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はじまりの物語  作者: はあや
本編
19/431

マリナ・マーシャル公爵令嬢 ①

マリナ・マーシャル公爵令嬢


この国に4つある公爵家の一つであり、建国当初から続く由緒正しいマーシャル家の一人娘で、レオリードの婚約者。


彼女を見た瞬間、シスツィーアは入学した日のことを思い出し、この状況をまずいと思いながら、ごく自然に見えるようにさりげなくレオリードから手を離し、マリナに向かって上位貴族に対する礼をとる。


「マリナ、来ていたのか」

「はい。側妃さまにお茶に呼んでいただきました」


マリナはレオンに一礼すると、シスツィーアへ視線を向ける。


「殿下?どうしてアルデス令嬢がご一緒に?」

「ああ。アランがお茶会へ招待したんだが、途中で退席してしまって。送っていくところだ」

「アラン殿下が?珍しいですわね」


マリナはレオリードの婚約者として、一度だけ会ったことがある。


マーシャル家主催のお茶会へ招待状を送っても、いつも丁重に断られていたし、レオリードやマーシャル家当主である父からも、ベッドに臥せっている話しか聞いたことがない。


だから、本当かと疑わしくなるのも当然のことで


「恐れながらレオリード殿下。発言をお許しください」


シスツィーアが礼をとったままの姿で発言を求める。


「あ、ああ。どうかしたか?」

「わたしはこちらで失礼させていただきます。どうぞ、マーシャル公爵令嬢とお過ごしください」

「いや、だが・・・・。そうだな。キアル、私の代わりにシスツィーア嬢を送ってくれ」

「は」


少し下がっていたキアルが、頭を上げたシスツィーアへ手を差し伸べる。


「行こうか」

「はい。ありがとうございます」


マリナの視線を感じながら、シスツィーアはキアルのエスコートでその場を離れる。


自然に見えるよう慌てず焦らず歩くことで、シスツィーアは精一杯だった。






シスツィーア・アルデス子爵令嬢。


マリナがちらりとレオリードへ視線を向けると、マリナではなく彼女の姿が見えなくなるまでレオリードはずっとシスツィーアを見ていた。


マリナと同じAクラスの下位貴族。


実際の魔力量は分からないが、魔道具を使う授業でもマリナと同じように難なく行うことから、少なくとも侯爵家クラスはあると窺える。


夏季休暇前に行われた期末試験の結果もそうだ。掲示板に張り出された各科目の上位10名。はっきりとした点数は書いてないし、科目によってはBクラスの者がいたりもする。けれど、その全ての科目の上位10名に、マリナはもちろんのことシスツィーアも入っていた。


それだけでも、公爵令嬢としてはプライドを刺激されるのに、彼女は容姿も整っている。


守ってあげたくなるほど小柄な身体、女性の憧れである女神の髪色、白い肌や小さなふっくらとした唇、意志が強そうな瞳にふとした時に感じる気品。


クラスでも居心地が悪いはずなのに、いつも背筋をピンと伸ばした姿勢を崩さず、卑屈になる様子もみられない。


今はまだ可憐さが目立つが、成人する頃にはきっと美しさと気品を兼ね備えた女性となること間違いない。きっとまわりの男性も放ってはおかないだろう。


マリナもこの国では平均的な女性の身長と、大きな青い瞳が印象的な可愛らしい容姿。


少しふんわりとした雰囲気とそれにあった話し方は相手の警戒心を解き、下位貴族にも分け隔てなく接する姿から、心優しき令嬢として知られていた。


なによりも、レオリードの母親である側妃から気に入られている。


シスツィーアに劣るところなど何もなくて、彼女のことを気にする必要はまったくない。それは分かっているものの、なぜだか婚約者であるレオリードは彼女を気にかけていて、マリナは心が穏やかではいられないのだ。


(お優しい殿下のことですもの。下位貴族の方がAクラスにいることを、心配されているのね)


それだけのことと分かっていても、気に入らない。


シスツィーアと別れた後オルレンの勧めで、マリナはレオリードと一緒に王族しか立ち入ることのできない中庭を散歩した。


いつも通り穏やかな笑顔を向けられ、マリナの歩調に合わせて優しくエスコートされる。


秋の終わりにある学園祭『香夜祭』では、役員としての仕事があるからずっと一緒にはいられないが、その代わりにドレスを贈ろう。


よければ最初のダンスも踊って欲しいとレオンから言われ、微笑みながら「喜んで」と返事をする。


将来はマーシャル家へ臣籍降下するレオリードが、跡継ぎであるマリナを蔑ろにするはずはない。


容姿も人柄も婚約者として申し分のないレオリード。結婚してもマリナを大切にしてくれることは間違いないし、なによりこの国で彼以上にマリナに相応しい男性はいない。


レオリードの隣に、マリナ(わたくし)以外がいることは許さない。


それが嘘偽りのないマリナの気持ち。


(彼女が弁えているなら、いいのだけれど)


自分の敵になる価値もないシスツィーア(子爵令嬢)


Aクラスなのは仕方ない。


下位の者でも、優秀な人材を登用していくのは国王の決めた国の方針だ。


クラス編成にしても、最終的に決めるのは国王を含めた国の重鎮たちで、口を挟むのは賢明とは言えない。


(このまま卒業まで大人しくしていれば、見過ごして差し上げるわ)


マリナにたてつくこともなく、授業だけ受けていればそれでいい。


だけど、シスツィーアを気にかけるレオリードに妙に心がざわついて


ぽとん。


マリナの心に黒いしみができた。




最後までご覧くださり、ありがとうございます。

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