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はじまりの物語  作者: はあや
本編
130/431

ちいさな提案

(遅くなっちゃった)


朝から早起きして、お家を少しだけ掃除して、朝食とお弁当を作って・・・


急いできたけれど、シスツィーアがお城へ着いたのは、いつもの時間ぎりぎりで


「遅くなりました・・・」


なんとなく気まずくて、アランの執務室の扉をそっと開ける


「おはよー」


アランはもう机に座っていて、書類に目を通していた。


「おはようございます。ごめんなさい、遅くなって」

「良いよ。それより、昨日はあれから大丈夫だった?」


心配そうにシスツィーアを見上げるアランへ、笑いながら頷く。


「ええ。ほら、ほとんど目立たないでしょう?」

「・・・子爵たちは?」

「えっと・・・いつも通りよ?」




レオリードたちを見送ったあと、シスツィーアは庭に散らばった、カバンや筆記具を拾い集めて


レオリードから貰ったキャンディーも、カバンから出ていたけれど、土の上に落ちたからか無事で


(良かった。キャンディー、無事で・・・)


少し瓶が汚れていたから、手で拭って


そのまま、ぼんやりとキャンディーを見つめながら、なにも考えることができずに、しばらく立ち尽くしていた。


どれくらい、そうしていたのかは分からないけれど、風が吹いて身体が冷たくなって。

重い足取りで玄関へ向かうと、さすがに鍵は開いて、シスツィーアもほっとしながら、静かに扉を開けてなかへ入った。


なかでは、アルデス夫妻が待ちかまえていて


「ふんっ!さぞやいい気分だろうな!?こちらの迷惑を考えずに、好き勝手に行動した上に、殿下方まで誑かしおって!忌々しい!分かってるのか!?貴様のせいで、我が家は王族に覚えられてしまったのだぞ!?悪い意味でな!!」


視線で人を殺せるとしたら、今の子爵の視線はシスツィーアを・・・


それぐらい鋭い視線を向けられて、ぎゅっとカバンを抱えていた手に力が入って、思わず目を伏せるシスツィーアへ、子爵はさらに追い打ちをかける。


「いいか?今回のことは、殿下からのお言葉もある。今回だけは許してやろう。だが!次はない!次にこんなことがあれば、契約など知ったことか・・・出て行ってもらうからな!!」


シスツィーアを睨みつけ、唾を飛ばしながら子爵は吐き捨てると、どすどすと足音荒く自室へ行ってしまう。

夫人はそんな子爵へ、呆れたようにため息をつく。


「今回のことは、旦那さまの独断よ」


子爵の方へ目を向けたまま言った夫人の、言葉の意味が分からず、シスツィーアが首を傾げると


「・・・あなたが王家の役に立てたのなら、臣下としての役目を果たせたのなら、わたくしは今回のこと、これ以上騒ぎ立てるつもりはないわ」

「・・・・そう、ですか・・・」


夫人の本心は分からないけれど、シスツィーアへこの件でこれ以上は何もするつもりはない。それだけは伝わって


「今回のレオリード殿下の行為も、わたくしたちは他言するつもりはないわ」

「ありがとうございます」


先ほどの話が他家に伝わったら、「王族が感謝している養女を殴り、家から追い出そうとした」「王族に謝罪させた家」そんな不名誉な噂をされるのは、目に見えている。だから、夫妻が黙っていることにしたとしても、シスツィーアはどうでもよかった。


自分を庇ってくれたレオリードに、これ以上の迷惑を掛けずに済む。


ただそれが分かっただけで、シスツィーアは夫人へ頭を下げる。



「きちんと、頬は冷やしなさい」


もう用はないと、夫人は静かに去って行って。


シスツィーアは夫人が心配してくれたことで、すこし心が軽くなって


手加減されていたのか、しっかり冷やしたからか、今日は頬の赤みは薄っすらとだ。明るい所では目立たない。


本当なら、魔道具を使って治癒したいけれど、治癒の魔道具は医療機器と同じく高価で、各家庭に1つあるわけではない。当然アルデス家にはなかったし、祖父の工房にも商品として置いてあるだけだ。さすがに使うことは出来ない。


お化粧とかで誤魔化せればよかったけれど、シスツィーアはそんなもの(お化粧品)を持っていないし、あるのは日焼け止めだけだ。


(一応、日焼け止めを塗ったけれど、誤魔化せているかしら?)


子爵たちは何事もなかったかのように、これまで通りの態度。夫人からもリューミラからも、頬のことは言われなかった。


だからシスツィーアも、子爵たちへいつも通りに振る舞って、大丈夫かと思ってお城へは来たけれど


(アランも何も言わないから、きっと大丈夫)


目立つならアランは何か言ってくれる。言われないなら大丈夫だから。


そう考えて、シスツィーアはアランへ笑いかける。


「あっ!あと、昨日の、レオリード殿下のことは、誰にも話さないって言ってたわ」


少しでも安心して欲しくてシスツィーアが言うと、アランも「良かった」とほっとしている。


「ごめんなさい。迷惑かけて」

「いいよ。ツィーアが悪いんじゃないし」


なんだか気まずい雰囲気が流れて、シスツィーアが言葉を探していると、アランが先に口を開く。


「それよりもさ、僕、君に怒ってるんだよね」

「え?」

「何で黙ってたのさ!城まで歩いて来てたこと!」

「ああ。そのこと」


急にアランから「怒っている」と言われて、シスツィーアは身構えてしまったけれど、理由を聞いて「なんだ」と、肩の力を抜く。


「なんだ。じゃないよ!なんで言ってくれなかったの!?君、女性の自覚ある!?」

「えっと、そんなに怒らないで?」

「なんでそんなに暢気なのさ!約束しただろ?「君と僕に関することで、隠しごとはなし」って」

「えっと・・・お家の事情だもの。仕方ないわ?」


高位貴族は馬車で移動するのが当たり前だから、アランの考えが及ばなかったのは仕方ない。けれど、いくら夏とは言え、暗くなってから帰ったこともあった。


もし万が一、何かあっていたらと考えると、アランはぞっとして


「そう言うことじゃないよね!?」

「えっと・・・」


シスツィーアは通勤手段に関しては自分で考えることだから、アランに言う必要はないと思って・・・


(ううん。違うわ。恥ずかしかったのよね。馬車も使うことができないって、思われたくなくて)


まわりは高位貴族ばかりで、馬車を当たり前のように使っていて。

そんななかで、徒歩だなんて恥ずかしくて、馬鹿にされたくない思いがあって


聞かれなかったから、答えなかったのはあるけれど、その話が出たらわざと話題を変えたり、曖昧に濁すだけで言わなかったのだ。


(アランはそんなことで、わたしを馬鹿にする人じゃないのにね)


「ごめんなさい。黙っていて」

「そうだよ!反省してよね!?」


アランは怒っているけれど、それは純粋にシスツィーアを心配してのこと。

だからシスツィーアは困るけれど、どこか嬉しさも感じていた。


「ね、やっぱり寮に入るのは無理?」

「・・・そのことなんだけどね。わたしも考えてみたの。昨日は、あの状況で「寮へ」って言ってしまったら、きっと養父母との仲は拗れたままだったわ。けどね、これから先、あなたの公務が増えて行けば、寮に入った方が良いかしらって。その、養父母も納得しやくなるだろうし・・・だから、すぐには無理だけど、少しずつ説得してみるわ」

「良かった。僕もその方が良いよ。ツィーアには申し訳ないけど、アイツらのことは好きになれない」

「アラン・・・」

「それとね、ツィーアは嫌がるかもしれないけど・・・」


力強い目でシスツィーアを見るアラン。切り出しにくそうだけど、なにかを決めた、そんな視線は珍しくて


椅子からも立ち上がって、アランがシスツィーアの前に立つ。


「どうしたの?」


首を傾げて、アランを見上げるシスツィーア。


そっとアランが手を伸ばして、シスツィーアを引き寄せて


「・・・本当に、僕と婚約しない?」


そう耳元で囁いた。




最後までお読みいただき、ありがとうございます

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