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はじまりの物語  作者: はあや
本編
173/431

王太子内定 ③

レオリードがアランの王太子内定の話を聞いたのは、定例議会の初日の夕食の席。


「父上!?今の話は、本当ですか?」

「ああ。本当だ」


驚きで目を見張るレオリードへ、シグルドははっきりと頷いたのだった。




『今日の夕食は全員揃うように』


そうシグルドから連絡を受けて、珍しく全員が揃って始まった夕食。


穏やかにはじまり、そしてデザートが供されたあと


シグルドは徐ろに、今日の議会の話をはじめて


「アランがセフィリア教の支持を得た。よって、これより3年かけてアランの資質を見極め、問題なければ王太子とする」


そう告げたのだった。




「おめでとう!良かったね、アラン兄上」


リオリースが、満面の笑みでお祝いを伝える。


「ありがとう。まだ正式じゃないけどね」

「大丈夫だよ。最近のアラン兄上、前よりも元気だしお勉強も頑張ってるもん」


リオリースが「お祝いにあげるね」と、にこにこしながらアランへ、デザートの果物を分けようとするけれど、


「好き嫌いは駄目だよ。自分で食べな」

「バレたか」


リオリースの苦手な酸味の強い果物だと気付き、すぐにアランが断ると、食堂には明るい笑い声が響く。


「おめでとう、アラン」

「ありがと、兄上」


目を細めて、嬉しそうなレオリード。


(本当に喜んでくれてる)


アランが知っている、どんなときよりも嬉しそうで


喜んでくれているのが伝わって


(僕は・・・・)


チクリと心が傷んで、レオリードを信じきれないことに、罪悪感を覚えた。


「これからは、アランへ王太子教育を施していく。レオリード、リオリース。これからもアランと仲良く、そして協力していくように」

「「「はい」」」


シグルドは笑みながら頷き、ミリアリザは事前に聞いていたのだろう。なにも言わないけれど、薄っすらと瞳を潤ませて顔を綻ばせている。


「ミリアリザは、これからも3人の教育に力を尽くして欲しい」

「かしこまりました。アラン、おめでとう。レオリード、リオリース、これからもよろしくね」

「ありがとう、母上」

「おめでとうございます、王妃さま。これからもご指導おねがいします」

「おめでとうございます!オレも頑張るね!」

「ありがとう、ふたりとも」


レオリードたちにも、ミリアリザが嬉しそうに微笑んで。


食堂のなかが、和やかなお祝いムードに包まれるなか、リネアラだけが淡々と食事を続けていた。


シグルドはリネアラへ視線を向け、穏やかに話しかける。


「協力は、してもらえるか?」

「陛下、ここでそのようなことをお尋ねになるのは、契約違反ですわ」


軽蔑を含んだ視線を、リネアラはシグルドへ向ける。


「母上!」

「良い!レオリード。すまない、リネアラ」


母を咎めようとレオリードが声を上げるも、シグルドが止め、リネアラへ謝罪する。


けれどリネアラはそのままの視線で、シグルドそしてミリアリザを見て、ふっとため息をつく。


「これでは協力しない、わたくしが悪者ですわね。王妃さまも、わたくしの息子たちをすっかり手懐けて」

「わたくしは、そんなつもりは」

「ええ。王妃さまのお人柄でしょう。レオリードとリオリースを、アランディール殿下と別け隔てなく育てて下さったこと、感謝いたしますわ。おかげでふたりとも、誰に恥じることのない立派な王子になりました」


淡々とした口調のままリネアラは言うと、王妃に微笑みかける。


(なに?)


アランの知る限り、リネアラがミリアリザに微笑みかけるなんて、ましてレオリードたちの養育に関してお礼を言うなんて、これまでなかった。


不穏なものが部屋に漂い、リオリースは不安そうに視線揺らして


「リネアラ、それ以上は」

「あら?先にわたくしを悪者にしてきたのは、契約違反をなさったのは、陛下では?子どもたちの前で仰ったのは、わたくしが反論しないと思われたからでしょう?これまでも、わたくしがどんな思いでいたと?」

「・・・・・」


シグルドが制止の声をかけるも、リネアラはいっそ清々しいほどの笑みを浮かべて


「母上、俺たちがアランを支えるのは」

「レオリード?わたくし、あなたがアランディール殿下を支えるのを、反対したことあったかしら?」

「・・・・・いえ」


笑みを崩さずに言われ、レオリードは言葉を詰まらせる。


「アランディール殿下?」

「なっ、なに?」

「お祝い申し上げますわ」

「あ、ありがとう」


アランにも、いつもの嫌味を含んだ笑みではなく、晴れやかに、にこりと微笑まれて


アランの背中に、ひやりと冷たい汗が流れる。


食堂を、緊張を孕んだ静けさが支配して


カチッ


リネアラのティーカップを、ソーサーに置く音が響く。


「食事も終わりましたし、失礼いたしますわ」

「リネアラ!」


沈黙を破り、静かに立ち上がるリネアラに、シグルドが何か言おうとするが


「陛下。わたくしは、この国に生まれ育った貴族として、王命に従ったにすぎないこと、お忘れにならないでくださいませ」


ゆっくり、ひと言ひと言区切るように。


シグルドと視線を合わせて言うと、リネアラは振り返ることなく、食堂をあとにした。







最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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