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はじまりの物語  作者: はあや
本編
143/431

アランと護衛騎士 ③

アランの疑問に、ロイとラルドは顔を見合わせる。


「騎士団長から聞いていた君たちだと、ツィーアのことも気にかけてくれると思ってたんだ。けど、違うよね?なにか理由あるの?」

「そうだな。日頃のお前たちなら、もっとシスツィーア嬢を気にかけたと思うが」

「「・・・・・」」


顔を見合わせて、また黙って。それをじっと見つめながら、アランと騎士団長が返事を待つ。


「・・・うわさ、です」

「噂?どんな?」

「その、シスツィーア嬢が・・・」

「ツィーアが?」

「・・・・・」

「ああっ!もう!怒らないから言って!」


言いにくそうなロイたちに、アランが焦れて叫ぶ。

騎士団長も目で「話せ」と促して


「その、自分の従妹(いとこ)が、学園に通っているのですが、そこで「シスツィーア嬢は殿下の側近となったことを、ずいぶんと鼻にかけている」と」

「ツィーアが?」


ラルドの思いがけない言葉に、アランが首を傾げる。


「はい。その、従妹が言うには、香夜祭のパートナーの申し込みも片っ端から断り、「一曲だけでも」とダンスを申し込んでも頷かないと。それに、従妹も仲良くしようと何かと気を配っても、無碍にされるらしくて」

「「・・・・・」」


シスツィーアの噂の内容に、思わずアランと騎士団長は顔を見合わせる。


(その噂って・・・かんっぜんに誤解・・・)


シスツィーアの香夜祭のパートナーはアランだ。だが、それを公に出来ない以上、シスツィーアは理由を言えないし、パートナーやダンスを申し込まれても断るしかなくて。


(たぶん、「無碍にされた」って言うのも、同じようなものだろうし・・・)


アランに迷惑かけたくないと、シスツィーアが頑張った結果が、誤解を生んでしまって


なんとも言えない気持ちが、さらに広がるアラン。


(ツィーアも言ってくれたら良かったのに)


そう思うけど、シスツィーアがアランに気兼ねして言わなかったのは、簡単に想像できて。


「シスツィーア嬢は、その、たいへん可愛い・・・ですし」


シスツィーアの容姿を褒めながら、顔を赤くしているラルド。


「ああ。うん、確かにツィーアは可愛いね」

「はい!ですから・・・最初は、従妹の僻みかとも思ったのですが、「身内も手を焼いている」と、そう聞いて」

「身内?」

「はい。「姉に当たる方も困っている」と」


シスツィーアの容姿に関しては、アランも異論はないから同意すると、一瞬ラルドは声を弾ませ、そしてだんだんと言いにくそうにして。


(ツィーアのお姉さんって、あの子だよね)


アルデス家で見たリューミラを思い出して、シスツィーアの義理の姉が言ったなら、騎士たちが信じるのも無理はないと頷く。


「なるほどね。確かに身内が言ったなら、信憑性あるから君たちも信じても仕方ないね」


アランと騎士団長が理解を示したことで、ラルドは肩の力を抜く。


「それに、レオリード殿下のこともあります」


「こうなったら、全部話す」そんな勢いで、ロイも口を開く。


「先日、アランディール殿下とレオリード殿下が外出した際に担当した騎士が、その、レオリード殿下の行動が「軽率」だと・・・あ!口止めをされてますし、なにをなさったかは騎士も話しておりません!もちろん、オレとラルも知りません!ですが、我々がアランディール殿下の騎士になるならと、「気を付けろ」と忠告してくれて」


先日のアルデス子爵家での一件は、レオリードによって箝口令が敷かれている。けれど、騎士たちとて騎士団長への報告は必要だし、アランの騎士になるならと、話をしていてもおかしくはない。


「ですので、その、少しだけ」

「思い上がりなら、その、注意しようと」


シスツィーアが自分の容姿に自信を持ち、アランの側近であることで思い上がっているなら、あえて仕事だけの付き合いをしてみようと。


殿下に気に入られていても、まわりとの協調性がないと、城で働くことはできない。


それを示したかったと言うふたり。


(うーん。何をやりたかったかは、分かったけど・・・)


一昨日の疲れ切ったシスツィーア。きっと、ロイとラルドの態度を見て、「アランの側で働く方の、わたしへの態度はこんなものなのね」と受け取ってしまった。

そして傷ついて。

最終的には「仕事がきちんとできれば、問題ないわね」と、割り切ってしまったのだろう。


はぁ。内申でため息をつくアラン。


「あのさ、君たちのやったことって、ツィーアには伝わってないよ」


薄々はそれに感づいていたと、ふたりは項垂れて。


「アランディール殿下へも、その・・・ある程度の距離は・・・必要かと」

「最初から・・・その・・・近づきすぎては・・・と」


いざと言うときに、アランを諌めることができるようにしようと。


それで距離感が分からなくなったと、縮こまるふたり。


騎士団長は何とも言えない表情で「お前たちは・・・」そう呟いて、はぁーっとため息をつく。


「んー。それで、君たち自身はツィーアのこと、どう思ってるの?」


アランが一番気になる、ふたりのシスツィーアへの感情。


「オレは、先日の件では、腕を治癒して貰いました。恩はあります」

「あれだけ助けてもらったんです。その、正直妬ましい思いはあります。けど、シスツィーア嬢に危害を加えようとは思いません」


ふたりからは、シスツィーアへの嫌悪感とかは感じられなくて。


「僕はね、兄上とキアルとオルレンみたいな関係を作りたいんだ」


アランの理想は、あの三人の関係。もちろん、幼いころからの付き合いだから、あの仲の良さなのも分かる。


けれど、身近な者たちとは、あんな関係を作っていきたい。


「はい」


そう返事をするふたりは、さっきまでとは違っていて


「僕に対して、不満ある?今なら聞くよ?」

「ありません」

「自分もです」


姿勢を正して直立し、真剣な顔つきのふたり。


(大丈夫だとは思うけど・・・)


それでも、一応は釘を差しておこうと、アランは騎士団長へ向き直る。


「騎士団長」

「はっ」

「とりあえず、警護計画とか騎士がかかわるものは、しばらく確認してもらえる?」

「引き続き、このふたりを騎士として、お側に置いてくださるのですか?」

「それはね。まだはじまったばかりだし、ふたりがこれから態度を改めてくれるなら、問題ないよ」


アランの言葉に、ロイとラルドは胸をなでおろす。


自分たちの失態とは言え、たった二日で解任されたなど、恥ずかしくて騎士団にいることもできない。


それよりも、名誉挽回のチャンスがあるだけでも良い。


「執務室へも私室への立ち入りも、最初の話通り許可しない。いい?」

「はっ」


それは正式に決まるまでは許可されないと、事前に言われていたから問題ない。


ロイとラルドの先ほどまでの、どこか暢気な雰囲気が変わり、気を引き締めたのが見て取れる。


(うん。まあ、いっかな)


『視線』に気がつかなかったのは残念だったけど、今のふたりとなら、上手くやれそう。


アランの雰囲気が和らいで、顔も穏やかになって


騎士団長もほっとしつつも、ふたりへ釘を差す。


「お前たち、これからはシスツィーア嬢と連携していけるな?」

「もちろんですよ、な?ロイ」

「はい。騎士団長もご覧になったでしょう?ちゃんと騎士の挨拶もしましたよ」

「騎士の挨拶?」


聞きなれない言葉にアランが首を傾げる。

騎士団長が返事をするかと思っていたら、なぜか固まっていて、不思議そうにしながらもロイが代わりに返事する。


「はい。騎士同士で行うものですが、お互いに敵意がないことを示すもので」

「どんなの?」

「あ、こんなのです」


ロイとラルドがお互いの手で握手すると、アランはんだか面白くなくて


「ふーん。つまり、ツィーアに触ったんだ」

「「はい!」」


けれど、ロイたちはそれには気が付かず、ふたりでシスツィーアとのやり取りを思い出して、楽しそうで


「シスツィーア嬢、手も小さくて可愛かったよな」

「正直、にやけるの我慢するのが大変だよな。戸惑った顔も可愛かったし」


可愛らしい少女と一緒に働いて、楽しくないわけがない。


そう言って、ふたりが声を弾ませる。


「治癒のときの、シスツィーア嬢の魔力も、なんかこうほわほわして気持ちよかったし。やっぱ、可愛い子にしてもらったからか?」

「ずっりぃ。オレもして欲しい」

「おい、おま」


調子に乗って話すふたりへ、騎士団長が制止の声を掛けるも、アランに遮られて


「もしかしてツィーアが可愛いから、それでカッコつけようとした?」

「え・・・実は」

「それもありますね」


照れて頭をかくふたり。


シスツィーアへの感情は、かなり好感度が高くて


アランはそんなふたりを、じっと見たまま黙ってしまって。


騎士団長がそっと空を仰ぐ。


さっきとは違う、アランの冷ややかさに気がついたロイとラルド。


また何か気に障ったかと、ふたりでおろおろして


不気味な沈黙がその場を支配する。


「・・・・・」


むすっとして、黙り込むアラン。


「・・・あの」

「なにか、気に触ることを・・・」

「別に」


不機嫌さを隠そうともしないアラン。


「ツィーアが来るから」と、すたすたと王宮へ歩きはじめて、ふたりが慌てて追いかけて


騎士団長はそんな様子を、ため息をつきながら見送った。





最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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