レオリード ⑥ ~想い~
アランが倒れ、医師たちに運ばれたあと。
身体におかしなところはなかったが、念の為にリオンとともに医師の診察を受けた。
ふたりとも異常はなく、アランの様子は気になったが、部屋に戻って休むように医師に言われて
顔色が悪く、気落ちしているリオンをひとりにはしておけずに、リオンの部屋で並んでソファーに座っていた。
(・・・・さっきよりは、落ち着いたか?)
黙ったまま下を向いているが、部屋に戻ったばかりのリオンは、俺に抱きつくように身を寄せていた。
急にアランが倒れ、護符が光り、そして消えた
不可解なことが多すぎて、リオンには衝撃が強すぎたのだろう。
それでも時間とともに、落ち着いてきたのか、抱きつく手の力はさっきよりも弱い。
そっと頭を撫でてやりながら、今日のことを思い返す。
あのとき、アランへ『護符』を渡した後、アランは苦しみに顔を歪め、そして倒れた
(・・・・あの護符が、原因か・・・?)
アランの様子がおかしくなったのは、護符を手にしてから
けれど、理由が分からない。
それに
(俺が近寄るのを、支えるのを、嫌がった・・・)
「さわ・・・・んな・・・」
あんなに苦しそうにしているのに、助けるのを拒まれた
(手を・・・振り払われた・・・)
アランはどんなにきつくても、差し伸べた手を邪険にすることはなかった。
そのことが信じられずに、胸もざわついて
動くことができずに、呆然と見つめた先では
アランがシスツィーア嬢へ助けを求めて
(シスツィーア嬢はアランを助けようとして、それで・・・)
アランは彼女へ手を伸ばし、ふたりで床へ崩れ落ちて
(彼女の様子もおかしかった・・・・・)
アランの下敷きになっていたのに、抜け出したあと
「っ!やっ!」
アランへ触れたあとの、彼女の悲鳴が耳に残っている。
(何が起こった・・・・?)
それとも
(何が起こってる・・・?)
アランが抱きついたとき、彼女はアランから身体を離した
それに
(怯えていた・・・?)
青白い顔には、たしかに怯えがあって
それも僅かな時間の出来事
そのあとは、這うようにして彼女に近づき、また抱きついたアランを
シスツィーア嬢も抱き返して
「だい・・じょうぶ・・・・」
青白い顔のまま、懸命に微笑みかけていて・・・
その光景が焼き付いて、
胸が軋んで
そのせいか、身体が重く、動きが緩慢となり、その場から動けなかった。
(・・・・身体が・・動かなかった・・・・)
あの護符は・・・なんだと言うのだろう
アランの手からシスツィーア嬢が引き離した護符は、インクが流れてその原型をとどめてない。
薄っすらと、なにか描かれてあったと分かる程度
そのくらいしか、残ってはいない。
(あの護符が・・・・原因なのは、間違いない)
そして、その護符を見たいと言ったシスツィーア嬢は、いったい何を知っているのだろう?
アランも当然知っているはずだ。
なぜ相談してくれないのだろう・・・・・
そんなことを考えていると、
「ね、夕食に行く前に、アラン兄上のとこ行ってみよう?」
「・・・・そうだな。行ってみよう」
リオンの顔は青白く、いつもの明るさが見えないが、少しでも気が晴れるならと、ふたりで手を繋いでアランの部屋に向かう。
シスツィーア嬢が、アランの看病をしているのは聞いていた。
護衛騎士たちは部屋の外に立ち、異変があればすぐに気づけるようにと、微かに扉は開いていて
「ちょっと覗いてみて、まだ寝てるようならあとから出直す?」
「そうだな」
リオンとこっそり覗いた先には、彼女がベッドの横の椅子に座っていて
(泣いている・・・・)
肩を震わせて、泣いていて
不意に立ち上がって、アランが身体を起す
「良かった。目が覚めたみたいだね」
「そうだな」
リオンが安心したと、俺を見上げるのが気配で分かるが、ふたりから目を離すことができない。
「ね、邪魔しちゃ悪いから、あとから出直す?」
「・・・・そうだな」
腕を揺さぶられて、リオンを見下ろすと心配そうに見上げる。
「・・・・行こうか」
最後にちらっと、部屋の中を見ると
「っ・・・・・・」
さっきは、アランが彼女を抱きしめていた
いまは・・・
ぐいっ!
何も言わずに、リオンが腕を引っ張り、そのまま食堂へと向かい
そのあとのことは、よく覚えていない。
リオンに話しかけられながら、夕食を摂ったことは覚えている。
けれど、食事の内容もリオンとの会話も曖昧で
結局、アランとは会わずに部屋に戻り、寝支度を済ませてベッドへ入る。
けれど、入浴中も、ベッドの中でも
頭の中に、ぐるぐると今日の出来事が渦巻く
なぜ、アランはあんなに苦痛に顔を歪めた?
なぜ、シスツィーア嬢に助けを求めた?
なぜ、俺は動くことができなかった?
なぜ、俺はアランに拒絶された?
なぜ、話してくれない?
(あの『護符』は、何だと言うのだろう・・・・)
考えだしたら、きりがない
それに、
アランの見舞いに行ったときの光景
(ふたりは・・・・いつの間にか)
シスツィーア嬢とアランは、いつの間にか想いを通わせていて
泣いている彼女を、慰める異母弟
(駄目だ・・・・)
これ以上は考えてはダメだ。
アランはシスツィーア嬢を求め、彼女はそれに応えた。
それほどまでに、ふたりの絆が深まったのは、喜ばしいことだ。
「っ・・・」
ずきりと心が痛む。
これ以上は、ふたりの関係に、
勝手に想像を膨らませるのは
邪推するのは
無粋な
余計な
こと
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
次話もお楽しみいただければ幸いです。




