香夜祭前日 〜同母弟兄弟〜
「具合はどうだ?」
「ん・・・最悪・・・」
「アラン兄上、なんだってこんな日に熱出すかなぁ」
香夜祭もいよいよ明日という日の朝。
アランは目が覚めた後に起き上がろうとして、激しい眩暈に襲われて
「っ・・・・!」
なんとか堪えて上半身を起こすけれど、身体を支えることはできなくて、すぐにベッドに倒れ込んで。
すぐに医師が呼ばれ診察を受けるけれど
「・・・・お身体に異常は見受けられません。ただ、少々の熱がございますので、無理は禁物かと」
「明日は、香夜祭に出席する予定だったんだ。どうにかならない?」
「・・・・・申し訳ございません」
ベッドに横になっていると普通に話せるし、眩暈も感じないけれど、起き上がろうとすると、また眩暈に襲われてベッドに倒れ込んで
休むことが優先だと、今日の予定は全てキャンセルになる。
そうなると当然、明日の外出も取りやめになって・・・・
「せっかく・・・・だったのに」
悔しさで落ち込むアランへ、朝食のあとに見舞いに来たレオリードとリオリースは、掛ける言葉も見当たらなかった。
「無理して行って、倒れたら大変だもん。仕方ないよ」
「ああ。生徒たちとは、また会う機会を設けよう」
「・・・うん」
はぁっと、大きなため息をつくアランだけれど、こればかりは仕方ない。
けれどアランが休むからと言って、シスツィーアまで欠席するわけにはいかなくて
「ね、兄上。ツィーアだけど」
「ああ。彼女には参加してもらおうと思うが、構わないか?来年のこともあるしな」
「うん。せっかくの学園祭だもん。僕のせいで楽しめないなんて、嫌だし。あと、ドレスだけど」
「そうだな。せっかく用意したんだ。ドレスは彼女に着てもらえばいい」
きっとシスツィーアのことだから、
「アランが来ないなら、ドレスを着る必要はないわ」
と、そう言うのは目に見えている。かと言って、「それは駄目だ」と言ったところで、新しいドレスを用意できるかと言えば、急にそんなことは無理で
「アランも参加しないし、制服で良いわ。生徒会の仕事をしていれば、誰も何も言わないと思うし」
そう言って、制服で参加して裏方に徹してしまうと、アランもレオリードも、簡単に想像できて
「ドレスだけでも、アランが考案したと広めよう。側近候補と話す時の話題にもなる」
「そうだね。前日にいきなり自分で用意なんてできないし、僕の落ち度だもん。よろしくね」
「ああ」
ふたりの間では、とんとん拍子に話が進んだのだが、
「え?あのドレス着るの?アラン兄上いないのに?」
リオリースはなぜだか微妙な顔をして、兄二人に「やめておいた方が」と言い出して
「何か問題が?」
「そう言えば、この前も気にしてたね。なにかあるの?」
「っていうか・・・なんであの色にしたの?」
兄二人が首を傾げているから、リオリースは自分が間違っているのかと、気にしすぎなのかと心配になりながら、おずおずと尋ねてみる。
「え?香夜祭って夜にあるから、あの手の色のドレスも多いって聞いて」
「ああ。実際に、去年も一昨年も紺色や深い青色を着ている者はいた。アランがどんなドレスを贈ったのか、実際に見てはいないから分からないが、青を基調に濃淡をつけたのだろう?」
「・・・・・そう」
リオリースはいろいろ考えて悩んでいたのに、それは考えすぎだったようで
(けど、なにも考えずにあの色ってどうなの?マリナさまもいるんだよね?)
マリナがあのドレスを見たら、どう思うだろうか?
(きっと怒り狂うよね)
リオリースからすれば、レオリードたちに文句を言えない分、シスツィーアにつらく当たるのは明らかで
「でも、やっぱりアラン兄上が出席しないなら、ツィーアさまはあのドレス、着ない方が良いような気がするけど」
「そう?」
「リオン、なにを心配しているんだ?」
レオリードがリオリースを覗き込んで、尋ねるけれど
「アラン兄上がいないのに・・・ドレス着たら・・・ツィーアさまは、居心地悪いよ」
リオリースもはっきり言うことができなくて、それでも懸命に伝えようとするけれど
「アランが来ないとは言え、シスツィーア嬢はアランの側近として参加せざるを得ない。当然注目を浴びるし、ドレスがなければ、シスツィーア嬢だけでなくアランか侮られる」
アランが王太子に内定したことは、学園中が知っている。
口には出さなくても、香夜祭に参加するのではないか?そう考える者は多く、レオリードもそれとなく尋ねられたこともあった。
アランが参加できなくても、シスツィーアは「唯一の側近」と言うことで注目される。
そのときに制服でいれば、アランは参加する予定がなかったのだと生徒は落胆し、参加予定だったと言えば、シスツィーアはドレスも用意できないと、アランはパートナーにドレスを用意することもしないと、侮られる。
それはこれから王太子としての道を歩むアランには、避けなければならない
だからレオリードは、シスツィーアがアランのパートナーをする予定だったと公表し、その上でドレスの説明をするつもりだった。
「ん・・・・そうだね」
リオリースもそのことは分かっているから、それ以上は言えなくて。
せめてシスツィーアが過ごしやすいようにと、
「ツィーアさまが嫌な思いをしないように、レオン兄上、気を付けてあげてね」
「ああ。もちろんだ」
力強く頷く長兄に、リオリースは不安に思いながらも頷いて
ドレスは明日、学園に持って行くことにして、レオリードは通学のために部屋を出る。
「ね、リオン」
「なに?」
黙ってベッドに横たわって、ふたりの会話を聞いていたアランは、レオリードがいなくなると固い声で
「頼みがあるんだけど」
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