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はじまりの物語  作者: はあや
本編
201/431

香夜祭前日 〜同母弟兄弟〜

「具合はどうだ?」

「ん・・・最悪・・・」

「アラン兄上、なんだってこんな日に熱出すかなぁ」


香夜祭もいよいよ明日という日の朝。


アランは目が覚めた後に起き上がろうとして、激しい眩暈に襲われて


「っ・・・・!」


なんとか堪えて上半身を起こすけれど、身体を支えることはできなくて、すぐにベッドに倒れ込んで。


すぐに医師が呼ばれ診察を受けるけれど


「・・・・お身体に異常は見受けられません。ただ、少々の熱がございますので、無理は禁物かと」

「明日は、香夜祭に出席する予定だったんだ。どうにかならない?」

「・・・・・申し訳ございません」


ベッドに横になっていると普通に話せるし、眩暈も感じないけれど、起き上がろうとすると、また眩暈に襲われてベッドに倒れ込んで


休むことが優先だと、今日の予定は全てキャンセルになる。


そうなると当然、明日の外出も取りやめになって・・・・


「せっかく・・・・だったのに」


悔しさで落ち込むアランへ、朝食のあとに見舞いに来たレオリードとリオリースは、掛ける言葉も見当たらなかった。


「無理して行って、倒れたら大変だもん。仕方ないよ」

「ああ。生徒たちとは、また会う機会を設けよう」

「・・・うん」


はぁっと、大きなため息をつくアランだけれど、こればかりは仕方ない。


けれどアランが休むからと言って、シスツィーアまで欠席するわけにはいかなくて


「ね、兄上。ツィーアだけど」

「ああ。彼女には参加してもらおうと思うが、構わないか?来年のこともあるしな」

「うん。せっかくの学園祭だもん。僕のせいで楽しめないなんて、嫌だし。あと、ドレスだけど」

「そうだな。せっかく用意したんだ。ドレスは彼女に着てもらえばいい」


きっとシスツィーアのことだから、


「アランが来ないなら、ドレスを着る必要はないわ」


と、そう言うのは目に見えている。かと言って、「それは駄目だ」と言ったところで、新しいドレスを用意できるかと言えば、急にそんなことは無理で


「アランも参加しないし、制服で良いわ。生徒会の仕事をしていれば、誰も何も言わないと思うし」


そう言って、制服で参加して裏方に徹してしまうと、アランもレオリードも、簡単に想像できて



「ドレスだけでも、アランが考案したと広めよう。側近候補と話す時の話題にもなる」

「そうだね。前日にいきなり自分で用意なんてできないし、僕の落ち度だもん。よろしくね」

「ああ」


ふたりの間では、とんとん拍子に話が進んだのだが、


「え?あのドレス着るの?アラン兄上いないのに?」


リオリースはなぜだか微妙な顔をして、兄二人に「やめておいた方が」と言い出して


「何か問題が?」

「そう言えば、この前も気にしてたね。なにかあるの?」

「っていうか・・・なんであの色にしたの?」


兄二人が首を傾げているから、リオリースは自分が間違っているのかと、気にしすぎなのかと心配になりながら、おずおずと尋ねてみる。


「え?香夜祭って夜にあるから、あの手の色のドレスも多いって聞いて」

「ああ。実際に、去年も一昨年も紺色や深い青色を着ている者はいた。アランがどんなドレスを贈ったのか、実際に見てはいないから分からないが、青を基調に濃淡をつけたのだろう?」

「・・・・・そう」


リオリースはいろいろ考えて悩んでいたのに、それは考えすぎだったようで


(けど、なにも考えずにあの色ってどうなの?マリナさまもいるんだよね?)


マリナがあのドレスを見たら、どう思うだろうか?


(きっと怒り狂うよね)


リオリースからすれば、レオリードたちに文句を言えない分、シスツィーアにつらく当たるのは明らかで


「でも、やっぱりアラン兄上が出席しないなら、ツィーアさまはあのドレス、着ない方が良いような気がするけど」

「そう?」

「リオン、なにを心配しているんだ?」


レオリードがリオリースを覗き込んで、尋ねるけれど


「アラン兄上がいないのに・・・ドレス着たら・・・ツィーアさまは、居心地悪いよ」


リオリースもはっきり言うことができなくて、それでも懸命に伝えようとするけれど


「アランが来ないとは言え、シスツィーア嬢はアランの側近として参加せざるを得ない。当然注目を浴びるし、ドレスがなければ、シスツィーア嬢だけでなくアランか侮られる」


アランが王太子に内定したことは、学園中が知っている。


口には出さなくても、香夜祭に参加するのではないか?そう考える者は多く、レオリードもそれとなく尋ねられたこともあった。


アランが参加できなくても、シスツィーアは「唯一の側近」と言うことで注目される。


そのときに制服でいれば、アランは参加する予定がなかったのだと生徒は落胆し、参加予定だったと言えば、シスツィーアはドレスも用意できないと、アランはパートナーにドレスを用意することもしないと、侮られる。


それはこれから王太子としての道を歩むアランには、避けなければならない


だからレオリードは、シスツィーアがアランのパートナーをする予定だったと公表し、その上でドレスの説明をするつもりだった。



「ん・・・・そうだね」


リオリースもそのことは分かっているから、それ以上は言えなくて。


せめてシスツィーアが過ごしやすいようにと、


「ツィーアさまが嫌な思いをしないように、レオン兄上、気を付けてあげてね」

「ああ。もちろんだ」


力強く頷く長兄に、リオリースは不安に思いながらも頷いて



ドレスは明日、学園に持って行くことにして、レオリードは通学のために部屋を出る。


「ね、リオン」

「なに?」


黙ってベッドに横たわって、ふたりの会話を聞いていたアランは、レオリードがいなくなると固い声で


「頼みがあるんだけど」







最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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