王家と公爵家とセフィリア教
定例会議が終わりが告げられ、会場内がまだ騒然としているなか、シグルドを先頭に三公爵家が退出する。
それに続くように、レザ司祭も席を立つけれど
「レザ司祭、少しお時間をよろしいでしょうか?」
会場を出てすぐ、シグルドの従者がレザ司祭を呼び止める。
「陛下が、司祭さまともう少しお話をなさりたいと」
「わかりました」
レザ司祭としても呼び出されることは十分に予想していたことで、従者に案内されて王城の奥にある一室へ入る。
「すまないが、先ほどの話をもう少し聞かせてもらえるか?」
円形の大きなテーブルの一番奥にはシグルド、続いてカイルド。カイルドの向かい側にはローディス公爵、そしてエリックが座っていた。
レザ司祭は勧められた椅子に腰かけると、アランが『女神の部屋』へ入ることになった経緯から詳しく話し始める。
「・・・・・・・・そうか」
レザ司祭の話を、ひとつも聞き洩らすまいと、身を乗り出して聞いていたシグルド。
話が終わると、椅子に背を預けて深く息を吐く。
先ほど知ったばかりの出来事で、シグルドとしては事実確認もできていない。
本来ならそう言ったことをした上で、改めてレザ司祭を召喚するのだが、それよりも状況を早く知りたい気持ちが大きく、レザ司祭を呼び止めたのだ。
「・・・・・女神の部屋が、開いたのは・・・・60年ぶりか?」
「ええ。20代目の王妃が開いて以来です」
シグルドは23代目国王。曾祖母にあたる人が『女神の部屋』へ入ったと、そう記録には残っている。
「たしか、「100年ごとに開く」そういう話ではなかったのか?」
曾祖母が『女神の部屋』へ入ったのは、予定通りの出来事だと言うカイルドへ、レザ司祭は首を振る。
「それは、私にはわかりかねます。セフィリア教には、あくまでも『女神の祝福を受ける者』が、かの部屋へ最初に、そして最後に入った日の記録が残されているだけですから」
「だが、アランディール殿下には部屋を開く資格がない。それなのに扉は開いた。考えられる原因はあるか?」
「私には、わかりかねます。かの部屋へ入る資格に関しては、我々より、王家へ連なる公爵方がお詳しいのでは?」
「ふんっ。口だけは達者なようだ」
ローディス公爵がレザ司祭へ視線を厳しくして言うも、笑みを崩さずにレザ司祭は軽く流す。
あくまでもセフィリア教は『女神の地』そして『女神の部屋』を護り管理するものであって、それ以外は王家の管轄。
王家と公爵家が分からないのであれば、レザ司祭にわかるはずもない。
「いずれにしろ、扉は開かれアランは中へ入り、無事に出てきた。それに変わりはあるまい」
「ええ。ですので、アランディール殿下は国王としての、その勤めを果たしてくださる。そうセフィリア教は判断いたしました」
「なるほどな」
資格がないにせよ、部屋は開かれた。
それならば、部屋へ入った者は『女神の祝福を受ける者』であると、そう判断する。
アランが帰った後、教主と司祭たちで話し合ったセフィリア教の方針だ。
「・・・・・アランの、魔力不足はどう説明する?」
なにか思案するように目を閉じていたシグルドは、一番の気がかりを口にする。
国王になったとしても、魔力が安定しないのであれば王の勤めを果たすことはできない。
問題が解決しないまま国王となり、苦しむことになるのはアランだ。
「さあ?私どもではわかりかねます」
「随分と適当だな。本来なら、『女神の祝福』に関しては、貴様らの管轄だろう!」
「ええ。ですから、アランディール殿下には『女神の祝福』があると、これまでも認めてまいりました」
魔力不足であっても、アランには『女神の祝福』が与えられている。
だからこそセフィリア教は、これまでもアランに「次期国王の資格はない」とは、言わなかったのだ。
「資格がないはずのアラン殿下が部屋に入ったことで、今後なにかしらの問題が出る可能性はありますか?」
カイルドの質問は教団内でも議論されたこと。レザ司祭は微かに顔をくもらせて
「そのことは、私どもも懸念しております。ですが、あの部屋は女神が造られた。それならば、女神が受け入れない者が部屋に入れるはずはない。そう結論付けました」
「ふん!随分と適当だな」
「女神のお心を知る術はありませんので」
部屋には入れたのは、女神に受け入れられたから。
レザ司祭はそう繰り返す。
「アランの魔力不足は解消した。そう判断してもいいのか?」
「それに関しては、なんとも申し上げられません。扉を開いたことと、魔力量の関連性に関しては、私どもも判断できかねますので」
「陛下、アラン殿下のここ最近の魔力は?」
「安定していると聞いている。だがまだ三か月程だ」
重ねて尋ねるシグルドへ、レザ司祭は明言を避ける。
そのことに微かな苛立ちを感じながらも、シグルドはカイルドへ答える。
アランの魔力が安定してから、まだ三か月。「問題はない」と言い切るには日が浅すぎるし、国王の勤めを果たすには、もう少し魔力量は増えて欲しい。
「そうですか。まあ、あと3年ありますから」
カイルドの慰めるような言葉に、シグルドも静かな笑みを浮かべた。
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