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はじまりの物語  作者: はあや
本編
202/431

香夜祭前日 ~シスツィーア~

「すまない、シスツィーア嬢。アランが急に体調を崩して」


いよいよ香夜祭を明日に控えた日の午後


今日の授業は午前中で終わりとなり、午後からは生徒会室で準備を始めていたシスツィーアは、レオリードにそっと呼ばれて


会場設営を手伝うために、一緒に中庭へ向かいながら、申し訳なさそうに切り出された。


「え・・・あの、大丈夫でしょうか?」


ここ2日は香夜祭の準備で忙しくて、シスツィーアがお城に行くことができなかったから、魔力が足りないのだろうか?


それとも、アランも王太子教育が忙しくて、無理をして体調を崩してしまったとか・・・?


(両方あり得るわ。夏にも体調を崩していたもの)


急に忙しくなって、精神的にも肉体的にも負担がかかることばかりで、魔力も不安定になってしまって、アランの体調が崩れたのだとしても、不思議はない。


「あの・・・お見舞いに」

「気持ちはありがたいが、君まで体調を崩してはいかない。香夜祭は明日だ。今日は無理をせずに、終わったらすぐに帰って、少しでも身体を休めて欲しい」

「・・・・はい」


そう言われてしまっては、シスツィーアには何も言うことができなくて


「それで、明日だが」

「はい」

「アランは大事を取って、欠席させようと思う」


レオリードの言うことはもっともで、シスツィーアも頷く。


「はい。その方がいいと、わたしも思います」

「ありがとう。それで、ドレスだが」


アランが欠席するなら、シスツィーアがドレスを着る理由はない。


あのドレスはアランと参加するときのものだと、シスツィーアは考えていたけれど


「明日、俺が持ってくるから、安心して欲しい」

「えっ!?」


思わず足を止めて、大きな声を上げる。


「あっ、あの!あのドレスは、アラン、殿下と参加するためのものです。明日は、制服で」

「ああ。アランの側近である君が制服では、なにかと外聞が悪い。それに、ドレスはアランが考案したと公表する。君には着て欲しい」


なぜだか「やっぱり」と、そんな顔で見下ろされて


アランが側近候補を選ぶときの話題にもなると、そう言われては、シスツィーアには断ることは出来ない。


(・・・大丈夫・・・かしら・・・?)


「あの・・・香夜祭は、生徒の・・・だから、アランが来ないなら・・・公表しなくても」


アランが来なくてもドレスを着ないといけないなら、ひっそりと参加したい。


それにアランが来ないのに、ドレスだけ説明されても生徒は困るだろう。


香夜祭は生徒同士の交流の場なのだから、その邪魔をしたくない。


(アランが参加できなくなったことも、言わなければ)


生徒はアランが参加すると知らないのだから、わざわざ「参加できなくなった」と言わなくて良いのでは?


(急に参加できないなんて、まだ体調に不安があると、良くは思われないわよね?)


そんなことを考えて


「ドレスは、着ます。だから、ドレスのことは聞かれたときだけ、答えたらだめでしょうか・・・?」

「・・・そうだな。香夜祭は生徒のためのもので、アランの披露目の場ではない。君の言う通りだ。明日はアランのことは言わずにいよう。指摘してくれて、ありがとう」


シスツィーアがおずおずと言うと、レオリードも視野が狭くなっていたと、アランのことだけしか考えていなかったと反省して、シスツィーアのドレスのことは必要なら話すと、そう約束する。


「すみません。せっかく考えてくださったのに、失礼なこと言って」


シスツィーアはレオリードが受け入れてくれて良かったと、小さく微笑む。


(ドレスを着て、パートナーがいないから、ダンスは踊らずに控えていよう)


下位貴族のシスツィーアが、身分に合わない高級品を身に付けて参加しては、いくらアランが見立てたものとは言え「身の程も弁えずに」と、上位貴族の機嫌を損ねてしまう。


アランが参加できないのなら、尚更、目立たない方が良い。


(・・・大丈夫よ、ね)


絡まれて、アランの評判を下げたくない。


アランが参加しても、しなくても。悩みのタネは尽きなくて


そんな不安が顔に出ていたのか、レオリードは安心させるように微笑み


「生徒会の者にだけは、「アランが贈った」と話しておこう。俺が説明するし、せっかく誂えたドレスだ。アルにも見てもらえば良いし、ダンスも楽しんで欲しい。それに・・・どうしても気になるなら、一曲踊ったあとに着替えると良い」


シスツィーアのことを考えて、負担にならないように提案してくれるレオリード。


「はい・・・お気遣い、ありがとうございます」

「いや。急なことで、君にも負担を掛けてしまい、すまない。着つけのメイドも」

「大丈夫です・・・・その、そこまでして頂いては、申し訳ないので・・・一人で」


さすがに、アランが来ないのにメイドに来てもらうわけにはいかないと、断ると、レオリードもそれ以上は何も言わずに、「分かった」とだけで


「アランに、お大事にと、お伝えください」

「ああ。伝えよう」


再び並んで、歩きはじめる二人。


中庭に着くと、すぐに分かれて、それぞれの受け持ちの仕事を始める。


だから、そんなふたりの会話を、こっそり聞いている者がいたことに、気が付いてなかった。




最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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