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はじまりの物語  作者: はあや
本編
126/431

レオリード ③ ~謝罪~

彼女が城まで、歩いて来ている


それを知ったのは彼女が倒れたあと、アルデス家へ連絡するよう手配したとき。


だから城で働く者のための寮へ、入ることはできないかと、メイド長へ相談して


その話をしようと、書類を取りに行っている間に、彼女が帰宅してしまったから、追いかけた。


馬車を停める場所が見つからず、以前アランがシスツィーア嬢と待ち合わせた場所に、停めようと向かう途中で、シスツィーア嬢が歩いているのが遠目に見えて


「兄上、ツィーア歩いてるよ?一人だし・・・僕、追いかけて良い?」

「ああ。騎士を連れていけ。気をつけろよ」


シスツィーア嬢が歩いて城へ来ていることを、アランは知らなかったのだろう。


えっ?と、目をみはって驚いていて。


少し離れた場所だが、アルデス家もすぐ近くだから、問題ないだろう。


そう判断して、アランを行かせたが・・・




「申し訳・・・ありません。謝っても・・・許される」

「そうだ!!謝ったからと言って、簡単に!!」


門を開けると、そんな声が響いた。


急いで玄関へと向かうと、アランが後ろから、シスツィーア嬢を支えているように見える。


「なにをしている?」


言いながらアランたちを見ると


(・・・っ!?)


シスツィーア嬢の顔が・・・あかい・・・


(殴ったのか!?)


瞬間、声をあげそうになるが、必死に抑える


(ダメだ・・・冷静に・・・)


怒りに振り回されると、足元を掬われる。


「あに・・・」


アランが俺を呼ぼうとするが、「黙っていろ」そう目で合図すると、伝わったのかシスツィーア嬢を支えたまま、一歩下がる。


(アランの正体を、知られる必要はない)


アルデス子爵とは接点がない。どんな人物か分からないが、少なくともシスツィーア嬢を殴ったのは、アルデス子爵で間違いないだろう。


そんな人物と、アランを関わらせるわけにはいかない。


「夜分にすまない。なにが起こっている?」


怒鳴り散らしそうになるかと思ったが、口から出た声は自分でも意外なほど冷静だ。


「レ、レオリード殿下!!なぜ!?」

「シスツィーア嬢を送って行こうとしたら、もう帰宅したと言われてね。子爵への説明も必要だろうと、来たのだが・・・」


(シスツィーア嬢が、いったい何をしたと・・・?)


彼女は誰かを、怒らせるようなことはしない。


危険をかえりみず、人に懸命に尽くす人だ。


(なぜ・・・?)


思いつくのは、ずっと家に帰れなかったこと。


それくらいしか、考えられない。


(普通なら心配するのでは、ないのか?)


いくら城から連絡したとは言え、ずっと帰らなければ、心配ではなかったのだろうか?


シスツィーア嬢の家族から面会依頼があれば、許可するように伝えていた。


だが、誰かが面会に来たという話は聞かなかった。


城だから来にくいのかと思い、あまり気にしていなかったが、それは見当違いだったのか?


ぐっと手を握りしめて、怒りに振り回されないように耐える。


暗がりでもわかるほど彼女の頬は腫れあがり、何かがふつふつと込み上げてくるが・・・


「れお・・りーど・・でんか・・。あの、わたしが・・・」


必死で言葉を紡ごうとするが、話すことさえままならない彼女へ、安心させるように微笑んで


(きっとシスツィーア嬢は、俺がアルデス子爵と争うのを、良しとしない)


ここでアルデス子爵へ怒りをぶつけるのは簡単だが、そうするとシスツィーア嬢がアルデス子爵から叱責を受ける。


いや、今以上の暴力に晒されるかもしれない・・・


彼女を城へ連れて帰るのは簡単だが、ずっと面倒を見ることは不可能だ。


アランの側近とは言え、未成年者は家長の意向に逆らえない。


すぐに連れ戻されてしまう。


なら・・・


アルデス子爵へ向き直り、申し訳なさそうな顔をする。


「すまない、アルデス子爵。シスツィーア嬢を長くお借りしてしまい、子爵へも心配をかけた」


本来ならあり得ない


(俺が子爵へ、頭を下げるなんてな)


自嘲的な笑いがでるが、それでもこの場がおさまるなら、それでも良い


「っ!!でん・・・!!」

「殿下!!?」


下げたと言っても軽くだ。


非公式なら問題ないだろう。


それすら一瞬ですぐに顔を上げたが、アルデス子爵は顔を真っ青にしていて。


「こちらから子爵へ、連絡をすると言っておいたのだ。シスツィーア嬢も私への気遣いから、子爵へ連絡するのが憚られたのだろう。子爵へ迷惑を掛けたのはこちらの落ち度だ」


「レオリード殿下!!」


騎士たちも非難めいた声をあげるし、アランは絶句している。


そんな騎士たちに軽く笑うが、シスツィーア嬢は口元を手で覆っていて


(泣かないでくれ)


ぽろぽろと、見開いた両目からは涙が溢れている。


泣く必要などないのに


「っ!やめてください!」


ふらつきながら、シスツィーア嬢が俺の前に来る。


倒れたときのために、すぐに手を差し伸べることができるように


触れるか、触れないかの距離


俺を見上げて、必死に言葉を紡ごうとする彼女の姿が、痛々しくて


見ているだけで胸が苦しくて


再び、握った手に強く力を込める。


「わたしがっ!連絡を・・・!」

「そっ!そうで!」

「君の、あの状態では仕方ない。大切な弟を、従兄弟を、友人を助けてくれて、ありがとう。そのせいで、君が子爵と仲たがいすることになって」

「なっ!仲たがいなど!」


怖がらせないように、穏やかな声を意識して


青くなったまま、必死で言い訳しようとするアルデス子爵へは、もはや嫌悪しかない。


(謝ることすら、しないのか?)


改めてアルデス子爵へ向き直る。

一瞬、たじろいだように見えたのは、見間違いか?


「むろん、王家からの正式な謝罪とはいかないが、どうか怒りを収めてくれないだろうか?」


さらに言葉を重ねると、口をパクパクさせるだけで・・・


(見苦しいな)


自身より弱い者へしか、強く出られないのだろう。


思わず、ため息をつきそうになるが


「もちろんですわ!!」


どこから見ていたのか、気が付けばアルデス子爵の後ろには、夫人らしき人がいて慌てている。


「主人もシスツィーアの帰りが遅く、連絡もなかったことで気が立っていたのです!決して、シスツィーアが憎いからではなくっ!」

「そっ、そうです!心配のあまり、つい・・・。シスツィーア、すまなかった」


アルデス子爵が、慌ててシスツィーア嬢へ頭をさげる。


「では?」

「シスツィーアの頬は、すぐに手当ていたします!主人も咄嗟のことで、力加減ができなかったのでしょう。そうですよね!?」

「ああ・・・。すまなかった」


屈辱に耐えるように、歯を食いしばり、シスツィーア嬢へ謝罪する子爵


(すまなそうには見えないがな)


そうは思っても、口に出すわけにはいかない。


「シスツィーア。旦那さまもこう仰っています。あなたも、もういいでしょう?」


婦人もシスツィーア嬢へ、非難めいた視線を向けている。


(なるほど)


すーっと、どこか冷静になる。


きっと、今に始まったことではない。


彼女の子爵家での扱いは、思っていた以上に悪い


なら、


「子爵夫妻、シスツィーア嬢が帰りが遅いから、心配のあまり荒事になってしまったと?そう言うことで良いか?」


穏やかに確かめる。


「むろんです!そうでなければ、シス・・むっ、むすめに、手を挙げるなど!」

「そうですわ!わたくしたちは、養女とは言えシスツィーアを大切にしております」


こくこくと、首を縦に頷く夫妻。


「そうか、なら、シスツィーア嬢が遅くに返ってくるのは心配だろう?どうだろうか?シスツィーア嬢を寮に入れないか?城で働く者のための寮だから、シスツィーア嬢も権利がある。未成年だから、親の許可が必要だが・・・」


そんなに彼女を疎んじているなら、すぐに子爵は肯くかと思ったのだが


なぜだか、夫妻は目に見えて狼狽えている。


視線をずらすと、アランは目を細めて表情をなくしているし、シスツィーア嬢は


(彼女にとっても、迷惑な提案だったろうか?)


このまま子爵家にいても、彼女はつらい思いをするだけだろう。


けれど、寮へ入ったとしても、子爵が連れ戻しに来る可能性は、否定できない。


(選ぶのは、彼女)


彼女にとって良い方をほしい。


そんな思いで彼女を見るが、立ち尽くす彼女の表情からは、なにも読み取ることができなかった。



最後までお読み下さり、ありがとうございます。


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