まなざし
「どうぞ」
「お邪魔しまーす」
レオリードが部屋に招くと、リオリースは慣れた様子でさっさと中に入って
「えっと・・・・ここで・・・その・・・」
シスツィーアとしては、勢いで来たのは良いものの、いざレオリードの部屋だと思うと、婚約者のいる男性の部屋に入るのは非常識だと、躊躇われて
「レオリード殿下のお部屋に入るなんて、その・・・押し掛けておいて、すみません。ですが」
「いいから」
シスツィーアの背に手を回して、半ば押しやるようにレオリードは部屋に入れる。
「リオンもいるし、扉は開けておく。それなら、邪推する者もいないだろう」
「・・・・・はい」
レオリードはシスツィーアを、先にソファーに座っていたリオリースの隣に座らせ、自身は一人掛けの椅子に腰かける。
「これを見に来たんだろう?」
「・・・・はい」
テーブルの上には、すでに『護符』が用意してあった。
「ありがとうございます。写しても良いでしょうか?」
「かまわない」
「すみません。急いで写しますね」
「焦らなくていい」
シスツィーアは、最初は「男性の部屋に入るなんて」と、「急いで終わらせないと」といった焦りがあったけれど、集中するうちに、そんなこと頭から抜け落ちて
じっとわき目も振らずに、一心に描き写し始める。
「・・・・・・・・・・」
(ツィーアさま、集中してる)
シスツィーアが段々と集中していくのを、リオリースはずっと眺めていた。
(ツィーアさまって、可愛いのに、綺麗)
リオリースから見たシスツィーアは、アランとは打ち解けて自然に笑っている。そんな時は可愛らしいと思ったけれど、いま集中して描き写している姿は、凛として綺麗で
(不思議な人・・・・・)
リオリースもシスツィーアと一緒にいると、なんだか心がぽかぽかして楽しくて
アランがドレスの小物を、あんなに真剣に選ぶのも意外だったし、アランとシスツィーアのやり取りはとても自然で
シスツィーアといるときのアランは、とても生き生きとして楽しそう
そう感じてしまった。
(レオン兄上もかな?)
レオリードはアランとシスツィーアに公務を教えていたから、リオリースよりもふたりと仲が良い。
そっとレオリードへ視線を向けると
(・・・・・・・・・・っっつつつつつ!)
シスツィーアを見つめるレオリードは、リオリースがこれまで見たこともないくらい、柔らかで
静かに、ただ見ているだけなのに
リオリースが思わず顔を赤らめてしまうくらい、優しいまなざしをしているし、口元も綻んでいて
(えっ!?えっ?ええっ!?)
レオリードは邪魔をしないように、ずっと黙っているし、椅子に片肘をついて頬杖ついている
その姿自体はリオリースも見たことがあるけれど、それよりもなによりも
話しかけてはいけないと、そうリオリースにもわかるくらい
ただただ、シスツィーアを優しいまなざしで、見つめている。
(え・・・・これって・・・・・)
だんだんとリオリースは赤面していた顔が、すーっと冷えて、逆に焦りが出てくる
(マリナさまと・・・ちがう)
レオリードはマリナと、婚約者として打ち解けようとしているし、大事にもしているけれど
リオリースが見たことのある、マリナへ見せる顔のどれとも違っていて
(さっきのドレスもだし・・・・・いいのかなぁ?)
リオリースはまだ女性にドレスを贈るなんて、したことないけれど、話位は聞いたことがある。
婚約者にドレスを贈るときに、自分の髪色だったり、瞳の色だったりを使ったドレスを着てもらうのだと、そう教えられたのだ。
マリナがドレスを着たところなんて、ガーデンパーティーくらいだけれど、いつも明るい春のような色合いのドレスが多かった。
(うーん。貴族って、ほとんどみんな金髪だけど、レオン兄上はちょっと暗い色合いだし、瞳の色にしても、マリナさまが着ているのなんて、見たことないんだけどな)
それよりも、シスツィーアのドレスの方が、レオリードの瞳の色に近いと思ってしまって。
(ツィーアさまも気づいていないみたいだし、アラン兄上は気にもしてないし)
もしかして、レオリードがドレスの色に反対しなかったのは、自分を連想させるドレスをシスツィーアに着て欲しかったのだろうかと、
リオリースは邪推してしまった。
「終わりました。すみません、ありがとうございます」
「気にしなくていい。それより、俺も君が『護符』に興味があると知ったときに、言えばよかったな」
レオリードは本当に申し訳なさそうにしていて、シスツィーアも「レオリードがわざと黙っていた」とは思えなくて
「あの、レオリード殿下に無理を言ったのは、わたしですから」
『護符』を手にとって、レオリードに渡す。
「ありがとうございました」
(触っても、なんともないわ)
『護符』を手にとっても、レオリードに手渡しても
シスツィーアの魔力に、変化はなくて
そのことに、ほっとして
自然に笑みが零れた。
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
次話もお楽しみいただければ幸いです。




