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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第4章 ロヴァル騒動
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4-18 タイムアップ

 

 ジュビエーヌは娼館の一室で、弟と2人の護衛に守られていた。


 ここからでも城壁の外に集まった軍団の武器や防具が擦れる音や足音が聞こえてくるので、相当数の敵が押し寄せて来たのが想像できた。


 これからどうなるのかと不安を覚えていると、上空に赤い魔法陣が現れた。


 その魔法陣を見て、御祖母様の言葉を思い出していた。


 それは百年前御祖母様と公国を守る為、我が身と引き換えに赤色魔法を撃ってくれたエルフの友人の話だ。


 そして初めて会ったユニスの顔を思い出していた。


 ユニスは何の見返りも求めず、自分の命と引き換えに私達を守ってくれようとしていた。


 ジュビエーヌは両手を合わせて、ユニスの無事を祈らずにはいられなかった。


 そんなジュビエーヌに、護衛の狼獣人ハッカルが声を上げたのだ。


「あいつは最悪の魔女だ」


 ジュビエーヌはその声に抗議しようと振り返ると、そこには真っ青な顔で震えるツィツィと顔を真っ赤にして怒りに震えるハッカルの姿があった。


 御伽噺は当然ジュビエーヌも知っていた。


 だが、御祖母様の話が本当だとすると、ユニスは・・・


「最悪の魔女は人間を滅ぼそうとしたのよ。ユニスは、この町に居る獣人にも人間にも優しく接しているわ」

「だが、ブリアックは最終的には裏切られた」

「黙りなさい。ユニスは私達を助けてくれようとしているの。それを否定することは許しませんよ」


 私の剣幕に驚いたのか、ハッカルは顔を背けると小さな声で何か言ったが気にしない事にした。


 +++++


「神威君、私、もう無理かも」

「まだ早いよ、もうちょっと我慢してくれ」

「で、でも、あ、ああ、本当にもう駄目」

「大丈夫、頑張れるさ。もうちょっと我慢してくれ」


 あおいちゃんは発動している赤色魔法に遅延魔法を掛けて術の完成を遅らせているのだが、想像よりも大変なようで先程からずっと泣き言を言っていた。


 当初の予定では、赤色魔法を発動遅延させている間に敵を追い払い直ぐに魔法を解消するはずだったが、想像以上にそれが大変で今にも魔法が発動しそうだというのだ。


 今発動してしまうと百年前の二の舞になってしまうので、何とか宥めているのだが目に涙をためて堪えている顔を見れば、そろそろ限界なのは十分伝わってきた。


 顔を真っ赤にしてもじもじするあおいちゃんを見ていると、ついふざけて「漏らしそうなの?」と声を掛けたくなるのだが、そんな馬鹿な理由で緊張の糸が切れ大惨事になったらシャレにならないので思ってはいても絶対言ったりはしないのだ。



 俺はあおいちゃんを守るため敵の攻撃を防いでいた。


 青色の軍団から飛んでくる魔法弾の初弾は爆発したが、次弾からは爆発せずこちらの石弾に軌道をずらされていた。


 イメージとしては初弾が榴弾で、次弾からは徹甲弾といった感じだった。


 そして赤色の軍団の中から飛んできた魔法騎士達もこちらの攻撃で攻めあぐねていたが、1人しぶといのが居てこちらの石弾を切り伏せじわじわと接近していた。


 仕方がない、もう少し気合を入れて相手に力の差を見せつけてやるか。


 青色魔法から緑色魔法に切り替えて青色の軍団から飛んでくる徹甲弾を弾き飛ばし、赤色の軍団から飛行して来る魔法騎士を次々と撃ち落した。


 それでも落ちないあのしぶとい魔法騎士に狙いを定めて大量の岩石弾を撃ち込むと、遂に手数が足りなくなったのか後方に弾け飛んでいた。


 そろそろ頃合いだとあおいちゃんにアイコンタクトで知らせると、あおいちゃんもそれに頷いて次の段階に移っていった。


 上空で真っ赤になった魔法陣から零れ落ちるように火の粒がぽつぽつと落下すると、軍団の中に落ちて兵士達の間から悲鳴が上がった。


 サンプル放出は、完成後の魔法の一部をサンプル供出するのだ。


 サンプルと言っても赤色魔法の一部なのでその威力は絶大なのだ。


 鎧を溶かされ恐怖から錯乱した兵士が悲鳴を上げて逃げ出すと、その恐怖が他の兵士に伝搬し他の兵士も次々と逃げ出し始めた。


 後は雪崩を打って逃げ出していた。


 兵士の脱走を阻止しようとした指揮官達が手に武器を構え威嚇しながら怒鳴り声を上げると、一部の兵士は自分に向けられた武器に怯えて立ち止ったが、後ろからやって来た群衆に飲まれ踏み潰されていった。


 そして脱走を止めようとした指揮官達もそのまま理性を失った兵達に飲み込まれていった。


 少し前まで統制のとれた軍隊だったものが、今は無秩序に逃げ惑う唯の烏合の衆に成り下がり、邪魔な盾を捨て、重い防具を脱ぎ、同僚を踏みつけながら我先にと逃げて行った。


 敵兵が逃げ去ると、後に残ったのは打ち捨てられた荷馬車や兵士達が身に着けていた武器、防具、それに踏まれて息絶えた骸等だった。


 赤色魔法の有効範囲内に敵兵が居なくなったのを確認してから後ろを振り向くとあおいちゃんが真っ赤な顔をしてプルプル震えていた。


「か、神威君、私もう駄目かも」

「え、もう魔法解除しても大丈夫だよ」

「それが、出来そうもないのよ」


 ちょ、ちょっとそれってこの地が砂漠になるという事?


 出来るかどうかか分からなかったが、テクニカルショーツの中からダイビンググローブを取り出して左手にはめると、そのままあおいちゃんの体に触れてエナジードレインを発動した。


 あおいちゃんの魔力を吸い上げる度に、俺の保護外装から魔宝石が剥がれ落ちていた。


 朝目覚めた時ベッドの中に魔宝石が落ちている理由が、これでようやく分かった。


 どうやらこの保護外装は、集め過ぎた魔素を魔宝石として排出しているようだ。


 魔宝石自体は色々と使い道があるので助かっているが、その製造方法が分かったのは収穫だった。


 やがてあおいちゃんがやや長い嘆息をした。


 それはまるで粗相をしてしまった子供のようだ。


 思わず魔法陣を見上げるとそこには術が発動した兆候が表れていた。


 眩しく輝く魔法陣からは灼熱の弾が降り注ぎだしたのだ。


 それは落下した隕石が空中爆発し灼熱に燃えた破片が地面に降り注ぐような光景に似ていた。


 落下した炎の雨はそこら中に散らばる武器や防具、荷馬車等を蒸発させ、地面までも焼いていった。


 周囲の気温が急上昇しているようで周りの景色が蜃気楼のようにゆらゆらと揺らめいているのだが、この保護外装は熱さを感じなかった。


 魔法の効果が消えた後、そこに残っていたのは黒焦げになった地面だけだった。


 あおいちゃんは、全ての力を出し切ったかのように荒い息遣いで仰向けに倒れていた。


「なあ、あおいちゃん。これってこのままにしていても大丈夫なのか?」

「はぁ、はぁ、放置しておくと・・・(ゴクリ)・・・はぁ、はぁ、何の生産性も無い砂漠になってしまうわよ」

「それじゃあどうするんだ?」

「はぁ、はぁ、魔宝石を埋めて置けば元に戻るわ」


 あおいちゃんが視線を向けているのは、俺の周りに落ちている魔宝石だった。


 +++++


 パルラから逃げ出したバルギット軍は、剣を捨て防具も一部脱ぎ棄てている事からどう見ても敗残兵といった感じであり、士気も相当低下しているようだ。


 既に食料や予備の武器、防具も打ち捨てているので、補給が受けられなければ直ぐにでも飢えた難民になってしまう。


 そして今も背後で繰り広げられている光景を見れば、誰もアレに再び挑みたいとは思わないだろう。


 ソレルは作戦が失敗した事を連絡蝶でフリュクレフ将軍に報告し、次の指示を仰ぐ事にした。


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