プロローグ2
「面白い少女だ」とレーテは思った。
まだ二桁にも届かなさそうな年齢の童女が、既にその歳に見合わない落ち着いた雰囲気を持っている事に加え、高い身分のご令嬢が護衛を二人連れただけで王都の街中を歩いているという珍妙な光景に。
――金髪の先がくるくると巻いたロングヘアーに、蒼い瞳が特徴的な幼い少女。
目の前に出された食事に手を付けず、此方をじっと見ている姿を見て思わず微笑んだ。
「……面白い奴だね。その年齢のガキなら、四の五の言わず飛びついているだろうに」
「……ごめんなさい。その……貴方は魔法使いだから、……」
言葉遣いさえ年齢らしくない変な少女に、レーテはひょいと手を伸ばしてバスケットから一つ白パンを取り出してかじる。
「変な所で用心深いね。……何もいれるわけないだろう?そんな迂遠な手段を使わなくても、君たちを殺す手段なんて山ほどあるんだ。態々そんな不確定な方法を使うものか。大体君、只の町娘じゃないだろう」
あっさりと、気軽な調子で放たれたレーテの言葉に少女は一瞬動きを止めたが、すぐに我に返ったのだろう。
バスケットに手を伸ばして白パンを取り出し、一口かじる。
「……美味しい。温かい食事だなんて、久しぶりだわ」
――久しぶり。
何のこともなく放たれた、おそらく少女にとってはうっかりであっただろう単語。
毒見のために冷めた料理を口にしていただろう高位貴族の令嬢に、一度でも温かい食事が振舞われた事があったのだろうか。
(……こいつも「転生者」って奴なのかね。前エーレーの奴が言っていたようだが)
レーテの「知り合い」である旧き魔法使いが数十年前にふらりとレーテの工房に現れた時、そんな話をしていた。
どうやら、最近の周辺国の急激な発展は、「転生者」によってもたらされたものらしい、と。
ショートカットにした水色の髪を持つ妙齢の魔法使いは、魔法使いらしくない一般国民の装いに身を包んでレーテの工房へ来て、面白そうにそんな話をしていた。
何かをかみしめるようにふわふわの白パンを食べ、温かい野菜のスープを飲み、少女が最後に手に取ったのは銀色に光液体が入ったコップ。
「これは……」
「まぁ飲んでみるといい。君が僕に「お願い事」をしにきたことと関係しているからさ」
そうレーテが言えば、少女は意を決したようにコップの中の液体を口に含み、ごくりと飲み干す。
そして。
「――すごいわ。なんだか気分が軽くなったし、疲れもなくなった。……これが、魔法薬?」
驚いたようにコップを見つめる少女に、レーテは面白そうに笑った。
「そうさ。中級の体力回復薬だよ。まぁ所詮中級だから、回復力なんてたかが知れてるけどね」
「これで中級……」
レーテの言葉に息を飲んで、コップを見つめ続けていた少女はふっと顔をあげた。
レーテの金の瞳と、少女の蒼い瞳が交差する。
「――お願いが、あるのです」
「なんだい」
「――お願いです!わたくしに、魔術を教えてください!」