監禁 ②
「嬢ちゃん、昼はどうする?食いたいもんあるか?」
朝食を食べたばかりなのに、ルークはシスツィーアにそんなことを聞いてきて
「申し訳ないけれど・・・・」
「しっかり食っといた方が良いと思うぞ」
「その・・・・入らないのよ」
食べる気力がなくて残したけれど、そもそもの量も多かったのだ。
(残してしまったけれど、どちらにしろあれ以上は食べれなかったわね)
無理やり全部食べていたら、きっと今ごろはお腹が痛くなってベッドの上で苦しんでいたはずだ。
「あ?量が多かったか?」
「ええ」
こくっと頷くと、ルークは顔を顰めて
「あれでか?あー、わーった。昼はなしで、昼過ぎに茶と適当に軽食持ってくる。食べたいものは?嫌いなもんはあるかよ?」
「・・・・・好き嫌いはないわ」
本当は苦手なものがあるのだが、それを言って弱みを握られたくはない。ルークは「そうか」と気にすることもなく、持って来た駕籠のなかをごそごそとして
「シャワー使うか?」
「え?ええ・・・・・」
いつの間に用意されていたのか、タオルと着替えを渡される。
「オレは昼過ぎまで来ねぇから、他に欲しいもんは?」
「・・・・・・・・・」
「ま、なんかあれば言え。そうそう、嬢ちゃんの魔力は使わせるなってアイツから言われてっから、魔道具にはオレが魔力入れとく。切れねぇうちに早く入れよ」
「え?」
シスツィーアの魔力が切れるのをエリックは待っているのでは?
そう思っていたから、できるだけ魔力を使わせないようにというのが理解できなくて
首を傾げると、
「あ?嬢ちゃんが逃げねぇようにってアイツがつけた魔道具で、嬢ちゃん魔力扱いにくくなってんだろ?」
「え、ええ」
どうやらルークは、魔道具は魔力を扱いにくくするための物だと説明を受けているようで
これからどうなるか分からないけれど、できるだけ魔力を温存しておきたいから、ルークが魔道具に魔力を入れてくれるのはシスツィーアにとっても助かることで
「それに、この屋敷で魔力使うと他の奴らにも嬢ちゃんがいること気付かれっからな。嬢ちゃんは魔力使うな。良いな?」
「わ、分かったわ」
鋭い目つきで言われて、シスツィーアは慌てて頷く。
(だから・・・・魔道具が、この部屋にはないのね・・・)
地下にあるのにこの部屋が適温を保っているのは、快適に過ごせるように館全体に魔道具が張り巡らされているのだろう。
大掛かりな魔道具だから細かな調節がしにくくて、シスツィーアいる地下牢も館と同じように空調装置が作動して快適に過ごせるようになっている。
それなら、窓は開いたままなのに、空気が冷たくなることがないのも納得ができる。
この部屋に灯りがないのも、シスツィーアに魔力を使わせないために外してあるのだとしたら
いつの間にか考え込んでいたらしく、気が付けばルークが「じゃ、大人しくしてろよ」と部屋を出て行くところで
考えても仕方ないし、考える時間はいくらでもあるからと、ひとまずシャワーを浴びて気分転換をすることにして
用意してあったシャンプーもリンスも、ボディソープも「王室御用達」と言われるお店の商品で香りも良いし、洗いあがりもお肌はしっとりだし髪もサラサラのつやつやで
湯舟がないのが残念だけれど、ゆっくりシャワーを浴びて、喉が渇いたからと水差しの水を飲むとセイリアの実を使った果実水で、程よい冷たさが喉に心地よい。
渡された着替えは白いワンピースとで、さらりとした着心地で襟と裾の部分には可愛らしいお花柄の刺繍が施されている。ここから出すことはないと言われたのに、部屋着にしては豪華すぎるし、こんなときなのにシスツィーアは可愛らしいワンピースに心が弾んで
髪を乾かす魔道具はないから、タオルで念入りに拭く。
さすがに髪が濡れたままベッドに入るのは躊躇われるから椅子に腰かけて
何もすることがないから、エリックが置いていった本を開く
タイトルは『恋の物語』
パラパラとめくってみると、結婚を反対された恋人同士が周囲を説き伏せ、数多の苦難を乗り越えて結ばれる物語。
(公爵が・・・・買ったのかしら?)
本の装丁はしっかりしているし、表紙にも貴婦人が好むような細やかな装飾もあって、挿絵も付いていて、富裕層向けに作られた物だと分かる。
恋愛小説をエリックが読むとは考えにくいから、きっとこの本はマリナかエリックの奥方の物で
本の奥付を見ると、発行されたのは約20年前。
それならマリナではなく
(公爵の奥さまの物かも)
シスツィーアの親世代に流行っていた本だと思うと少しだけ興味が湧いて、ページをめくって読み始める。
恋愛小説なんて、ゆっくり読むのはずいぶんと久しぶりで
そのまま、ルークが戻ってくるまで読みふけっていた。
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
次話もお楽しみいただければ幸いです。




