二人の魔力
再開いたしました。
少しでもお楽しみいただけたら幸いです。
アランから指定された時間は、お昼を少し過ぎたころ。
「いらっしゃい」
「本日よりお世話になります」
「堅苦しいのは良いよ。ね、こっちきて」
初日だからと、王族に対する礼をとり挨拶するシスツィーア。
けれど、今日は体調がすぐれないらしく、アランはベッドで上半身を起こしている。
ベッドの横に置かれている椅子に座ると、メイドもベッドの近くへテーブルを寄せてお茶の用意をする。
お茶とお菓子を準備しテーブルに並べると、メイドは予め指示されていたようで部屋を出て行いった。
「体調はどう?」
「うーん。いつも通り?ねぇ、手を握ってくれない?」
「ええ」
シスツィーアがアランの両手をとる。
すると、意識したわけではないのに、シスツィーアから魔力がアランの方へ流れるのが分かる。
しばらくすると、今度はアランから魔力が流れてきてシスツィーアに戻ってきて、またアランへと循環している。
「やっぱりね」
さっきまでとは違って、アランは顔色も良く声もしっかりしている。
反対にシスツィーアは日頃とは違う魔力の流れ方だからか、くらっとめまいが起こり身体も重く疲れてしまって、思わずアランから手を離して左手で頭を抑える。
「ねえ、おかしいと思わない?普通なら親でも兄妹でもないなら、こんなに魔力が流れることもない。それに拒絶反応があってもおかしくないのに、痛みもないでしょ?魔道具も使ってないのに」
「そう言えばそうね。わたしも・・・・・自分の身体以外に魔力が流れたのに、魔力が流れる面積が増えただけって感じだったわ」
「けど、この前僕が君の手を取って魔力を引き寄せたら、君は痛みで気を失った」
「ええ。今思うと、あれはむりやり魔力を奪われた感じ?ううん。わたしが渡したいわけじゃないのに、意志に反して奪われたから抵抗していたのかしら?」
「おかしいよね?んじゃ、次はこの魔道具使うから、また手を握ってくれる?」
言われた通りに手をとり同時に魔道具へ触れる。
明かりを灯す魔道具で、問題なく明かりがついた。
本来なら、違う魔力の二人が同時に触れると、魔道具は使用できない。ばちっと静電気が起きて、一瞬光るだけだ。
「やっぱり、わたしとあなたの魔力は同じってこと・・・?」
「そうとしか考えられないよね。僕の体調もだけど、いつもなら身体が重くて思うように動くことができないんだ。いつも『身体を動かす最低限の魔力』しかなくて、激しい動きなんてできない。君と会った日もそうだよ。あの日は朝から妙に気分が良かったし、外側の庭の散歩なんて数年ぶりだった。君と会って魔力を引き寄せてからは、身体が軽くて思うように動いて、食事だってテーブルで摂れたし、一日起きていられて、お茶会だって初めてできた。今日だってそうだよ。朝からは起き上がることも出来なかったのに、君が城に来たころ?お昼前くらいから急に起き上がれるようになったんだ。それに君が側にいるだけで呼吸がしやすい。いまだってただ魔力を循環させただけなのに、すぐに身体が軽くなったし、一度にこんなに長く喋ったのも初めてだ」
よっぽど嬉しいのか、勢いよく話す上機嫌のアラン。
「ねえ、赤の他人で魔力が同じ人間がいるなんて、今までもあったのかしら?」
「分からない。それでね、そこから調べてみない?図書館の使用許可ならとってあるし、僕の側近だから、事前に申請すれば魔道術師団のも見せて貰えるから」
言いながらサイドテーブルの引き出しを開けて、アランが小箱を取り出す。
「開けてみて」
中にはアランと同じ瞳の色をした宝石が付いたネックレスが入っていた
「側近になったからね。分かるように用意したんだ。それを付けていれば、僕の側近ってわかるから、城の中では外さないでね」
「目印ね。ありがとう。綺麗な石ね」
早速首に着けてみる。チェーンも肌なじみが良くて、石のカットも綺麗な上品なデザイン。
眺めながら、ふと背筋がひやりとする。
(すっごく高そう。・・・・失くしたら)
考えただけでも恐ろしい。
「高いんでしょうね。すっごく」
「ふふっ、失くさないでね。あと仕事なんだけど、僕、今まで公務とかできなかったから、具体的に何するとか分かんないんだよね。僕の補助してもらうことになるし、どっか行くときは同行してもらうことになるんだけど・・・。詳しくは兄上に聞いて教えてもらおうと思って」
「ええ。分かったわ」
「それと君って一年生だよね?週に二日は兄上の所で、生徒会の仕事してくれる?王族って在学中に生徒会の仕事をするんだけど、僕の代わりに。今は夏季休暇だっけ?いつからするかも兄上に聞いてみよう」
「あ、そう言えば、任命書が届いたときにもらったんだけど、お仕事の時ってお仕着せ?制服的な物はないのかしら?」
アランと打ち合わせながら、ついでにもらった書類を見せて、用意するものを聞いていく。
「んー。キアルみたいな騎士の側近はあるけど、オルレンはどうだっけ?大体似たような格好してたと思うけど・・・・」
「オルレンさまに聞いてみるわ。それまでは制服でいいかしら?」
「大丈夫だと思うよ。学生だしね」
「それと、ドレスって必要?」
「んー。僕、今まで夜会にも参加したことないから、今後参加するならいるかも。特に君は女性だし、僕に婚約者はいないからパートナー役してもらう可能性もあるし」
「そう・・・・・」
どれだけ費用が掛かるか、シスツィーアの顔が曇る。
「それもオルレンに聞いてみよっか。まだ時間ある?兄上のとこ行ってみよう。仕事の話もあるしさ」
そう言って、用意されたお茶を飲み干して、アランが立ち上がった。
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