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はじまりの物語  作者: はあや
本編
105/431

魔道具の事故 ①

「っ!きゃあ!」


急な揺れで、シスツィーアは身体をしたたかに壁に打ち付ける。

痛いと思う暇もなくまた地面が揺れ、壁に手をつきながら必死に立ちあがるけれど・・・


(殿下はっ!?)


今度こそ守らないと。


そんな思いでレオリードを探すが、身体が揺れて視界が定まらない。


それでもかろうじてレオリードも、片膝をついて地面にしゃがんでいるのが見えて


シスツィーアはレオリードに覆いかぶさるように飛びつき、彼の頭を両手で抱きしめる。


(守らないと!)


「王族を守るのが、お城で働く人の最優先事項よ」


訓練をしてくれた、女性騎士の言葉を思い出す。


両手に力を込めて、必死にレオリードを守ろうとして


ようやく揺れが収まると、また外が騒がしくなる。


シスツィーアがぎゅっと閉じていた目を開けると、恐る恐る床に伏せていた事務官が立ち上がり、窓の外へ視線を向けていた。


「大変だ・・・!」


事務官の言葉にレオリードが反応し、力が緩んでいたシスツィーアの手をどけると窓へ駆け寄る。


シスツィーアも立ち上がって外を見ると、演習場で今度は煙と共に火が上がっているのが見えた。


「っ!演習場へ行く!扉を開けろ!」


レオリードの言葉に、事務官が慌てて鍵を解除する。


外へ飛び出したレオリードを追ってシスツィーアも外へ出るが、棟の外はむっとする空気と、焦げ付く臭いで辺りが満ちていた。


そのまま演習場へと走るレオリードを追いかけるが、シスツィーアはどんどんと引き離されてしまって


演習場へ着くころには、完全に見失っていた。


「アランは・・・!?」


さすがに騒ぎが続いていたのだ。もうアランはここにはいないと、そう思いたかったが、王族の控え室として使用すると聞いていた天幕の方へと向かう。


天幕のあたりはシンと静かで、天幕前に一人だけ騎士が立っていた。


話しかけるとアランが中にいると言われて、シスツィーアは急いで天幕へ入る。


「アラン、いるんでしょう!?」

「ツィーア!?来たの!?」


椅子に座って項垂れていたアランが、はっと顔を上げる。


シスツィーアも急いで駆け寄って、椅子の前に跪く。


「怪我はない!?」

「僕は大丈夫。だけど庇ってくれたキアルが」


地響きが鳴り渡った時、演習場では地割れが起こったと青ざめた顔で教えてくれる。


ちょうどアランの足元で地割れが起こり、隣にいたキアルが引っ張ってくれたから良かったが、代わりにキアルは割れた地面に身体が入りこみ、揺れがあったことで足を骨折したそうだ。


「一歩間違えれば、キアルは割れた地面に、身体が落ちていたかもしれない」


それを目の当たりにして、アランはショックで動けずにいた。


(無理もないわ。自分を庇って誰かが怪我をするなんて、耐えられないもの)


たとえ護られるのが当たり前でも、慣れるはずはなかった。


ましてそれが従兄弟なら、当然だ。


「君が無事でよかった」

「どうしたの?」


シスツィーアはぎゅっとアランから両肩を掴まれ、耳元で囁かれる。


「魔道具が、燃えているんだ」

「ええ。聞いたわ。原因までは分からないけれど」

「僕を、狙ったものかもしれない」

「えっ!?それって!」

「しっ!まだ確証はないんだ」


シスツィーアが目を見開いてアランを凝視すると、アランは顔を歪める。


「エツィールド家に行ってからだよ。身の回りでおかしなことが。今日だって、君が参加しないと決まったのは昨日だった」

「ええ。側妃さまが嫌がったって」


側妃の反対にあって、シスツィーアは演習への参加を取りやめて。


それは偶然だったけれど


「もし、参加していたら、君が殺されていたかもしれない」

「まさか!」


囁くアランの声は、震えていて。


(キアルは助かった。けど、ツィーアだったら?)


シスツィーアがアランを庇って、キアルのように裂けた地面に身体を挟まれたら?


華奢なシスツィーアなら、そのまま地の底に落ちていたかもしれない


(助かったとしても、キアルみたいに骨折だけでは、すまなかったかも・・・)


そう考えると、アランはシスツィーアを失うかもしれない恐怖で、押しつぶされそうになって


ぎゅっ。


アランがシスツィーアを、縋りつくように抱きしめる。


「君は、何ともなかった?」

「えっ、ええ。レオリード殿下が一緒だったから」


小刻みに震えるアランを振り払うことは出来ずに、シスツィーアがそのままの姿勢で、魔道術師団の棟での出来事を話す。


「良かった。兄上と一緒で」


そう言って、やっとシスツィーアから離れ、青ざめながらくしゃっと泣きそうな顔を見せるアラン。


(ここにいるのは、危険かもしれないわ)


本当にアランを狙って、この騒ぎが起こっているなら


警備がしっかりしている、王宮の方が安全だ。


シスツィーアはアランの手を取って、立ち上がる。


「アラン?ここにいたら危ないかもしれないわ。王宮へ戻りましょう?」

「ううん。さっきのことで動揺したけど、騒動がおさまるまでは見届けたいんだ。僕にも出来ることはしたいしね」

「でも・・・、狙われているかもしれないんでしょう?」

「うん・・・。でも、確証はないし、考えすぎかもしれない。だから」


ぎゅっと、シスツィーアが取った手に、力がこめられる。


「君も危ないかもしれないけど・・・まだ、城に戻りたくない。お願い。怖いけど、逃げたくないんだ」


アランにとっては、ここが正念場。


ここから逃げても、誰もアランへ文句は言わないだろう。


王族として身を守ったと、誰しもが納得する理由がある。


けれど、逃げてしまっては、まわりから認められることはない。


ずっと、認められたくて頑張ってきた。


それを台無しにしたくない。


それになにより


(目の前で傷ついている人がいるのに、見捨てたくない)


シスツィーアやレオリードや、ほかのアランを助けてくれた人たちと同じように、


(僕だって、誰かを助けたい)


(ここで逃げたら、ダメだ)


「役に立つかは分からない。足を引っ張るかも。けど、出来ることをしたいんだ」


さっきよりも落ち着いて、そうシスツィーアへ告げるアランの目は迷いがなくて


「ごめん。迷惑かけるけど、現場に戻ろうと思う。一緒に行ってくれる?」

「もちろんよ」


出来ることをしたいと、震えながらも言うアラン。


シスツィーアも微笑んで応えた。



最後までお読みくださり、ありがとうございます。

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