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はじまりの物語  作者: はあや
本編
249/431

異変 ②

「どういうこと?」


朝起きて多少は怠いものの、自分の身体が思い通りに動いて


アランは呆然として呟いた。








『女神の部屋』への扉が開けなかった。


アランは魔力を使ったせいでぐったりする身体を、ロイに支えられながら王宮に戻った。


(明日からは、また寝たきり)


力は入らないけれど、ぐっと拳を握って


落ち込む心を、それ以上考えないようにすることでなんとか保って


アランは少しでも魔力を回復できるように、必死な思いで夕食を飲み込むと、すぐにベッドへ入って休んだのだが・・・・・


翌日


メイドがシャーッとカーテンを開く音が部屋に響いて


「おはようございます。お目覚めのお時間です」


声をかけられ、無意識に「ん」と昨日までと同じように起き上がって


促されるまま顔を洗うと、意識がだんだんはっきりして


そこでおかしいと、さあーっと背筋が寒くなり


「どういうこと?」


と呟いたのだ。




手渡されたタオルで無意識に顔を拭き、メイドに返して


そのまま状況を整理しようと、頭のなかをフル回転させて


(なんで!?たしかに、昨日魔力は・・・)


『女神の部屋』を開けようとして、アランにとっては大量の魔力を使った。


それなのに・・・・・


「殿下?如何なさいました?」

「なんでもない」


急に顔色の悪くなったアランに、メイドが心配そうに声をかけるけれど、相手をする余裕なんてなくて


(魔力が回復している・・・・・)


魔力は『体力』と同じで使ったら減り、休むことで回復する。


身体が『疲れ』たときと同じように、回復の程度は人それぞれ違うけれど、大量に魔力を使ったとしても2、3日


専門家ではないから、詳しい仕組みはわからないけれど、高位貴族になるにつれ保有する魔力量は多くなるが、回復も早い。だから、王族のアランは大量の魔力を使っても回復が早いことになるけれど・・・・


これまで魔力が『不足』していたアラン。


シスツィーアに補ってもらって、やっと生活していたのに、誰かに魔力を貰ったわけでもないのに、魔力が回復して生活できる


それはアランにとっては異常なことだ。




(おかしい。こんなこと、これまでなかった)


使った魔力が翌朝には回復している。


そんなこと、もう覚えていないけどきっと幼かったころ以来


(まさか)


シスツィーアが除籍された日の夕方、『カチッ』と音がして、



まるで、それまで繋がっていたのに、急に遮断されたような感覚になり


『シスツィーアとの繋がりが切れた』


そんな考えが浮かんで


あの日アランはシスツィーアのことが心配なあまり、有りもしないことが浮かんだと、そう無理やり不安を押し込めたけれど


(まさか、本当に?)


本当にシスツィーアとアランの魔力は繋がっていた?


(僕の魔力は兄上じゃなくて、ツィーアに流れていた?)


それなら、アランがシスツィーアから魔力を貰っても拒絶反応がでなくて当然だ。


けれどレオリードには『流れた』とわかったのに、シスツィーアに『流れていた』のは分からなかった。


それはなぜ?


(ツィーアは気がついてた?)


香夜祭の日にお見舞いに来たシスツィーア。


なんだか様子が違って見えたのは、アランの気のせいだろうか?


(僕が参加しないから、一人で他の候補者と話すことになって、気負ってたからだと思ってたけど、このことに気がついて悩んでた?)


それはあり得る話で


「ちょっと待ってよ」


せっかくメイドが整えた髪を、ぐしゃっとかきあげて


いつからシスツィーアが気づいていたのか、アランは記憶を探り


(ツィーアの様子、その前にも・・・・・)


おかしなところなかった?


はっとして口元を手で覆う。


(あの日・・・・・)





『アランの魔力は・・・『護符』に・・・流れて・・レオリード、殿下に・・流れる・・・なら、『護符』が消えた今は?』


『なにか・・・感じる?』



レオリードの部屋での出来事のあと、目覚めたアランを見上げて尋ねてくるシスツィーアは、どこか必死で泣きそうで





(兄上の『護符』が消えた日、ツィーアは気がついた?)


あのとき、アランにはシスツィーアの魔力が流れてきて、アランの魔力はレオリードへ流れていった。


同じように、シスツィーアも何か魔力の流れを感じたのなら?


そこから、何かに気づいて閃いたのなら?




(とりあえず、ツィーアは何を知りたかったか、だよね)


必死に思い出しながら考えて



(えっと『護符』が消えたあとも、僕の魔力が兄上に魔力が流れているか・・・ってこと?)



あの尋ねられたとき、アランはなにも感じなかった。と言うよりも、レオリードに触れていたわけではなかったから感じることがなかったのだ。


(試してみよう)


急いで身支度を済ませて、食堂へと歩き出す。


「おはよう、アラン。体調は良さそうだな」

「おはよう」

「おはようございます、父上、母上」


朝食を済ませて公務へ向かう両親と食堂の入口ですれ違うが、ふたりはアランの様子がいつもと違うことに気づいていない。


食堂ではリオリースが食べ始める頃で


「おはよう、アラン兄上。どうしたの?なんか焦ってる?」

「おはよ、リオン。兄上は?」

「まだ来てないよ」

「おはよう、アラン、リオン」


タイミング良くレオリードが食堂へ来て、ふたりへ笑いかける。

けれどその顔は憂いを帯びていて、目元にはうっすらとくまもある。


「おはよ、レオン兄上」

「おはよ。ねえ、手貸して」

「?」


急に言われて面くらうレオリードに向かって、アランは手を差し出す。


状況が分からずに戸惑うレオリードに、「早く」とアランが催促して


言われるままレオリードが手を差し出すと、ぐいっと遠慮なしにアランはその手を引っ張って


「・・・・・やっぱり」


レオリードへ魔力は流れていかない


(いつから?)


『護符』がなくなってから?


シスツィーアが尋ねたときに、すぐに試さなかったことが悔やまれるけれど


(ちょっと待って)


香夜祭でレオリードに腕を引っ張られた。あのとき、魔力は気にならなかった。


(そうだよ。兄上に身体を支えてもらうなんて、これまでも沢山あったけど感じないことが当たり前だった)


そうでなければ、とっくの昔にアランはレオリードを調べさせていた。


(『護符』が絡まなければ・・・・・)


『護符』を触ったあとでなければ、レオリードに触れられて魔力が流れるなんて、感じなかった。


(神殿に行った日は、神殿にある『護符』に触れたから?)


『護符』の意味が似ていて、同じように作用したのかもしれない


(えーっと)


考え込み始めるアラン。

レオリードは戸惑いながらも手をアランに差し出したままで、リオリースは「アラン兄上ー?」と声を掛けても気づかれなくて


「アラン兄上!食べないと授業に遅れるよ!」


リオリースがわりと本気で怒るまで、アランはレオリードの手を握ったままだった。

最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話は6月13日を予定しております。

お楽しみいただければ幸いです。

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