お茶会 ①
「今日は来てくれてありがとう。第二王子のアランディールだ。アランでいいよ」
「アルデス子爵家の養女で、シスツィーアと申します。本日はお招きいただきありがとうございます」
王族に対する最上級の礼をとる。
挨拶が済むとアランから椅子を勧められ、シスツィーアは従者が引いてくれた椅子に腰かける。
すぐにお茶が出されて、セッティングがすむと給仕をしていたメイドと従者は、少し離れた場所へさがる。
二人の様子ははっきり見えるけど、会話は聞こえない距離。
それを確認すると、アランが口を開く
「体調はどう?急に魔力奪ったから、けっこうキツかったんじゃない?」
「お気遣いいただきありがとうございます。だいぶん回復致しました」
「そう?良かった」
アランが紅茶を口に運ぶ。その様子は気品があって所作も流れるように綺麗で、見る者を惹きつける。
改めて見たアランは、中世的な整った顔立ちをしていた。レオリードよりも背は低いが、アルツィードくらいはあるだろう。湖のような青色の瞳と明るめの金色の髪。
(ううん、殿下のはわたしとよく似た髪色・・・『女神の髪色』と呼ばれる色かしら?)
光加減ではっきりとは言えないが、シスツィーアと同じような髪色。
じっと見つめるシスツィーアに気づき、微笑みながらお茶を勧めるアラン。
だけどシスツィーアは緊張して飲む気になれず、カップへ目を落とす。
(・・・・・飲まないと失礼にあたるかしら?)
勧められた物に口を付けないのも、警戒していると言っているようで
シスツィーアがカップを落とさないように持ち上げたと同時に、アランが口を開く。
「君は自分の魔力について、何も疑問に思わなかったの?」
「下位貴族にしては多いと言われ、光栄なことですが困惑しておりました」
質問の意図が分からずに、持ち上げたカップをソーサーに戻しながら当たり障りなく返す。
「そう。兄上もずいぶん君に興味があるみたいだし、それを使って上位貴族に取り入ろうとはしなかったの?」
「どういう意味でしょうか?」
「魔力量が多いと、それだけで王族とも縁を繋げることができるってことだよ。権力とか興味なかった?贅沢できるよ?」
「・・・・・興味ありません」
「この間も言ったけど、君の魔力は僕の魔力だ。それを使ってどうするつもりだったの?どうやって僕から奪った?」
「わたしは!あなたさまから、魔力を奪っていません!」
淡々と、けれどシスツィーアが『魔力を奪った』と言い切るアランの目を見て、はっきりと少し強い口調で言う。
「うん。君は僕より年下だし、君が直接なにかしたとは思ってないよ。けど、君の両親やまわりはどう?君を使って魔力奪って、君を王族に縁付かせて利用する。そんなこと考える人、いたんじゃないの?」
「・・・・・下位貴族でそのようなことを考えても、自滅するだけです」
「ふーん。そう?けど、君の魔力と僕の魔力が同じ・・・・そうだね、似ているでも良いけど、それは君も身をもって知ったでしょう?」
「そ・・・・れは・・・・」
自分の魔力は自分自身にしか扱えない。一卵性の双子だと魔力性質が同じだから、お互いに扱えるけど、シスツィーアとアランは双子じゃないからあり得ない。
(だけど、この間の、殿下がわたしの魔力を操れたのは、魔力性質が同じってこと・・・)
「でも・・・・わたしは、知らない・・・」
ぽつりとこぼれた言葉。けれど、アランは全く信じていないのが見て取れる。
「なら、誰か手を引いたものがいる。ってことになるね。君にそんなこと言ってきた人いなかったの?」
「おりません。そもそも、わたしは学園を卒業したら養子縁組は解消され、平民となることが決まっております。これは生家の意向でもあります・・・・」
下位貴族には、必要以上の魔力はいらない。権力者に利用され、食いものにされては堪らない。
両家の大人たちが「厄介ごとはいらない」と、厄介払いしたいと思っているのは分かっている。
そんな人たちが、王族に近寄ろうなんて、権力を手にしてのし上がろうなんて考えているとは、シスツィーアには到底思えなかった。
「じゃ、今は?」
「え・・・?」
「仮に僕の魔力と似てるってことにしょう。それは置いといても、君の魔力量は申し分ないよ。いざという時、国を護る魔道具も使えるってことだ。王族としては十分に取り込む価値がある。僕の婚約者になる?」
「お断りします」
「即決だね。じゃあ、兄上?キアル?兄上はずいぶん君のことを気にかけていたし、見た目も性格も良いよ?兄上が相手なら、君も満更ではないんじゃない?」
意地悪そうに目を細めて笑うアラン。
「レオリード殿下には、マーシャル公爵令嬢がおられます」
「奪えば?君の方がマリナ嬢よりずっと性格も良さそうだ」
「マリナさまに失礼です」
(魔力を奪ってもないし、権力も欲しくない。なのに、これじゃあ・・・・)
話が通じなくてイライラするのを抑えながら、冷静に反論する。
ふいに向かい側に座っていたアランは椅子から立ち上がり、シスツィーアのすぐ近くに来る。
慌てて立ち上がり距離を取ろうとするが、それより先にシスツィーアの肩にアランが手を置き、少し強い力で押さえる。
シスツィーアの身体が強張ったのが分かるはずなのに、気にせずに顔を近づけ声を潜めて耳元でアランが囁く。
「君が迫ったら、兄上は君に靡くかもよ」
「馬鹿にしないで!」
反射的にかっとなって、シスツィーアは顔をアランに向ける。
肩に置かれた手が離れアランが一歩下がると、シスツィーアは片手をテーブルに乗せて、勢いよく椅子から立ち上がる。
ガタン!
大きな音が響き、椅子が倒れ
次の瞬間には、アランの護衛騎士がシスツィーアの両手を掴んで後ろに回し拘束する。
力を加減されているのは分かるが、シスツィーアの腕にねじれた感じの痛みが走り、思わず膝を曲げる。
どこか冷たい目をした第二王子が、シスツィーアのすぐ前に来て
「なにをしている!?」
なぜか第一王子もやって来た。
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