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13.突然の求婚と困惑3

 何が聞きたいのか分からないが、ヴィクトリアは彼を容姿で選んだわけじゃない。

 好みか好みじゃないかで問われれば、嫌いではないという答えが当てはまるものの、特別好きだったわけじゃない。

 

 ヴィクトリアの好みとしては、顔というよりも体格で好き嫌いがある。

 父親がどちらかといえばがっしりとした背の高い背格好だったので、そういう男性の方が好みだ。

 それを言えば、なんとなく親離れできていな子供のように思われるので、話したことはない。


「私は、あのような派手な容姿ではありませんが、大切にすると誓います」

「えっ……え?」


 ルドヴィックが突然の告白を口にして、一瞬思考が止まった。

 彼は何が起こっているのか理解が追い付いていないヴィクトリアの横に膝を突き手を取り、その手の甲に唇を落とした。


「あんな男の事は忘れて、私と結婚してください。一目惚れだったんです」

「は、はい!?」

「あなたが社交界にデビューしたとき、幼さを残しながらも大人びた眼差しに一目で恋に落ちました」


 一体何が始まったのか全く意味が分からない。

 ただ、真剣にヴィクトリアに許しを請うルドヴィックに、自然と顔が青く(・・)なった。


 この執着男(ストーカー)の目当てが自分だったのかと。


「まさか、社交界デビューが決まる前に婚約が決まるなんて思ってもいませんでした。相手が年下であるから、社交界デビューの舞踏会は御父上がエスコートしていましたので、後々知って、相手の男をどう処分しようかと――いえ、すみません。ちょっとした冗談です」


 冗談にしては、目が据わって見えたのはきっと気のせいだと信じたい。


「あ、あの……犯罪者の婚約者はちょっと……」

「大丈夫です。表に出なければ犯罪者にはなりませんので――……失礼。これもちょっとした冗談です。笑えませんでしたか」


 笑えないが、なんとか作り笑いでごまかす。

 冗談で終わってほしい。切実に。


「それで、私では駄目でしょうか? もちろん、婚約破棄の後すぐに婚約というのはあまり外聞がよろしくないのは分かりますが、大丈夫です。私の方ですべて手配いたしますので」

「ちょ、ちょっと待ってください。あの、いきなりで困るのですが……」


 勢いと圧のすごい、ルドヴィックに待ったをかけた。

 なにやらすごい話を進めようとしている。むしろ、ここで待ったをかけなければ、なし崩しに話が進んでいた。


「申し訳ありません。思わず、いつもの癖が。部下から強引すぎるところがあると言われていたのですが、癖はなかなか治らないもので」


 この強引さで、侯爵領をかすめ取ったわけか……。

 しかし、なぜ侯爵領が必要だったのかと気になった。

 

 商人として、実はかの地が結構魅力的な土地なのは間違いない。しかし、騎士団長である彼からしたら、土地など必要とは思えなかった。

 ルドヴィックは何度か目を瞬かせ、最後ににこりと微笑んだ。


「できれば、求婚の件は前向きに考えていただければと。ところで話はかわりますが、私の買った侯爵領はこの王都と東を繋ぐ重要な交易都市なんですが、確か近々ここに店を出す予定でしたよね? ぜひそのお手伝いをさせていただければと思います」

「……あの、どこでその話を?」

「私の土地ですから話は入ってきます。父君も知らなかったようですね」


 平然としているルドヴィック。

 偶然……なんだろうかとヴィクトリア。

 

 その支店の話はかなり前から計画されてきたものだ。それこそ、ヴィクトリアが社交界にデビューする頃の話で。

 どこにするか、資金はどうするか。

 時間をかけてじっくり進めている計画で、その時は侯爵領は支店検討の一つというだけで、正式には決まっていなかった。

 それなのに、どうしてピンポイントでその侯爵領を買ったのか色々と疑いたくなる。


「もし、断られてもお手伝いはさせて下さい。今回婚約破棄になった経緯は私も原因ですからね。でも、もし私との事を迷っているのでしたら、まずは友人として付き合ってほしいと思います」

「友人として、ですか?」


 なぜか、うっすら怖さがある。

 眉目秀麗な整った顔立ちの裏にあるものを暴くのは止めておこうと心に誓い、裏の顔があるのは父も同じなので気にしない様にした。

 いや、気にしていたら怖すぎて逃げ出したくなる。

 この短い間で、婚約者としては、ちょっと、うん――歓迎どころか、歓迎できない気持ちが強くなった。

 しかし、友人からならと頷く。

 むしろ、頷かないといけない予感がした。


「友人から、なら……」

「そうですか! よろしくお願いします」


 明るい返答に、ヴィクトリアは若干引きつりながら笑みを作る。

 目下の悩みは、これを父親にどう説明するべきかだった。



 

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