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はじまりの物語  作者: はあや
本編
149/431

女神の部屋

「アラン!もう少しゆっくり」

「ごめん」


アランに腕を掴まれて、シスツィーアも回廊へと入る。

けれど、なんだか焦ったようにアランが歩くので、シスツィーアは追い付くのが精いっぱいで


転びそうになりながら、アランへ声を掛ける。


それでも先を進むアランは、スピードを緩めることはなくて。やっと回廊を半分ほどのところで立ち止まり、シスツィーアもほっとする。


「けど、驚いたわ。アランが扉を開くことができるなんて」

「・・・僕じゃないかも」


シスツィーアの言葉に、アランが小さく呟く


「ツィーアの魔力で開いたかも」

「まさか。わたしが触れる前に、扉は動き始めていたわ。アランの魔力よ」


アランはそれには答えずに、再び、今度はシスツィーアと手を繋いで歩調を合わせて先へ進む。


回廊には壁はなく、細い飾り細工のフェンスのようなもので作られていて。


「綺麗ね・・・」


ゆっくりと歩きながら見る景色は、シスツィーアをまるで湖の上を歩いているように錯覚させている。


「・・・うん」


アランはなにか気にかかるのか、上の空で返事して


着いた部屋は思ったよりも広くて、シスツィーアとアランが入っても十分な広さがある。


「・・・・あったかい」


部屋の真ん中あたりに立つと、アランが呟く。


回廊を進んだ時から感じていたけれど、部屋が近づけば近づくほどアランは身体がぽかぽかして、心のなかもあたたかなものが広がって


「女神の力かしら?」


シスツィーアもあたたかいとは感じるけれど、それ以上はなにも感じなくて


(王族だから、女神の力を強く感じているのかもしれないわ)


そう思って、その場にたったまま部屋を見回す。


「アラン・・・天井・・・」


ステンドグラスで作られた天井には、またなにかの紋様が描かれていて


「・・・あそこから、なんか降り注いでくる感じがする・・・」


ステンドグラスを通して降りそそぐ光とは別に、なにかあたたかなものを感じて


よく見ると、床の上にも薄っすらと紋様が描かれていて


シスツィーアから手を離して、アランはひとりでその紋様の中心に立つ。


「・・・っ!」


とたんに、なんだかアランの身体がずしりと重くなって


思わずふらつくのを、シスツィーアが慌てて支える。


「大丈夫?」

「ツィーアは?なにも感じない?」

「え?ええ。わたしは」


「何も感じない」とそう言いかけて、シスツィーアもなんだか身体が動かしにくい感じがして


「ツィーア?」

「・・・ううん。少しだけ、身体が怠いと言うのかしら?動かしにくい感じはするわ」


なんだか起きるのが嫌で、もう少し眠っていたいときのような、そんな身体が怠い感覚。


そんなものをシスツィーアは感じていた。


アランとシスツィーアはちょうど床の上の、紋様の中心に立っている。それはステンドグラスの紋様のちょうど中心でもあって


「・・・・どちらかの紋様が、なにかの『魔術式』なのかしら?」

「あり得るね」


魔道具を使ったときのような、魔力が減った感じはしないけれど


シスツィーアは身体が怠いのは、「魔力への干渉」だと思えて


アランとふたりで天井と床を交互に見るけれど、ふたつの紋様は同じものではなく、違っていた。


「天井の紋様は、なんだか信徒席に描かれていたものと似ているわ」

「じゃあ、この床の上に描かれているのが、原因?」

「かもしれないわね。写して大丈夫かしら?」


ちらっとレザ司祭たちの方を見ると、回廊の向こうからはシスツィーアたちの様子を、じっと見ていて


「・・・写そう。なにかあったら、僕が責任を取るから」

「分かったわ」


シスツィーアが、持っていたノートに紋様を写しはじめると、アランは邪魔にならないように部屋の隅へと移動する。


「・・・紋様から離れたら、身体が楽になった。ツィーアも離れてみて」

「ええ・・・・本当ね」


描く手を止めてアランと同じように隅へ移動すると、だんだんと身体は楽になって


けれど、離れた場所からは写しにくくて、シスツィーアはまだ部屋の中心へ戻る。


また身体が動かしにくい感覚が戻ってきて


(早く終わらせよう)


天井を見上げながら、続きを始める。


集中するシスツィーアの邪魔をしないように、アランは黙って湖の方へ視線を向ける。

部屋から見える湖は、アランの瞳と同じような色合いをしていて


(底まで見えそう・・・)


惹かれるように湖の底を見つめる。


湖には魚がいることもなく、水草も見えなくて、そのまま底まで見えそうで


(・・・なんだろう?さっきの・・・)


ふっと、アランの脳裏に何かが浮かぶ。それはさっき聖堂でのことと似ていて


シスツィーアは天井を見上げて、しばらくすると手元に視線を向けて写していて、おかしな様子はない。


(僕だけ・・・?)


さっきは女神像へ手をついていた。


それなら———―


聖堂は入って正面に女神像があった。


この部屋の四方は、腰から上はステンドグラスで囲まれていて、下は白い壁で造られていて


(・・・・小さな聖堂みたい)


さっきの聖堂を小さくしたような造りで、それならと、アランは回廊からちょうど正面の壁の前に立つと、聖堂なら女神像があるあたりへ手を伸ばす。


(このあたりかな?)


そっと右手を壁につけて、アランは目を閉じた。



最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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