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15.疑いとその真意1

「ねぇ、ロザリー……」

「なんですか、お嬢様?」


 鏡の前で髪を整えてもらっているヴィクトリアは、鏡の中の自分を眺め、そして若干の思い違いを信じて鏡越しにロザリーを見て声をかけた。


「わたくし……太ったわよね?」


 気のせいだと思いながらも、既製品ではない自分のサイズで作らせているドレスがなんだか最近きつくなってきている気がしてならない。

 そう、きっと気のせいと信じたかったが、なんだか顔まで丸みを帯びてきている――気がする。


「……お嬢様は、少しやせすぎだったのでこれくらいがちょうどいいかと」

「ロザリー、その間は何? いいのよ。はっきり言っても。そうですね、お嬢様って」


 口に出してしまえば、認めるしかない。

 ふうと息を吐きながら、ヴィクトリアはこの三か月で太ってしまった原因を思い浮かべた。


 ――何が原因かなんて、誰よりも分かっているわ


 憂いたってしょうがない。

 その原因を取り除くのは、ヴィクトリアには色んな意味で難しいからだ。


 ――あの方――マメなのよね……


 ちらりと視線の先には数々の贈り物。

 その中には最近はやりの焼き菓子やら、生菓子やらも含まれる。

 全部ヴィクトリアが食べることも出来ないので、少し食べたら残りは侍女などの家の雇人に下げ渡しているが、どうしても少しは食べる必要性があった。

 それは、会うたび、もしくは手紙の返事を書くときにお礼と感想も必要だったから。


 ――なんと言って断ればいいのかしら……


 まさか、こんな事で頭を悩ませる日が来るとは思ってもいなかったヴィクトリアは、深くため息をついた。



 それは、三か月前。

 ヴィクトリアの婚約者が、家に乗り込んできた際の事。結局、婚約を破棄する方向で話が進み、その当日国に仕える第二騎士団長ルドヴィックに求婚された。

 

 今までまともに会話したのはたったの一回。

 それなのに、ルドヴィックは以前からヴィクトリアを知っていて、しかも一目ぼれしたと告白してきた。

 

 驚きを通り越して、呆然としたのは記憶に新しい。

 しかも、元婚約者との話もいつの間にか、彼が主軸となって話が進んで、今から二か月前にあっさりと決着がついた。

 莫大な慰謝料と共に。


 ヴィクトリアの家は、お金には困っていない。

 しかし、ヴィクトリアの名誉のために戦うと宣言してくれた父親も唖然とする金額。一体どうやったのか、今でも謎だ。

 

 一度聞いてみたが、『向こうも納得して支払いましたので、問題ありませんよ』と微笑みながらさらりと流された。

 かの伯爵家は、それなりにお金には困っていたと思うのだが、今どうなっているのか社交界で噂にもなっていないことが怖い。


 そして、婚約破棄の事件が片付いた後から、ルドヴィックに良く誘われるようになった。

 騎士団長として忙しいのではないかと聞くと、『私の代わりに仕事をしたい人はいくらでもいますので大丈夫です』と返される日々。

 しかも、こちらの予定までしっかり把握して誘ってくるので断れない。


 何よりものすごくマメだ。

 会えない日は毎日手紙が来るし、贈り物も来る。

 しかも、ヴィクトリアが断りづらい様に本当に小さな贈り物。

 花だったり、お菓子だったり、小物だったりと、少額の贈り物。返したところで、捨てるだけと言われてしまえば受け取るしかない。


 一応友人としての付き合いで向こうも納得しているはずなのに、これでは婚約者に向けるモノではないか。

 それを指摘する勇気もない。

 向こうは権力持ちの侯爵家三男で、騎士団長として国王の覚えも目出度い出世頭。

 これで不満を言おうものなら、周囲の女性からの怒りを買いそうだ。


「やっぱり少し、家で食べる量を減らした方がいいかしら……」


 三か月で肥えた原因は、ルドヴィックから贈られる菓子類だけではない。

 彼に誘われるときは、大体食事付き。

 しかも、どこもおいしいのでついつい食べ過ぎてしまう。

 

 ヴィクトリアは基本的に食べることが好きだし、会食などでは残す方がマナー違反というのもあって、ルドヴィックとの食事でもほとんど完食する。

 

 女性は異性の前では小食であった方が可愛げがあるのだが、正直ヴィクトリアは世間一般的な女性に比べると少し毛色が違って今時はやりの女性らしさはない。

 そのため、幻滅されてもいいと――むしろそれを狙って普段通りに行動しているが、ルドヴィックはいつもすべて受け入れてしまい、今のところ効果がない。

 

 できれば求婚をなかった事にしたいのだが、どうもルドヴィックは本気のようで、逆に戸惑う。

 正直あの時は慰めもあって求婚してくれた、とちょっと思っていただけに、その本気具合に尻込みしていた。


「ロザリー、ふと思ったのだけどこのままぶくぶく太ったら、ルドヴィック様は愛想付かすと思う?」

「わたしに聞かれましても……。でも、なんとなくミルドレット様ならどんなお嬢様でも受け入れてしまいそうですよ。それに、本当にそんな丸々と太りたいんですか?」

「無理ね。怠惰の象徴にはなりたくないわ」


 自分で言って、否定する。

 女性らしい可愛げが少ないかも知れないが、それでも体形は気になるのだ。


「ところでお嬢様、どうしてそんなにミルドレット様の求婚に神経質になっているんですか? クレメンス様に比べて、すごく優良物件ではないですか」


 不思議そうにロザリーが首を傾げた。

 世間一般的に見ればその通り。今のところルドヴィックがヴィクトリアに求婚したことは外には知られていないが、家の者は全員ルドヴィックとの事を知っている。

 知っているから不思議がっていた。


 あのクズ――もとい前婚約者なんて足元にも及ばないルドヴィックとの婚約は誰が見ても良縁なのだから。




お読みいただきありがとうございます。

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