「うん。この前より身体に残ってる」


アランはさっきよりも顔色がよく、目も生き生きと輝いている。


一方のシスツィーアは、どっと疲れて肩が落ち気味で、全体的に身体が重い。


「ツィーア、大丈夫?顔色悪いよ」

「ええ・・・・。少し疲れたわ。身体に魔力がないのが分かるわね」


ソファーに深く腰掛け、少し楽な姿勢をとる。


「ごめん。これから兄上のとこに行くのに」

「大丈夫よ。けど、明日からはわたしが帰る前にしても良いかしら?」

「もちろん!ありがとう」


もうしばらく休みたいと思ったが、もうすぐレオンとの約束の時間だ。シスツィーアは気合を入れて立ち上がる。


「行きましょう」


その後、レオリードの執務室へ二人は向かい、今後の方針を教えてもらう。


「夏季休暇の間に、騎士団や魔道術師団との顔合わせをしておこう。日程はオルレンとシスツィーア嬢で決めてくれ」

「分かりました。シスツィーア嬢、レオリード殿下の予定はこちらにありますから・・・・・・」


各所と相談しての日程調節もオルレンの仕事なので、シスツィーアも必死でメモを取りながら覚えていく。


「アランは、顔合わせでなにをしたいかだが」

「兄上は、初めての顔合わせでなにしたの?」

「そうだな・・・・」


アランはレオリードのしたことを尋ね、自分に出来そうな範囲で決めていく。


このなかでは唯一教え子のいないキアルだが、二人が教師役をしている間、二人の分も仕事をしているから暇なわけではなく、なかなか忙しかった。


大体始めて二時間くらいたった頃、レオリードはアランの様子を見て、今日はこの辺りで区切ろうと決める。


「今日はこの辺りでやめておこう。オルレン、お茶を入れてくれるか」

「はい。シスツィーア嬢、執務中にお茶をお淹れするのも私の役目ですから」

「はい。教えてください」


午後のお茶の時間はメイドが軽食と一緒に用意してくれるが、午前中は執務を邪魔されたくないレオリードの意向で、各自で勝手に淹れて飲むかオルレンが淹れている。


だからこの執務室には、三人の好みの茶葉が置いてあるんですよと、お茶を淹れながらオルレンが教えてくれた。


今日はレオリードの好みの茶葉でお茶を淹れて、五人でテーブルを囲むことになった。


アランは今までお茶を楽しむこともできず、出されたものを飲んでいたので、好みの濃さとか茶葉とかこれから探すことになる。


「どうだった?やれそうか」

「ううっ。頭いっぱい。覚えることありすぎだよ」

「ははっ。すぐに覚えるさ。ゆっくりでいい」


アランは疲れた顔で、お茶を口に入れている。


椅子にずっと座っていることも今まではなかったから、長時間座り続けるのも疲れるし、なにより知らないことだらけで頭がパンクしそうだ。


「シスツィーア嬢は」

「・・・・・え?すみません!ちょっと、ぼーっとして」


声を掛けられたシスツィーアは、カップを手に持ったままぼーっとしていて、反応が遅れて慌てる。


「無理をしなくて良い。まだ初日だ」

「そうですよ。間違えて覚える方が厄介ですからね。一つずつ覚えていきましょう」

「ありがとうございます」


レオリードとオルレンの二人に励まされ、ふわっとシスツィーアが微笑む。


そのまま今日はお開きになり、アランとシスツィーアは執務室を出て行った。






「あんな笑顔もできるんだな」


キアルとオルレンも昼食のために部屋を出て行き、レオリードも王族用の食堂へと向かう途中で、さっきのシスツィーアのどこか気の抜けた笑顔を思い出していた。


疲れてぼーっとしていたから、どこか無防備だったのだろう。


今まで見たことのない、ふわっとした笑顔。


その笑顔を見たとき、なぜかとくっと胸が鳴った。


(もっと笑えば良いのに)


もっと、彼女の笑った顔が見たいとそう思った。


最後までご覧いただき、ありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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