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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第4章 ロヴァル騒動
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4-17 アイテールの呪い


旧バンダールシア大帝国を4つに分割した時、神聖魔法使いアイテールが支配したのが南部地域だった。


そこにディース教を国体とする宗教国家を作り、名をアイテール大教国とした。


そして残り3人が興した国と、大帝国崩壊時に勝手に独立した4つの小国にも布教の拠点となる教会を設置していた。


今では他の国でもディース教が広まり、殆どの国がディース教を国教として受け入れていた。


そしてアイテールはディース教の大教皇として布教に努めたが、国の統治は複数の枢機卿に任せていた。


大教皇の身辺警護部隊である大教皇親衛隊の隊長に就任したアンブロシウス・リングダールは、アイテール一族の秘密を知らされていた。


それは、始祖である神聖魔法使いアイテールが魔女討伐の際持ち帰った戦利品「魔力溜まりのネックレス」が呪われており、始祖アイテールが亡くなった後、埋葬された死体がアンデット化するという事だった。


アイテールの一族は解呪のため秘密裡に教都サン・ケノアノールの大神殿の地下1階に研究所を作り、更にその下に4階分のスペースに一族の亡骸を埋葬するカタコンベを造成した。


カタコンベには一族から任命した墓守を置き、アンデット化した身内を秘密裡に処分していた。


アイテール一族の表の顔が大教皇だとすると、この墓守が裏の顔であった。


今回レイブンの連中は、ロヴァル公国の女狐の亡骸を地下1階の研究所に運び込み秘密裡に調べていたようだ。


リングダールは親衛隊隊長に就任してから片時も大教皇の傍を離れなかったが、今回傍を離れてロヴァル公国まで半数の部下を連れてやって来ていた。


それはレイブンの局長であるドートリッシュ卿から、器を替えながら生き続けている魔女を倒せばアイテール一族の呪いが解けると言われたためだ。


 親衛隊の目的はあくまでも魔女が乗り移っているというジュビエーヌ公女なので、バルバリ丘陵では戦闘に参加しなかったし、その後のボロゴシュ要塞戦も観戦していただけだった。


 そしてジュビエーヌ公女が逃げ込んだという、パルラという町までやって来たのだ。



 アイテール軍を率いているイェルド・エドバリ将軍が町に対して降伏勧告を行ったようだが、どうやら拒否されたらしい。


 パルラの城壁を見上げると、そこにはジュビエーヌ公女と先程行軍している時に出会ったエルフが立っていた。


 そしてジュビエーヌ公女は両手で何かを上空に掲げると、目に見えるほど濃い魔素がその体に吸い込まれていった。


やがて両手が輝きだし上空に向けて目に見えるほど濃い魔素が上昇していくと、雲を吹き飛ばし上空に赤色の魔法陣を描いていった。


その魔法陣には見覚えがあった。


それはサン・ケノアノールにある大聖堂の中、大教皇しか入れない禁書が収められているという図書室の中にあったとある書物にこの光景が描かれていたのだ。


 大教皇は自分達一族がアンデット化して大教国の大地を汚すことを心配しており、 死霊に汚染された大地を浄化するための魔法を探していた時にこっそり教えて貰ったのだ。


 その部屋に収められた蔵書は皆一般には出回らない書籍で、一部は禁書となっていた。


 禁書の中には、バンダールシア大陸の歴史書という書籍もあった。


 目的の書籍は虹色魔法に関する記述がある本で、そこに大地を浄化する魔法とその魔法書が保管されている場所の記述があったのだ。


 本の記述に従い、少なからず犠牲を払いながら辿り着いたその場所では、どれだけ探しても目的の魔法書は見つからず、記載された内容は全くのでたらめだと断定されたのだ。


 その本の中に虹色魔法の最上位クラスである赤色魔法の魔法陣が描かれており、それが今上空に描かれている物とそっくりだった。


 そして再びそれを実行しているジュビエーヌ公女に視線を戻すと、両手の中で輝いているそれを見た。


それはあたかもこの現象を引き起こしている原因物質にしか見えなかった。


獅子の慟哭・・・


確かレイブンの連中はそのマジック・アイテムを奪おうと、女狐が住まう離宮に間者を送り込んでいたが失敗していたはずだ。



もしやドートリッシュの奴は自分の失態を隠すため魔女が存在しているという荒唐無稽の話をでっち上げ、始祖様の業績を貶めただけでなく今この場に居る兵士達を危険に陥れたのではないのか?


 そう考えた時ドートリッシュへの怒りが込み上げてきたが、今はそれよりもあの魔法を何とかしなければならなかった。


あれが本当に赤色魔法の魔法陣だとしたら、ここに居る兵士達が全滅するのだ。


 後ろを振り向くと、じっとこちらを見つめる50人の魔法騎士が居た。


 リングダールは一つ頷くと剣を抜き号令を発した。


「大教皇親衛隊、突撃」

「「「おおお~」」」


 リングダールが飛行魔法で上空に舞い上がると、50人の部下達もそれに続いた。


 飛行魔法は浮かせる物体が重くなるほど魔力を消費するので、完全武装した状態ではあまり長い距離を飛ぶことは出来ないが、目の前の城壁までなら問題はない。


 城壁の上に居るジュビエーヌ公女目掛けて飛行していると公女を庇うようにエルフが前に出てきて、こちらに片手を向けてきた。


 その手の周りには青色の魔法陣が5つ現れると、直ぐに石弾を放ってきた。


 ほう、無詠唱で一度に5発もの石弾を撃ってくるか。


 リングダールは相手の魔力量の多さに感心しながら、手に持った剣で迫りくる石弾を切り払った。


 一度に5発の魔法弾を飛ばされてもリングダールには余裕だったが、切り払った後からまた石弾が飛んできたのには驚いた。


慌てて切るとその後も連続して飛んで来るので、次第に対処が忙しくなり前進出来なくなっていた。


 それは部下達も同じだったようで、偶に部下のうめき声が聞こえてくる事から何名かは既にやられているようだった。


 弾幕から逃れようと高度を変えてみたが、それでも石弾が追いかけてきた。


 あのエルフは無詠唱で速射しているので直ぐにでも魔力切れを起こすだろうと耐える戦術に出たのだが、何時迄経っても石弾が止まる様子が無かった。


 おかしい。


一体どうなっているんだ。


 ちらりと上空を見ると、先程までぼんやりとした色合いだった魔法陣に赤みが差してきており、赤色魔法の構築が随分進んでいる事が分かった。


 そこであのエルフが、魔法陣が完成するまでの時間稼ぎをしている事に気が付いた。


 時間が無いのは我が方だ。


 もはや被害を気にしている場合ではなかった。


リングダールは部下に散開して突撃するよう命じた。


こうすれば個々で石弾に対処しなければならなくなり被害も大きくなるが、何人かは敵エルフに肉薄し切り伏せる事が出来るだろう。


部下達が次々と撃墜されていく中、リングダールはじわじわと敵に近づいていた。


何時までも魔力切れを起こさないエルフを睨みつけると、今までそこにあった青色の魔法陣が緑色に代わった。


「くそ」


 悪態をついた途端今度は岩石弾が俺に向かって飛んできたのだ。


 石弾なら剣を前に構えていれば良かったが、岩石弾ともなると切り払わないとぶつかった衝撃がモロに体に伝わって来るのだ。


 それでも何発かは切り払ったが、手数が足りず体を大きく吹き飛ばされていた。


 リングダールは後方に弾き飛ばされながら上空の魔法陣が目の隅に写ったが、それは既に真っ赤に燃え上がっており時間切れを示していた。


 地上では既に指揮官のエドバリが逃げ出しており、これ以上の戦闘は無理だった。


 リングダールは部下達に撤退を命じると、自分も残った魔力で現場からの脱出を図った。


 そして自分の事を退けたエルフに興味を持ったのだ。


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