表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はじまりの物語  作者: はあや
本編
179/431

まなざし

「どうぞ」

「お邪魔しまーす」


レオリードが部屋に招くと、リオリースは慣れた様子でさっさと中に入って


「えっと・・・・ここで・・・その・・・」


シスツィーアとしては、勢いで来たのは良いものの、いざレオリードの部屋だと思うと、婚約者のいる男性の部屋に入るのは非常識だと、躊躇われて


「レオリード殿下のお部屋に入るなんて、その・・・押し掛けておいて、すみません。ですが」

「いいから」


シスツィーアの背に手を回して、半ば押しやるようにレオリードは部屋に入れる。


「リオンもいるし、扉は開けておく。それなら、邪推する者もいないだろう」

「・・・・・はい」


レオリードはシスツィーアを、先にソファーに座っていたリオリースの隣に座らせ、自身は一人掛けの椅子に腰かける。


「これを見に来たんだろう?」

「・・・・はい」


テーブルの上には、すでに『護符』が用意してあった。


「ありがとうございます。写しても良いでしょうか?」

「かまわない」

「すみません。急いで写しますね」

「焦らなくていい」


シスツィーアは、最初は「男性の部屋に入るなんて」と、「急いで終わらせないと」といった焦りがあったけれど、集中するうちに、そんなこと頭から抜け落ちて


じっとわき目も振らずに、一心に描き写し始める。


「・・・・・・・・・・」



(ツィーアさま、集中してる)


シスツィーアが段々と集中していくのを、リオリースはずっと眺めていた。


(ツィーアさまって、可愛いのに、綺麗)


リオリースから見たシスツィーアは、アランとは打ち解けて自然に笑っている。そんな時は可愛らしいと思ったけれど、いま集中して描き写している姿は、凛として綺麗で


(不思議な人・・・・・)


リオリースもシスツィーアと一緒にいると、なんだか心がぽかぽかして楽しくて


アランがドレスの小物を、あんなに真剣に選ぶのも意外だったし、アランとシスツィーアのやり取りはとても自然で


シスツィーアといるときのアランは、とても生き生きとして楽しそう


そう感じてしまった。


(レオン兄上もかな?)


レオリードはアランとシスツィーアに公務を教えていたから、リオリースよりもふたりと仲が良い。


そっとレオリードへ視線を向けると



(・・・・・・・・・・っっつつつつつ!)


シスツィーアを見つめるレオリードは、リオリースがこれまで見たこともないくらい、柔らかで


静かに、ただ見ているだけなのに


リオリースが思わず顔を赤らめてしまうくらい、優しいまなざしをしているし、口元も綻んでいて


(えっ!?えっ?ええっ!?)


レオリードは邪魔をしないように、ずっと黙っているし、椅子に片肘をついて頬杖ついている


その姿自体はリオリースも見たことがあるけれど、それよりもなによりも


話しかけてはいけないと、そうリオリースにもわかるくらい


ただただ、シスツィーアを優しいまなざしで、見つめている。


(え・・・・これって・・・・・)


だんだんとリオリースは赤面していた顔が、すーっと冷えて、逆に焦りが出てくる


(マリナさまと・・・ちがう)


レオリードはマリナと、婚約者として打ち解けようとしているし、大事にもしているけれど


リオリースが見たことのある、マリナへ見せる顔のどれとも違っていて


(さっきのドレスもだし・・・・・いいのかなぁ?)


リオリースはまだ女性にドレスを贈るなんて、したことないけれど、話位は聞いたことがある。


婚約者にドレスを贈るときに、自分の髪色だったり、瞳の色だったりを使ったドレスを着てもらうのだと、そう教えられたのだ。


マリナがドレスを着たところなんて、ガーデンパーティーくらいだけれど、いつも明るい春のような色合いのドレスが多かった。


(うーん。貴族って、ほとんどみんな金髪だけど、レオン兄上はちょっと暗い色合いだし、瞳の色にしても、マリナさまが着ているのなんて、見たことないんだけどな)


それよりも、シスツィーアのドレスの方が、レオリードの瞳の色に近いと思ってしまって。


(ツィーアさまも気づいていないみたいだし、アラン兄上は気にもしてないし)


もしかして、レオリードがドレスの色に反対しなかったのは、自分を連想させるドレスをシスツィーアに着て欲しかったのだろうかと、


リオリースは邪推してしまった。




「終わりました。すみません、ありがとうございます」

「気にしなくていい。それより、俺も君が『護符』に興味があると知ったときに、言えばよかったな」


レオリードは本当に申し訳なさそうにしていて、シスツィーアも「レオリードがわざと黙っていた」とは思えなくて


「あの、レオリード殿下に無理を言ったのは、わたしですから」


『護符』を手にとって、レオリードに渡す。


「ありがとうございました」


(触っても、なんともないわ)


『護符』を手にとっても、レオリードに手渡しても


シスツィーアの魔力に、変化はなくて


そのことに、ほっとして


自然に笑みが零れた。


最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ