お友だち
「え?お兄さまも生徒会に参加するの?」
「正確には香夜祭の備品修理だけね。壊れた備品の買い替え担当になったんだけど、見たら結構修理でいけそうな物が多くて。で、殿下に『修理してダメなら買い替えませんか?』って提案してみた。その方が予算も抑えられるし」
夏季休暇まであと一月を切ったある日の放課後。
二週間後には期末テストがあるので、その前にとシスツィーアはシールスに誘われて、久しぶりに彼の家に遊びに行くことになった。
もちろん兄であるアルツィードも一緒で、待ち合わせ場所である校門で、アルツィードを待っていた時のこと。
「買い替えの方がお店にとっては良いんじゃない?」
「殿下方もそう思ってたみたいだけど、それだと、ウチだけが儲けてる印象しか与えないだろう?ほかの商店の縁者だって学園にはいるしさ。だから、品物を見て修理できるか判断してもらって、修理がダメそうなら買い替えにして他の商店にも声かけたいって提案したんだ」
「そうね。学園行事ですもの、一つのお店に偏ると公平じゃないわね」
「だろ?んで、知り合いで魔道具に詳しいって言ったら、俺はアルしか知らないし、アルの手に負えなかったら親方にも聞けるかなと思ったんだ」
「なるほどね。それで、殿下からの許可が下りたのね」
「そ。修理にどれくらい時間がかかるか分からないから、テスト終わったら始めるって言ってたよ」
「そう・・・・」
自宅ではリューミラがレオリード殿下のお役に立ちたいと張り切っているし、生徒会で知り合った方々とも楽しく交流していると聞いていて、ほっとしていたのだが・・・。
アルツィードが頼られるのは妹として誇らしい。けれど、シスツィーアは内心複雑だった。
(なんだか、落ち着かないと言うか・・・・)
たしかにリューミラもシールスもシスツィーアが紹介したが、まさか本当に意見が採用されるとは思わず、胃が痛くなりそうになる。
あまり他の生徒には関係を知られない方が良いかもしれない。余計なことになったら、嫌だ。
妙な不安が沸き上がり、シスツィーアの顔が曇る。
つんっ。
不意にシスツィーアのほっぺたに、シールスの指が伸びる。
「・・・・・なにするの?」
痛くはない。けれど急すぎて意味が分からない。
「ん?眉間にしわ寄ってたから」
「意味が分からないわ。勝手に女性に触るのは不作法よ」
シールスから一歩離れるシスツィーア。
指が当たっていたところを手で押さえながらシールスを見上げると、シスツィーアの不安に気付いていたのか、苦笑している。
「まあ、香夜祭までだから大丈夫だよ」
「ねぇ、香夜祭ってなにするの?」
「あれ?リューミラさまから聞いてない?」
「夜に咲くラデラの花にちなんで、夜に行われる親睦会で、女性はドレスを着て男性とダンスを踊るとしか聞いてないわ」
「そっか。大体はあってるよ。ほら、ツィーアみたいに社交界デビューしない貴族の令嬢子息もいるし、その方たちにも夜会の雰囲気だけでも味わってもらおうってことから始まった催し物だね。それに、香夜祭が終わるとすぐに冬がやって来て、年が明けたら三年生は自由登校になるから、学園に来ない生徒も増えるし。後輩たちとの思い出作りってとこかな」
「ふーん。ドレスかぁ・・・・制服じゃダメかしら?」
社交界デビューをしないのに、香夜祭のためにドレスを買ってもらえるとはシスツィーアには到底思えなかった。
義姉のリューミラでさえ社交界デビューの時のドレスに手を加えて、去年は参加していたのだ。もちろん義姉も香夜祭へ参加する以上、借りることはできない。
「姉さんの貸そうか?卒業しているから使わないだろうし」
「リジ―の?・・・気持ちだけもらっておくわ。サイズあわないし」
三歳年上のシールスの姉であるリジ―は、会えば世間話はするし、シスツィーアのなかでは仲が良い方だ。
困った人はほっとけないタイプで、シスツィーアが頼めばドレスも快く貸してくれるだろう。だけど、背の高いすらっとした女性でシスツィーアとは体型が合わなさすぎる。
「もう少し、成長しても良いと思う」
じっとシスツィーアを上から下まで見たシールスがぼそっと呟く。
「どこ見てるのよ」
じとっとシールスを見上げると、シスツィーアは頭をぽんぽんと叩かれ
「ま、そのうち成長するさ」
「もう!」
どちらともなくぷっと吹き出して、楽しそうな笑い声があたりに響き渡る。
「待たせたな、何してるんだ?」
「あ、アル。ツィーアの成長について」
「ああ・・・そのうち伸びるだろ」
アルツィードもシスツィーアを上から下まで見ると、シールスと同じことを言う。
「もう!お兄さまも来たし、いいから行きましょう。今日は新しいお茶を飲ませてくれるんでしょ?楽しみだわ」
「そうそう。新しく外国で出て来た茶葉でね。そのままでも美味しかったけど、ミルクティーにしても良いと思うんだよね。人気がでると思うよ」
その日はシールスの家で新しいお茶の感想を言い合ったり、学園のことを話したりと思い切りおしゃべりして、シスツィーアにとって久しぶりに楽しい一日だった。
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