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7.婚約者への悩みと魅力的な男性2

「婚約当初、彼女は十一だったんです。周りからは幼女趣味だと散々言われましたね。今では逆にうらやましがられていますが……、正直最近は重荷でもあります」


 社交界の華にまでなった相手のパートナーは、色々気苦労もあるのだろう。

 なんとなく遠くから見る彼の婚約者は派手好きっぽく見えるが、彼自身は地味――というわけではないが、華美に飾る事はしない。

 そのせいで釣り合っていないようにも感じた事がある。


「愚痴を聞かせてしまいました。このことはどうぞ内密に」


 いたずらに輝く瞳は深い青。

 お互いままならない婚約者の存在に苦笑しか出ない。


 貴族にありがちの政略結婚。

 ヴィクトリアの場合は断る事はできないが、彼ならばきっと婚約解消できるのではないかとも思う。

 

 侯爵家の三男で裕福。相手も同格の侯爵令嬢ではあるものの、今や没落気味。

 彼女は一人娘だから、爵位は彼女が継ぐことも出来るが、周りの見方では爵位はきっとルドヴィックが継ぎ、その代わりに金銭援助をしているのだろうと言われていた。


 男として次期侯爵の配偶者と見られるより、次期侯爵と見られた方が断然いいからだ。

 金で爵位を買った――とまでは言われないが、それに近い。

 

 下世話な話ではあるが、社交界ではそういう悪意ある噂は多い。

 ただし、立場的にはルドヴィックの方が婚約者の侯爵一家より上なのだから、嫌なら解消することは簡単なはず。

 

 まあ、それこそ人それぞれ。

 愚痴を言いながらも、やはり美しい婚約者の事は愛しているのかも知れないし、他にも理由があるのかも知れない。

 深く考えるのは失礼なのでやめておこうと一瞬目を伏せた。

 その直後、ワゴンを引いた従業員が入って来て、ルドヴィックが声をかけてきた


「ああ、来ましたね。ここは特にフルーツタルトが絶品だそうですよ」


 色とりどりなフルーツはまるで宝石のようで、ヴィクトリアは目を輝かせた。


「今日は諦めていましたが、来れて良かったと思います。なかなか予約が難しいですが、月に一回は来たいですね」


 愚痴というか自分の考えや思いを吐露できて、少しだけ気分が上向いたヴィクトリアはルドヴィックに感謝していた。

 通りがかっただけなのに、ここまで親切にしてくれる人というのはなかなかいない。


「お互い今日は不運でしたが、それだけで終わらなくて良かったと思います。私も愚痴を言えてすっきりしました。親兄弟には言えませんから、こんな事。同僚に言えば、すぐに社交界にも広まるでしょうしね」

「それは、わたくしを信用しているという事でしょうか? そういえば……、わたくしの名前をなぜご存じだったんですか?」


 不思議そうにヴィクトリアが聞くと、少し罰の悪そうな顔でルドヴィックは答えた。


「実は、以前から知っていました。あなたの御父上は結構有名ですし、その跡継ぎであるあなたも優秀だと聞いていますので」

「男勝りとでも言いたいのでしょうか?」

「違います! むしろその逆と言いますか……、とても魅力的な女性だと」


 社交辞令の言葉ぐらいで揺らいだりはしない。

 しかし、ここまでさらけ出した相手から言われれば、社交辞令ではない言葉なのではないかと勘違いしてしまいそうだ。

 

 ただ、その社交辞令を素直に受け取れないのは、ヴィクトリアは今の魅力的と言われる、社交界女性の流行体形から外れている自信があったからだ。

 最近はほっそりとした色白な女性が人気なのだ。


 というのも、数年前に王太子に輿入れした王太子妃が西の国の方で、金髪碧眼の色白ほっそり体形美人だったからだ。

 この国はどちらかと言えば大柄な人種。

 体つきもほっそりとは程遠い。

 

 しかし、かの王太子妃はその見た目から庇護欲を大層誘うような人で、貴族の若い男性陣を釘付けにした。

 その結果現在の憧れ体形は現王太子妃になった。

 つまり、魅力的というのはそういう体形をいう訳で。


 ――結局は父を知っていたから、わたくしも知っていたという訳ね。


 なんとなくそれ以外でも知っていそうだったが、そこは追及しなかった。

 追及して男勝りな商談を見られていたと知っても恥ずかしいだけだ。


「いただきましょう」


 準備が整うと、ルドヴィックが手ずから皿に取り分けてヴィクトリアに渡してくれた。

 自然とそれを受け取ったが、これはまるで子供とその親のようなやり取りだ。

 

 彼自身が言っていた“親のように”という言葉を思い出す。

 なるほどと、ヴィクトリアはこっそり相手を見た。


 ――これは確かに嫌がる子はいそうだわ。それが年下の婚約者なら特に。子供扱いされていると思われそうだわ


 これはもう自然と身についてしまっている習慣みたいなもののようだからこそ、直すのは難しそうだった。

 むしろ、こういうことをされても嫌じゃない相手を探した方がよっぽどお互いのためだ。

 そして、ヴィクトリアは特別嫌いではない。

 しっかりとしなければと言う思いが強いが、強いからこそこういう風に甘やかされるのは嫌いじゃない。


 ――色々とままならないものだわ


「どうかしましたか?」

「いえ、おいしそうだと思いまして」


 誤魔化すようににこりと微笑み、ヴィクトリアはカトラリーを手に持った。

 対面に座っている彼はそれ以降も甲斐甲斐しくヴィクトリアの世話を焼きながら、色々な話題で楽しませてくれた。


 これが年上の魅力かと心のどこかで、自分の年下の婚約者と比べてしまうのをやめられなかった。




お読みいただきありがとうございます。

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