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はじまりの物語  作者: はあや
本編
100/431

演習当日 ~魔道術師団の棟~

『おまじない』の謎を解く手がかり


それを求めて、魔道術師団へ来たシスツィーア。


今日は学園が休みだったから、午前中にアランと少し公務をして、念のため魔力を渡して。


昼食を済ませてから、昨日も訪れた事務室へ来ていた。


魔術師長は今日の演習へ参加するために不在だったが、留守番の事務官に当時の写しを見せてもらう。


目の前に広げられた『おまじないの護符』からは、写しだからか『引き込まれる』感覚はなく、いたって普通の護符だ。


「この部分が、魔力の流れを円滑にするための部分で、こちらが『器』から、余分な魔力を流すための部分ですね」


事務官が指をさしながら、『護符』に描かれた意味を教えてくれる。


魔力を上手く扱えない、子どもに持たせる護符。


説明を受けながら、シスツィーアも事前に調べていた資料と見比べるけれど、特別おかしなところはなかった。


もっとも、おかしくないから王族への献上品として認められたのだが。


「これを写してもいいでしょうか?」

「ええ。問題ありません」


転写用の魔道具もあるのだが、それは使わずに、同じくらいの大きさの紙に手書きで写していく。


レオリードがしたように、自分で描くことに意味があるかもしれないからだ。


「隣の部屋にいます。終わったら、声を掛けてください」


事務官は自分の仕事へと戻り、部屋にはシスツィーア一人。


間違えないように、ひとつひとつ丁寧に


集中して、描き写していく。


しばらくすると、どこからか微かにリリンとベルが鳴る音がして、しばらくすると事務官が扉を開け、シスツィーアに声を掛ける。


「すみません、急遽演習場へ行かなくてはいけなくなりまして」

「えっと、じゃあすぐに片づけますね」


シスツィーアは立ち上がり、机の上を片付けようとするけれど


「いえ、そのままされていて大丈夫です。ただ、出入りを制限しますので、申し訳ありませんが、この部屋に鍵を掛けさせていただいても?」

「わかりました。このまま続けさせてもらいますね。鍵もかけてください」

「すみません。たぶん、2時間はかからないですから。ああ、お手洗いはあちらにありますから、ご自由にお使いください」

「ありがとうございます」


慌ただしく出かける事務官を見送り、作業を再開する。


(違いが分からないわね)


少し手を休ませようと、じっと魔道術師団にあった『護符』の写しを見つめる。


シスツィーアがアランから借りた護符は、ところどころ掠れていて、線が消えている部分もあるから、余計に違いが分からない。


シスツィーアが覚えている限りでは、まったく同じに思えるけれど


(・・・これと、アランの『護符』が違うことはないわね)


頭のどこかが、こんがらがってしまったのだろう。


魔道術師団にあるものと、アランが持っている『護符』は同じ紋様なのに


なぜか『違うもの』と思ってしまったのだ。


(疲れたのかしら?昨日はちゃんと、眠ったはずなんだけどな)


おかしなことを考えてしまった自分に苦笑しながら、シスツィーアは気分転換に窓の外を見る。


空は晴れていて、夏の空とは変わって日差しが優しい。


(今日の天気なら、外で行われる演習も気持ち良さそう)


そんなことをぼんやり考えていると、


カチリ


扉が開く音がして、早いけれど事務官が戻って来たのかと、シスツィーアが顔を向ける。


「失礼。魔術師長と面会の約束で来」


(え?)


開いた扉から入って来たのは、演習へ参加しているはずのレオリードだった。


「え・・・?今日は、演習では・・・・?」

「あ、ああ。一番下の弟がまだ見学したことがなくてね。今日は弟が参加することになったんだ」


レオリードが参加するからと、シスツィーアは参加を取りやめた。なのに、なぜレオリードがここへいるのだろう?


そう首を傾げるシスツィーア。


レオリードも演習へ参加しているはずのシスツィーアが、ここにいることに驚いている。


「今日の演習では、新しい魔道具のお披露目があるだろう?一番下の弟、リオリースの初公務に良いのではないかと思ってね」


さすがのレオリードも、シスツィーアに昨日の側妃のことは話せない。

だから何かあった時のために、王子が3人とも参加することは認められないと、以前新しい魔道具のお披露目の時に参加していたレオリードが、急遽参加が取りやめることになった。


キアルもオルレンも見学を中止するつもりだったが、「こんな機会はそうそうないから」とレオリードが後押しし、二人はそのままリオリースに付き添って参加している。


そう説明する。


「そうだったんですね」

「君はどうして・・・?演習へ参加しているのではなかったのか?」

「えっと・・・。あの・・・」


シスツィーアが納得すると、今度はレオリードからシスツィーアが参加しないことを尋ねられて


さすがにレオリードへ「側妃さまから言われたので」とは言えずに、シスツィーアは口ごもる。


「あの・・・」



騎士団と魔道術師団の合同演習。年に4回行われるが、今回は新しい魔道具のお披露目も兼ねていて、いつもより規模が大きい。そこへ初参加となるアランの、側近がいないのは不自然で。


「えっと・・・・」


首を傾げながらも、シスツィーアの返事を待っているレオリード。


(どうしよう・・・。魔道具のお披露目を楽しみにしていたことは、知られているし・・・)


シスツィーアが自分から言ったわけではないが、執務の合間のお茶の時間に、キアルから「演習、怖くないか?」そう尋ねられて、




「えっと、初めてなので、怖いとかはありません。想像できないというか」

「ああ。それはそうかもなー。オレも初めての時は訳わかんなかったし」

「新しい魔道具のお披露目もありますし、シスツィーア嬢はそちらは楽しみなのではありませんか?」

「ええ。新しい魔道具には興味あって、楽しみです」



そんな話をしたことを思い出す。



「えっと・・・その・・」

「アランから、何か言われたか?」

「えっと・・・」


何を言っても誤魔化せない気がして、しどろもどろなシスツィーアへ、レオリードはため息をつく。


(どうしよう・・・呆れられた・・・)


せっかく頑張っていることを認めていくれているのに、期待を裏切ってしまったかとシスツィーアは心が痛む。


けれど、レオリードから言われたのは、シスツィーアの予想外のことで


「すまない。母が言ったことを聞いたんだな」

「えっと・・・その・・・。なんのこと」

「君に参加しないよう、そう王妃さまへ言ったことを耳にしたんだろう?」


レオリードにはシスツィーアが参加していない理由が、分かってしまったのだろう。

どこか怒りを抑えるように言うから、シスツィーアは縮こまってしまって


(それくらいで、参加しないなんてって、呆れられた・・・よね)


貴族社会にとって、相手を陥れるための誹謗中傷はよくある話だと聞く。それに負けてしまったと、呆れられたのだろう。


「アランもアランだ。どうして君に参加しないように言ったんだ」

「えっと・・・。それは、わたしから、アランに・・・アランは、「参加しよう」と言ってくれて・・・」

「それだって、君が遠慮してくれたことには変わりない。新しい魔道具を、楽しみにしていただろう。本当に申し訳ない」


なんだか怒られているようで、泣きそうになるシスツィーア。


けれど、レオリードの怒りはシスツィーアではなくて。


真剣な目で、シスツィーアへ頭を下げて謝罪するレオリード。


「殿下に謝罪していただくことではありません!えっと、側妃さまの仰るとことも、分かりますし・・・すみません、わたしのせいでご迷惑をお掛けして」


シスツィーアが慌てると、レオリードはすぐに顔を上げてくれて。


「今からでも遅くない。演習場へ行くと良い」


(・・・もしかして、殿下は・・・)


さすがにシスツィーアにも、レオリードがシスツィーアのために演習への参加を取りやめたことが分かる。


(どうしよう・・・新しい魔道具のお披露目もだけど、殿下も準備されてたのに・・・)


騎士たちと演習のことを、楽しそうに話していたのを知っている。騎士たちだって、「レオリード殿下が来るならいいとこ見せないと!」と、張り切っていたのも。


だからこそ、シスツィーアはレオリードへ申し訳なくて


「わたしなら大丈夫です。こちらで調べものをすることに、なっていますから」


泣きたくなるのを堪えて、レオリードへ「気にしないでください」と、そう笑いかけるしかできなかった。



最後までお読みいただき、ありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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