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はじまりの物語  作者: はあや
本編
222/431

アラン ③ ~お願い~

「アラン?どうしたんだ?」


兄上の部屋を訪ねると帰城していて、部屋にはキアルとオルレンもいて。


「う・・・ん。あのさ・・・」


歯切れ悪く、口を開いては閉じるのを繰り返して


(緊張する・・・)


兄上に頼みごとをするのも、迷惑を掛けたことだって山ほどあるのに、改めて「力を貸して欲しい」って頼むのは、気恥ずかしいよりも緊張して


(だけど僕が頼れるのって、やっぱり兄上しかいないんだよね)


心臓がドクドクと音を立てるし、いつもより鼓動も早くて


「あんまレオンに迷惑かけんなよー。昨日だって大変だったんだからな」

「キアル!」


キアルがちょっと顔を顰めて僕へ言うと、隣でオルレンが窘めてくれる。


「いいよ。昨日はごめん。迷惑かけて」

「そうそう。反省しろよなー」

「キアル!アラン殿下も、お気になさらないでくださいね」

「いや。体調不良は仕方ないが、無理して悪化しては元も子もない。シスツィーア嬢だって心配していただろう?アランはもう少し」

「その、ツィーアのことで、頼みがあるんだ」


兄上が「シスツィーア嬢」と言っただけなのに、胸の辺りがズドンと重くなって、思わず兄上の言葉を遮る。


いつもとは違う緊迫した声だったからか、みんなが僕に視線を向けて


「シスツィーア嬢のこと?アラン、何かあったのか?」

「・・・・・・」


兄上に頼むために来たけれど、いざ口にするのはなぜだか躊躇われて


(頼んでも大丈夫かな?)


そんな不安が心を支配して


「アラン?何があった?」


いつの間にか俯いていた視線を上げて顔を向けると、兄上の瞳には真剣さが宿って、空気も緊張したものに代わっている。


「・・・・・・頼みがあるんだ」

「頼み?」


ぎゅっと口を結んで、眉間にしわが寄ってしかめっ面っぽくなって


けれどそれは、嫌だからとか屈辱を感じているとかじゃなくて、緊張のあまり顔が強張ったと言うのが正しくて


「アラン?」

「ちょっと待って」


なかなか話せずにいる僕に兄上が首を傾げるけれど、僕にとっては一世一代の「お願い」


(難しく考えるからだよね。簡単に・・・)


難しく考えることじゃない。


ツィーアを探したいけれど、僕だけの力じゃ探すことは難しいから


だから、兄に頼る。


(ただそれだけのことだよ)


自分自身を納得させて


ふぅっと大きく息を吸って、ゆっくり吐いて


それを数回繰り返して


「おい、いったい」

「しっ。キアル、静かに待ちましょう」


痺れを切らしたキアルをオルレンが窘めてくれて、みんな静かに言葉を待っててくれる。


(ありがと、オルレン)


少しだけ肩の力が抜けて、待っていてくれることに感謝して、最後に大きく息を吸うと


「ツィーアが・・・・・除籍、された」


言いたくない、口にしたくないけど、吐き出すように、絞り出すように言葉にする。


「「「はっ!?」」」


兄上たちの声が重なって、目は見開かれて


「家からも追放されて、いまは行方知れずなんだ。僕は彼女を探したい」


ばくばくする心臓。


喉はカラカラで


頭の芯が、どこかぼおっとして


「協力・・・して、欲しい・・・・お願い、します」


そう言いながら、深く腰を折る。


「っ!」

「おいっ!」


すぐにキアルの怒りを含んだ声が響き、


「殿下、顔を上げてください」


焦ったオルレンの声に、唇を噛みしめながらゆっくりと顔を上げる。


そのままじっと三人を、一人ずつと目を合わせて


「お願い・・・ツィーアを探すのを、手伝って」


人に頼みごとをするのは初めてじゃない。


だけど、こんなに真剣に


断られたくないと、断られたらどうしようと


心のなかを、不安や恐怖でいっぱいにして


そんな想いを抱いて、頼みごとをするのなんてはじめてで


ごくっと喉が鳴る。


頼む声は震えているし


気を抜いたら、目には涙が浮かびそうで


こんなに真剣に、誰かに頭を下げるなんて、はじめてのこと


(ツィーアのためだから、嫌とは思わないけれど)


悔しいと思うけれど、それは頼る事がじゃなくて、頼るしかない自分が情けないから


そう、ただそれだけの、こと



最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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