女神の地
「こちらが神殿の中でも、特別に神聖な場所とされている『女神の地』です」
レザ司祭に案内されてきたのは、聖堂を抜けた先にある、木々の生い茂るちょっとした森のような場所。
神殿の女神像のちょうど真後ろ当たりの、木々に紛れた細いアンティーク調のフェンスに囲まれた場所だった。
「ここは・・・」
なんとなく見覚えがあって、シスツィーアはゆっくりと周りを見回す。
(たしか、迷子になって・・・この場所へたどり着いて・・・すぐに見回りの神官さまに見つかって・・・)
シスツィーアがここにいることに驚いた神官に、「ここは立ち入り禁止ですよ」と注意されて、聖堂まで送ってもらったのだ。
リド神官が持っていた鍵でフェンスを開けて、レザ司祭を先頭に先へ進む。
「こちらです」
着いた先には、そう大きくはないが、湖が広がっていて、陸地からは湖の中央へと繋がる回廊が伸びており、その先には小さな部屋が見えた。
「こんな場所があったんだ・・・」
「ええ。ほとんどの人が訪れることのない、神聖な場所です」
太陽の光が、木々に遮られながらも優しく降りそそいで
水面はきらきらと輝いていて、幻想的な風景を創り出している。
引き寄せられるように、アランが回廊の入口へ立つ。
そこは扉がしっかりと閉まっていて、人が入ることは出来そうになかった。
「鍵?鍵穴とか見当たらないけど・・・?」
「ええ。鍵も鍵穴もありません。この扉は特定の魔力によって開けることができます」
「どういうこと?」
「『女神の祝福を受ける者』のみが、開くことが出来ると、そう伝えられています」
「それって、この国の国民なら誰でも開けることができるんじゃないの?」
この国の国民は、『女神の祝福を受けし者』そう教会は言っている。それなら、誰にでも開けられそうだ。
「いえ。実際にやってみせましょう」
そう言って、レザ司祭が扉の中央へと手を伸ばして触れて、魔力を注ぐ。
けれど、扉は開く気配もなくて
リド神官も同じようにするけれど、やはり扉は動くこともなく
「この通りです」
「本当だ・・・」
アランは扉の前に立って、その先をじっと見つめて
(なんだろう?)
さっきの聖堂でも感じた、懐かしくて身体がぽかぽかする感覚
そして、なぜだか『呼ばれている』
アランの心に、そんな思いが沸き上がって・・
かしゃん。アランはその先へ行きたいと、扉に手を伸ばす。
「アラン?」
「うん。なんだか、開けそうな気がして・・・・」
近くで見た扉の中央には、薄っすらとだけど『護符』のような文様があって
惹かれるように、そこへ手を伸ばすアラン
触ってみたけれど、変化は何もなくて
「ツィーア」
そっとアランがシスツィーアを呼ぶ。
「・・・」
アランは無言でシスツィーアを見るけれど、シスツィーアはアランが何をして欲しいか伝わって
「なあに?なにか見つけた?」
他の者に不審がられないように、注意を払って
何気ない風を装って、シスツィーアはアランへそっと近づく
再びアランは扉へ手を伸ばして、今度は魔力を流す。
ギ・・・ギギッ・・・・・
扉が微かに動く
「アラン、扉が・・・」
言いながら、シスツィーアの右手がアランへ触れて、自分の魔力をアランへ流す。
シスツィーアの魔力がアランへ流れるのが、いつもよりもはっきりと分かる。
(いつもより、魔力が・・・)
魔力の流れがおかしいと、そう感じる間もなく扉が音を立てて
ギ・・・・ギギ・・・・・ギギッ・・・・
紋様の場所から左右へ、扉が分かれて・・・
「・・・あい・・・た」
アランの呆然とした声が、響いた。
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次話もお楽しみいただければ幸いです。




