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はじまりの物語  作者: はあや
本編
103/431

守られるべき者

(なん・・・で・・・)


王族を危険な目に合わせるわけにはいかない。


だから、怖かったけれど、立ち上がって窓の外を見に行った。

だけど結局庇われてしまって、シスツィーアは泣き出しそうになるのを堪える。


「殿下は・・・・・守られるのは・・・王族です!」


(違う。こんなこと・・・言いたいんじゃないのに)


王族を守るために、あんなに騎士たちと訓練したのに、それが果たせなくて


「わたしは・・・・殿下を守る・・・それが・・臣下としてのっ!」


だから悔しくて、こんなに心がざわざわして


知らず知らずのうちに、ぽたぽたと涙が床にこぼれる。


(ダメ。泣いたら、女だからって・・・)


そう思うけれど、涙はすぐには止まってくれなくて


大きく息を吸って、吐く。


手で涙を押さえて、嗚咽を堪えて、シスツィーアは顔を上げる。


「すみません。取り乱して。ですが、殿下は王族です。まずはご自身の、身の安全をお考え下さい」


せっかくかばったのに理不尽に文句を言われ、さすがに温和なレオリードも怒ると思った。


だけどレオリードはシスツィーアへ、なぜか痛々しそうな視線を向けて、手を伸ばして


ふわり


レオリードの手がシスツィーアの頭に乗せられ、優しくなでられて。


「怖かったな。もう大丈夫だ」

「っ!」

「すまない、君を傷つけるつもりはなかった。思わず身体が動いたんだ。次から気を付けるよ」


穏やかな優しい声。シスツィーアを見つめる瞳は、声と同じくらい優しくて


(なんで・・・?)


頭を撫でられたことも、慰められたことも、謝られたことも、全部シスツィーアにとっては予想外のことで。


また泣きそうになりながらも、レオリードを見つめる。


安心させるように、穏やかに微笑んでいるレオリード。


だんだんとシスツィーアの、ざわざわした心も落ち着いてくる。


「すみません。殿下に、失礼なことを、言ってしまいました」

「気にしないでくれ。俺も軽率だった」


ぽつりと、シスツィーアから出てきた謝罪の言葉も、簡単に受け入れて笑うレオリード。


自分との格の違いを見せつけられたようで、シスツィーアはやっぱり悔しい思いがして。


窓の外はまだ騒がしいから、念の為にとレオリードから言われ、机の上を片付けて窓から離れる。


先ほどと同じ、扉あたりの椅子にレオリードが座り、シスツィーアもそこから椅子3個分くらい離れて座る。


「そう言えば、何をしていたんだ?」


重くなった雰囲気を変えようと、今度はレオリードが尋ねる。


「先日、殿下から教えてもらった『おまじない』です。王族に献上する護符は、一度調べられると聞いたので、記録が残ってないかと思って」

「そうか。見てもいいだろうか?」

「これです」


ファイルを開いて、レオリードに見せる。


「さすがに覚えてないが、こんな護符だったんだな」


たしかに、当時のレオリードは7歳くらい。覚えていなくて当然だ。


「そう言えば、どうして殿下はこちらに?」

「ああ。マーシャル家の開発した魔術式を教えてもらいにね」


公爵家秘伝の魔術式や魔道具は、マーシャル家以外の者へは見せられないが、国へ報告したものなら許可を得れば閲覧可能だ。マリナとの婚姻に向けて、少しずつレオリードは勉強していた。


「この護符も、もとはマーシャル家に伝わるものだったらしい。あの家は魔術に長けているから」

「そうなんですか?」

「ああ。マーシャル家は昔から魔術式の開発が得意でね。一般に出回っている魔道具も、幾つかあの家が開発した術式があるんだ」


レオリードが挙げたのは、シスツィーアも知っている魔術式。


「すごい!魔道具に詳しい方もいるんですか?」

「そうだな。マーシャル家当主のエリック・マーシャルだろうか?先代が開発した魔術式を使って、新しい魔道具を作ったと聞いている。あとは、魔道具開発ならリドファルド家が一番だが、魔道具も魔術式も扱いならオルレンのところの、レザ家が一番だろうな」

「オルレンさまも、魔道具の使い方がお上手ですしね」

「ああ。将来は魔道術師長になれるだろうな」


なんとなく、そのあとの会話がなくなり、シスツィーアはレオリードに断りを入れて写しの続きをするが、30分もしないうちに終わってしまった。


だんだんと日が傾き、部屋へ入ってくる光もオレンジ色になってくる。けれど、事務官はおろか、この部屋へ近づく足音すら聞こえない。


「えっと・・・さすがに」

「そうだな、誰か来てくれても良さそうだが・・・」


暗くなった後も部屋に二人きりだと、まわりから誤解されても仕方がない。


さすがに、そわそわと落ち着かなくなってきたころ


「すみません、遅くなって」


扉が開いて、事務官が入って来た。


「随分と時間がかかったな。なにがあった?」

「っ!?レオリード殿下!?なぜこちらに!?」

「魔術師長への面会依頼を出していたはずだが?」

「なんですって!?」


あたふたとする事務官。彼はレオリードがこちらに来ることを知らされていなかったらしく、真っ青になっている。


「実は、演習で使用するはずだった魔道具に不備が見つかり、それ自体はすぐに修理できるものだったのですが・・・」


事務官によると、本来なら演習前にも再度確認してあるはずの魔道具が上手く起動せず、それがきっかけで起こったのが、1度目の揺れだったらしい。


その原因はすぐに分かり修理されたが、再度動かそうとすると、また起動せずに地面が揺れて。


それで原因を突き止めるために時間がかかり、戻るのが遅くなったのだ。


「今回に演習で使う魔道具は、たしか防御のものだったな」

「はい。従来のものより小さな範囲で使用するもので、何度も行われた予行練習では、問題なく起動していました」


午前中に行われた予行練習でも、問題なく起動した。だが、本番になって起動せず、今まで原因を調査していたのだ。

結局今日のお披露目は中止となって、日を改めて行う手はずになっている。


「けが人もいませんし、魔道具の暴発もありませんでしたから、部品の接触不良だと思われますが」


地面が大きく揺れただけで被害はなかったと聞き、レオリードも胸を撫で下ろす。


「そうか。被害がなくてよかっ」


ごぉ!!ごぉぉぉぉぉ!!


今までよりも大きく地面が揺れ、地響きが鳴り渡った。





最後までお読みいただき、ありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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