開いた扉
「・・・あ」
「どうかしたか?」
「・・・いや、失敗した・・・」
執務室で書類を書いていたレオリードは、ペンが上手く動かずに紙に引っかかって文字が歪んで
「書き直しかな」
ため息を吐きながら苦笑いをして、レオリードは書類を横にやる。キアルがその書類へ視線を走らせて
「んー。こんくらいなら、大丈夫じゃないか?にしても珍しいな」
「ああ。少し気がそれた。オルレン、新しいものはあるか?」
「すぐにご用意いたします」
オルレンはすぐに立ち上がり、新しい紙をレオリードへ手渡す。
「ありがとう」
「・・・少し、休憩なさいませんか?ずいぶんと根を詰めていらっしゃいますし」
「いいな!ちょっと疲れたし、茶飲もうぜ」
ここ最近のレオリードは、いつにも増して公務に邁進していて、側で見ているオルレンは、無理をしているようにも見えて心配だった。
それを察してか、オルレンの提案にすぐにキアルが賛成して、んーっと伸びをしながらさっさとソファーへ座る。
「そうだな。オルレン、頼めるか?」
「お待ちください」
キアルの様子に苦笑しながらレオリードも頷き、オルレンはお茶の用意を始める。
いつもなら、午前のお茶の時間には甘味を用意しないのだが、レオリードへ少しでも気持ちを和らげて欲しいと、オルレンは用意しておいたクッキーを添えて、テーブルへお茶と一緒に並べて
「ありがとう」
レオリードがクッキーへ手を伸ばしたのを見て、キアルもクッキーを口に放り込む。
「アランたちがいないと、静かだなー」
深くソファーへ腰かけて、キアルがのんびりと口にする。
アランに執務室が与えられて、そちらで過ごす時間が多くなると、キアルたちの負担は減ったけれど、なんだか静かで。
もともと賑やかなのが好きなキアルとしては、お茶の時間くらいたまには一緒にしたいと思うが、なかなかタイミングも合わずにいた。
「そうだな・・・」
「今日は神殿だっけ?レザ司祭が案内してくれるんだろ?」
「そうらしいですね。リドファルド神官も一緒だと思いますよ」
「あー。あのふたり、仲良いもんなー」
キアルもレザ司祭とリド神官とは、毎年行われる王家の『建国の儀式』で来るので顔見知りだ。
「せっかくなら、オレたちも行けばよかったかな。なあ、レオン?」
「そうだな・・・」
レオリードはキアルへ返事をするもの、どこか上の空でぼおっと窓の外を見ていて
「レオリード殿下?すこしお疲れではありませんか?」
「そう・・・か?」
「最近、なんだかんだで休んでないもんなー。明日は一日休みにしようぜ」
再開された公務に学園生活に生徒会。レオリードはここ一週間ゆっくりと休んだ記憶もなく、もちろんそれはキアルとオルレンも同じだが、負担はレオリードが一番大きい。
「・・・そうだな。来週も忙しくなる。明日は休みにしよう」
「・・・あい・・・た」
アランの言葉に続いて、シスツィーアも呟く。
「ええ。本当に開くとは」
レザ司祭もまさか開くとは思わずに、珍しく呆然としている。
「・・・入ってみても良い?」
アランの言葉に、レザ司祭も躊躇いながら頷く。
「ええ。開いたと言うことは、殿下にはこの部屋に入る資格があると言うこと。どうぞお入りください」
「うん。ツィーアも行こう」
「え?でも・・・・」
アランから手を差し伸べられ、シスツィーアは躊躇う。
「いいから」
ぐいっと手を掴まれて、反論する間もなくさっさとアランは回廊へと進む。
「おっ!お待ちください!」
ロイたちが慌てて警護のためにアランを追うけれど、
ギ・・・ギギ・・・・・・
ロイたちの行く手を阻むように、扉が動いて
「お止めなさい。あなた方が入ろうとしても、扉が閉じますよ」
レザ司祭の言葉にロイたちの足が止まる。
中に入ることができないのなら、せめて見える範囲にはいて欲しい。
そう判断して、アランたちのあとを目で追う。幸い、回廊もその先の部屋も見通しがよく、ロイたちからふたりの様子は見える。
いつになく真剣な顔をして、ロイはアランたちを、ラルドは周囲を警戒する。
「・・・教主へお伝えしてきます」
レザ司祭にだけ聞こえるように、そっとリド神官が言う。それにレザ司祭も微かに頷くと、すぐにリド神官はその場を離れて・・・
(『女神の祝福』は、どちらに与えられたのでしょうね)
心のなかで、レザ司祭は独り言ちた
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
次話もお楽しみいただければ幸いです。




