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【電子書籍化*コミカライズ】夜の街のオネエ様に憑依されている私は、乙女ゲームの当て馬ちゃんと呼ばれています  作者: 束原ミヤコ


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王妃ロザリンド様とクロノス騎士団



 土の日の朝、オスカー様は私の寮まで迎えに来てくれた。

 ルーファスにはもう既に許可を取ってある。「ストライド様が一緒なら問題ありません」とルーファスは言っていた。

 まさかドレスで探索に出かけるわけにもいかないので、今日の私は新しく購入した魔導師用の薄手のローブを実技訓練用の制服の上から羽織っている。

 学園指定の制服なのは、実技訓練用の制服は野外学習にも耐えられるように、頑丈な作りになっているからだ。

 女生徒用のそれは、形は普通の制服とあまり変わらない。

 紺色の制服で、スカートではなくスカートに見える膝丈のスラウザーズになっている。

 左手に魔晶石の腕輪。

 布製のリュックを背負い、髪は邪魔にならないように一つにまとめて貰った。

 膝丈のブーツを履くと、すっかり野外実習に出かける女生徒である。

 短剣など持ったら様になるだろうかと提案してみたけれど、持ち慣れない刃物を突然持つとかえって危ないということでルーファスに却下されてしまった。「短剣が必要なほどに逼迫した事態ならば、ストライド様の邪魔にならないよう、なるだけ動かず大人しくしていた方が賢明です」と厳しくルーファスに言われた。

 確かにその通りだ。反論の余地はない。


 私たちは連れ立って学園の門を出た。

 賑わう王都の大通りを抜ける。

 王都の街中を散策したことはまだないけれど、様々な店が並んでいて、人も多かった。

 装飾品の店や、カフェや、菓子屋や、定食屋、洋服店など、色とりどりの看板が掲げられている。

 人々の服装は洗練されていて、どちらかというと黒や灰色や白といった、落ち着いた色使いの衣服が目立った。

 衣服の流行はその年によって変わる。特に王妃様のドレスの色によって左右されたりもするので、今の流行りはそういった色合いなのだろう。

 私は流行に疎い。

 長い間悪役縦ロールで過ごしていたことからも分かるように、服装について熱心ではなく、普段着やドレスなどはルーファスが選んでくれたものを身に着けている。

 少しぐらいは気にしても良いのかもしれないなと、黒に金糸で刺繍が施された魔術師用のローブの袖を見ながら思う。

 隣を歩くオスカー様は、今日は帯剣している。

 フードの付いた黒く長いマントの右肩に、白い十字架が浮き出たように描かれているのは、聖クロノス騎士団の制服である。

 マントの下は灰色の革製の服で、それも聖クロノス騎士団の物だ。

 制服姿も様になっているけれど、大人びた風貌のオスカー様には今の服の方がよく似合っている。

 凛々しく雄々しい姿に、道行く人々も騒めきながらオスカー様に視線を送っている。

 時折「次期騎士団長様だ」「オスカー様、先日は助けていただいて……」などの声が遠く聞こえる。

 お礼を言おうとする方々に、軽く会釈をして返すオスカー様を眺めていると、王都と外を隔てる扉まではあっという間だった。


 王都は小高い塀に覆われており、日の出から日没までは東西南北に設けられた門が開いている。

 門があるのは魔物の襲来を避けるためだ。

 夜になると強い魔物が群れを成して襲ってくる場合がある。

 小高い壁と門である程度の来襲は防げる。空を飛ぶものについては、騎士団の方々が日々討伐や警備をしてくれているので、今のところ王都で被害が出た話は聞いたことがない。

 小さな村や町では、悲しい事が起きることもあるようだけれど、全てを防ぐというのは中々難しいことなのだろう。

 王都の門を出ると、すっかり人の賑わいはなくなった。

 行商に向かう馬車や、旅人や、冒険者の方々が、ちらほらと道を行きかう程度だ。

 オスカー様に声をかける方々も居なくなったので、私はやっと人心地ついて、オスカー様に話しかけた。


「オスカー様は随分と人気でいらっしゃいますのね」


 学園から王都の大通りを抜けて門までは、左程遠くはない。

 おそらく一刻も歩いていないだろう。

 ちらりと王都の門に視線を向けると、城が遠くに見える。

 国王陛下と王妃様が暮らしているお城。

 いずれは、私も住まう予定だった場所だ。なんだか、不思議な気がする。

 それはあまりにも遠く離れていて、私の居場所ではないような気がしてしまう。

 私は感心して言ったのだけれど、もしかしたら嫌味に聞こえてしまったのだろうか。

 オスカー様は困ったように眉根を寄せた。


「……人気、と言いますか、なんというか」


「ごめんなさい、ただ、凄いなと思いましたの。皆がオスカー様を知っているようでしたわ」


「いえ、謝る必要はありません。……ただ、聖クロノス騎士団の制服は、目立つという話で」


「私、騎士団の制服を近くで見たのは初めてかもしれませんわ。夜会の時など、警備のための制服はもう少し煌びやかでしたでしょう?」


「そうですね。昔は簡素な物でしたが、貴人を警護するにあたり、場にそぐわない制服はよろしくないと、王妃様からのご命令があったようです」


 王妃様。レオン様のお母様だ。

 私を嫌う、半獣族の姫。

 ロザリンド・リンドブルム様はとてもお綺麗な方だけれど、どこか冷たい印象だった。

 ご挨拶をしたときなどは、冷めた目で私を見ていた。

 今思えば、あれは嫌われていたからなのだろうけれど、気付かなかった私はもしかしてかなり鈍感なのかもしれない。


『アリスちゃんが鈍感っていう事実は否定できないわねぇ』


 しみじみとマリアンヌが言った。

 何か、かなり実感の籠った言葉だ。私の鈍感さで、もしかしたら誰かを傷つけてしまったのかしら。

 急に不安になってくる。


『違うわよぉ、アリスちゃんに傷つけられた~、なんて人がいたら、そいつの心がミジンコぐらい繊細だったってだけよ。そうじゃなくてぇ、まぁ、良いわ。やだぁ、今日のオスカー様も素敵ねぇ……っ、軍服着た男程良いものは無いわ、目に焼き付けとかなきゃ~!』


 オスカー様の姿に騒いでいるマリアンヌは一先ず放っておくことにした。

 あまりマリアンヌと長く話し続けると、会話の途中で黙り込んでしまっているようにしか見えないので、気を付けなければいけない。


「私としては、あまり飾り気のある服では動きにくいのが正直なところなのですが、命令とあれば仕方ないと、父も言っていましたね」


「お父様というと、聖クロノス騎士団長様ですね。……カーティス様、でしたかしら」


「よく、ご存じで。アリスベル様に名を覚えられていたと知ったら、父も喜びます。カーティス・ストライド。最近は早く退役したいとばかり言っている、困った父ですよ」


「カーティス様は、どうして退役したいのですか?」


「ロザリンド様と馬が合わないとはよく言いますね。ただの騎士団長が、王妃様とそれほどに交流があるとは思えないのですが。貴人の警護用の新しい制服を着るのが嫌だと言って、私に全てを押し付けて仕事を休んだりすることがあるので……。お恥ずかしい話ですが」


「あら、まぁ……。私、夜会の時にお見かけした制服も素敵だと思いましたけれど。白い制服に、赤と金の飾りが沢山ついていて、華やかでしたわ。……正直に言えば、今の黒い制服の方が落ち着いていて好きですけれど」


「私も同意見ですね。白い制服は、少々気恥ずかしいものがあります。私でさえそうなのですから、年嵩な父としては、……まぁ、そうですね……。こんな恥ずかしいものを着たくないと、駄々をこねる始末で。困ったものです」


 オスカー様は嘆息した。

 それはお父様であるカーティス様に向けられたようにも、ロザリンド王妃様に向けられた言葉のようにも感じられた。

 そこまでの深刻さはなさそうだけれど、騎士団の服装に意見をしてくる王妃様だ。

 他にも何か、あるのかもしれない。


「聖クロノス騎士団の制服は確かに目立ちますけれど、街の方々はオスカー様に感謝しているようでしたわ。私、とても感心しましたのよ」


「あまり目立つのは、良い事ではないのですが。普段、街に降りるときはなるだけこの服装にしているので、覚えやすいのでしょうね。聖クロノス騎士団の制服を着た者がいるだけで、犯罪の抑止力になりますので。それに、有事の際に身分を伝える手間が省けますし。魔物退治を行ったり、罪人を捕縛したりしていたら、自然と覚えられてしまって」


「それだけ、オスカー様が皆を助けているという事ですわ。私、尊敬致します。……私は、レミニス侯爵令嬢として産まれて、次期王妃という立場にありながら、まだ何もしていませんのに」


「アリスベル様が率先して街の人々を魔物の脅威から救っていたら、その方が問題です。それこそ、聖クロノス騎士団の立場がなくなってしまいますよ。……適材適所、という言葉があります。私は戦いに向いている、それだけの話です」


「……オスカー様は、とても謙虚でいらっしゃいますわ。私も、見習わないといけませんわね」


『そうなのー、オスカー様ってば誰よりも強いのに、その強さに驕らないのよぅ。あんた、分かってるじゃない!』


 マリアンヌが深く同意してくれる。

 落ち着いていて、謙虚で礼儀正しい。

 理想の騎士を絵にかいたような方だなと思う。

 そんなオスカー様も、貴人警護用の白い制服を着るのは恥ずかしいのかと思うと、なんだか面白かった。

 オスカー様は困ったような表情をもう一度浮かべた。

 困っているというか、何となく気づいたのだけれど、きっと照れているのだろう。

 なんだか可愛らしいなと思いつい微笑むと、視線を逸らされてしまった。




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