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はじまりの物語  作者: はあや
本編
305/431

癒せない傷

シスツィーアが眠りに就いたあと


「くそっ!コイツもかよ!」


ルークはシスツィーアの治癒を続けるけれど、娼館にある治癒の魔道具も領主の館から持ってこさせたものも、シスツィーアの傷を癒すことは出来なくて、魔力を流しても滞る感覚があるだけだ。


舌打ちをしながらルークが魔道具を外す。シスツィーアが言った通り、このまま治療していくしかないかと、胸のガーゼを取り替えようと寝巻きの前ボタンへと手を伸ばして


「あん?」


シスツィーアの首に付けられたチョーカーの、透明だった石が薄っすらと赤く色づき始めていることに気づく。


「まさか!?」


慌ててシスツィーアの右腕を見ると、エリックが付けた腕輪の石も同様に薄っすらと赤い色に変わっていて


「っ!魔力がなくなってんのか!?」


体内の魔力量を測定する機器。それに取り付けられている、体内の魔力量を表示する石と同じ色を帯び始めたことに、ルークの顔色が変わる。


(このままだと、嬢ちゃんは死ぬぞ!?)


ぞっと背筋が寒くなり、間違いであってほしいと、ルークはシスツィーアの右腕を取るとその手の平に口づけて魔力を流す。


シスツィーアがアランに渡していたように、手から魔力を流せるのならそれが一番良いのだが、ルークにはそれができない。マーシャル家で起こった事故の影響か、幼いころより魔力を体外に出す器官に障害があり、魔道具を起動させる程度なら問題はないが、今のように多くの魔力を流そうとするときには、口から息を吹き込むように魔力を流すしかないのだ。


魔力が足りないなら、流した魔力はすぐにシスツィーアへと流れていく。そう考えたルークだが、魔力は治癒のときと同じように入り口で留まり、流れることはなくて


「っ!ああ!」


ルークが気合とともに、手と唇から一気に魔力を流す。無理やりにでもシスツィーアの身体に魔力を巡らせようと、しばらくそのまま流し続けると石はまた透明に戻り、ルークは自分の考えが当たったことでぞわっと背筋が寒くなって、シスツィーアを起こそうと乱暴に肩を揺さぶる。


「っそ!おい!嬢ちゃん!?」


シスツィーアの怪我など気にする余裕もなくルークは肩を揺さぶるけれど、シスツィーアはなんの反応もなくて


それにルークも、一気に魔力を消費したことで身体がくらっと傾いて、シスツィーアを避けながらもベッドへとどさりと倒れ込む。


(・・・・・・しばらくは、無理だな)


魔力がずいぶんと減ったことで身体の疲労感が凄まじく、軽く上がった息を整えて最後にはぁっと大きく息を吐くと、ルークは寝たままシスツィーアへと顔を向ける。


エリックが付けた腕輪、マリナが付けたチョーカー。


両方とも「個人が保有する魔力」に干渉する魔道具であることは疑いようもない。


(魔道具が使えなかった理由はこれか・・・・・・どうする・・・・・・・)


魔道具を起動するためには、患者の身体にも魔力がないと治癒できない。患者の魔力が足りない状態で魔力を流すと、治癒よりも生命維持に必要だと勝手に魔力は患者自身に流れるのだ。


だから、シスツィーアの傷が治癒できなかったのは、魔道具ではなくシスツィーアの魔力の問題。


ルークは無我夢中だったが、冷静になるとルークの魔力は随分と減っている。それだけシスツィーアに流れたということだが、それはシスツィーアがそれだけ魔力を必要としているということで・・・・・・・


(嬢ちゃんの身体、どうなってんだ)


ルークとて公爵家に名を連ねているだけあって、その辺の貴族たちより魔力量は多い。シスツィーアの魔力量が多いことはルークも分かっていたが、それでも流れた量の多さは想像以上だ。


それに、他者からの魔力は魔力性質が似ていなければ受け取った側に苦痛が伴う。


シスツィーアには苦痛が見られないから、魔力性質が似ているのか、それとも身体が魔力を必要としすぎていて苦痛を感じることすらできないかのどちらかだ。


しばらく横になったあと、ルークはふうっと息を吐きながらゆっくりと起き上がる。


これだけ魔力を流したのだからシスツィーアは当分大丈夫だと思いたいが、それにしてもシスツィーアに『腕輪』が付けられてから10日余り。もっと早くに魔力不足になっていてもおかしくはないのに、これまで石の色が変わらなかったのも不可解なこと。


マリナが付けたチョーカーのせいかとも思うけれど、そもそも「魔力に干渉する」魔道具をマリナが持っていたこともおかしな話で、ルークには分からないことだらけだ。


考えたところで仕方ないと思いながらも、ルークはシスツィーアに付けられた魔道具へと視線を向ける。


他者の魔力に干渉する魔道具は、開発も所持も重罪。


それをエリックが知らないはずはなく、どんな理由があってシスツィーアにつけたのか、今更ながら気になって仕方なくて


せめて腕に付けられた魔道具はどうにかして切れないかと、ルークはハサミを持ってきて試すけれど、切れることはなくハサミの刃がボロボロになっただけだ。


(仕方ねぇな)


ひとまずガーゼを取り替えようとシスツィーアの胸元を広げる。ガーゼには少量の血がついているものの、傷口からは新たに血が流れていることもなく、薄っすらとかさぶたになっていて治療の必要はなさそうで


シスツィーアの目が覚めたら身体を拭くなりして、また血が出るなら考えようと、寝間着のボタンを留めてルークは部屋をあとにした。








夕方


「ああ!くそっ!」


リステンと娼館そしてシルジの街の代官の仕事を片付けたルークは、再びシスツィーアの元を訪れていた。


仕事の合間にも様子を見に来てはいたが、シスツィーアは目覚める気配もなく眠ったまま。


ルークも起こすことはせず、魔力を回復させるためにも寝かせていたのだが、シスツィーアの石が再び薄っすらと色づき始めていることに気が付いて、慌ててシスツィーアの手を取り魔力を流す。


けれど、さっきよりも魔力の流れが悪いようで


「おい!嬢ちゃん!?」


揺さぶり起こそうとするけれど、シスツィーアの身体はピクリとも反応することはなくて


「っ。仕方ねぇな」


ルークは険しい顔のままシスツィーアの上にまたがると、寝間着をはだけさせて傷口に口づけて魔力を流す。


傷口からルークの魔力が体内に入れば、シスツィーアの魔力が回復するかと思ったのだが・・・・・・


こめかみや肩。少しでも流れていかないかと試すけれど、魔力を受け付けるどころか僅かしか入って行かなくて


「・・・・・無理か」


チョーカーも腕輪も石の色は透明に変わることはなく、むしろだんだんと赤色は濃くなってきている。


「・・・・・・・・恨むなよ」


あまりやりたくはなかったが、背に腹は代えられない


シスツィーアの上に乗ったまま、ルークはゆっくりと顔を近づける


片方の手でシスツィーアの頬に触れて、顎を親指で押さえて


微かに開かれたシスツィーアのくちびるへ、ゆっくりとルークは自分のくちびるを寄せる。


そのまま重ねて、そこから魔力を流そうとすると


バン!!


乱暴に扉が開かれて


「なにをしている!!」


はぁはぁと息を切らしながらも、ルークを睨みつけるレオリードがいた。



最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話は10月26日投稿予定です。

お楽しみいただければ幸いです。

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