シスツィーア ⑤ ~涙と・・・~
気を失ってしまったアランから、離れることは出来なくて
「・・・・魔力量が、ずいぶんと低い。なにがあったんじゃ?」
医師が険しい顔つきで尋ねるけれど、答えることもできなくて
命にかかわる状態ではないけれど、機器の示す魔力量は低値。
ここ最近のことを考えると、医師が可怪しいと危機感を持つのは当たり前で
レオリード殿下のお部屋での事だったから、医師もそれ以上は問い詰めてくることもなく、ため息をつくだけだった。
そのあとは、アランの目が覚めるまでの、付き人を手配すると言われて
「わたしに、やらせてください。お願いします。目が覚めるまで、側にいさせてください」
そう頼み込んで、アランの看病をする許可をもらった。
(手が・・・・・冷たいわ・・・・)
アランの手を両手で握りしめたら、魔力は勝手にアランに流れていく。
だから、わたしは魔力が回復したら、アランの手を握って
魔力がある程度流れたら手を離して、自分の魔力を回復させて
そんなことを繰り返しながら、わたしはただ静かに、アランが目を覚ますのを待っていた。
「ん・・・・」
幾度となく繰り返して魔力を渡したら、アランが身じろぎをする。
けれど、目が覚める気配はなくて
(まだ・・・足りないのね・・・)
焦らず、ゆっくり、時間をかけて
アランの魔力が回復しているからか、だんだんと握った手には、あたたかさが感じられて
(・・・・っ)
アランの手があたたかくなっていくにつれて、だんだん胸が締め付けられて
「ふっ・・・・・」
ぽたぽたと、シーツに涙が零れた。
(あのとき・・・アランの手は・・・)
わたしに抱きついていたアランの手。
あのとき、アランと目があったあと、アランの手の力はなくなった。
(・・・わたしが、手を離したいと・・・気づかれた・・・)
アランに魔力が奪われていくのが怖くて
思わず身体を離した
それを気づかれて
だから、アランはわたしから手を離そうとした。
(こんなことになったのは・・・わたしの・・せい)
冷たくて、揺さぶっても、動かなくて
(わたしが・・・アランを・・・・・)
・・・・・・
「・・・ごめ・・ん・・なさ」
ぽたぽたと流れる涙を、必死に拭って
(泣いたらダメ。わたしが引き起こしたのに)
あのとき、崩れ落ちアランから離れたいと、少しでも思ってしまったわたしに、泣く資格なんて、ない
ぎゅっとアランの手を、両手で握って
魔力を流して、また回復させて
繰り返し繰り返し
やっと、あたたかさが、いつもの体温に近づいて
(良かった・・・)
まだ目が覚めてないから、安心はできない
だけど、冷たくて真っ青だったのに、あたたかさが戻って、頬も気のせいか赤みがさしていて
ほんの少しだけ、肩の力が抜けて
また、涙が溢れた。
「ん・・・・」
どれくらい、魔力を流したか分からないけれど
また声が聞こえて、慌てて涙を拭って、立ち上がって
「アラン・・・?アラン?」
声を掛けるけれど、瞼は閉じたままで
ぽた・・・・・ぽた・・・・・
(いけない)
アランの頬に涙が落ちて、慌てて手で拭うと
「・・・つぃ・・・あ」
「・・・アラ・・・ン」
アランが寝起きの、ぼんやりとした目でわたしを見て
「・・・・ここ・・・・」
「お部屋よ・・・・レオリード・・殿下の・・・お部屋で」
「・・・ああ」
掠れた声だけど、意識はしっかりあるみたい
「・・・・『護符』・・・は?」
「消えて・・・・しまったわ。覚えている?」
アランが握ったままの護符が、インクが流れて、消えて
あのときのアランは、もうほとんど気を失っていた。
そのことを覚えているかしら?
「・・・うん」
「待ってて、いま医師を」
その場を離れようとして、アランから腕を掴まれる。
「待って・・・医師が来たら・・話せない」
たしかに医師が来てしまったら、この話をすることは出来ない。
(大丈夫かしら?先に医師を)
そうは思うけれど、アランは手を離してくれなくて
仕方ないから、少しでも姿勢が楽になるようにと、アランの上半身を起こして、背中にクッションを当てて
「・・・・これでどう?」
「ありがと。ずいぶん、らく」
そのまま近くで話せるようにか、ベッドへ座らせられると、そっと頬をアランの手がなぞる。
「・・・・泣いてた?」
「・・・・・っ」
泣くつもりはなかったのに、その言葉でまた目には涙が溢れて
「・・・・っ・・・ふっ・・・・」
必死で泣き止もうとするけど、止まらない
レオリード殿下の部屋で、アランの身体が冷たくて
(このままだったら・・・どうしようって・・・)
このまま、二度と目が覚めなくなったら、死んでしまったら
そう考えると、こわくてしかたなくて
アランが目を覚ましてくれて、安心したせいか、また涙が溢れて
涙声になりながら、ときどき鼻をぐずぐずしながら、
「アランの・・・」
「うん」
「目が・・・覚めなかったら・・・って・・・・・」
(アランの・・・目が覚めて・・・本当に、良かった・・・)
「心配かけて、ごめん」
しゃくりあげるのがとまらなくて、謝らなくて大丈夫と、かわりに首を振る。
「泣かないで」
「・・・・ごめ・・・」
「他には?なにかあった?」
(ほかの・・・こと)
言われて、ゆっくりと思い出す
レオリード殿下の魔力が、流れてきたこと
(だから、気づいた・・・)
気が・・・つけた・・・
本当なら、話した方が良い。
けれど、話したくない
話せない
(話したら・・・・気づかれたら・・・・)
さっきの、魔力の流れで、気が付いたことに
アランには、まだ、気づいて欲しくない
どくどくと心臓が鳴って、声も震えそうになりながら
「わたし・・・混乱して・・・」
そう誤魔化した。
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
次話もお楽しみいただければ幸いです。




