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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第4章 ロヴァル騒動
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4-14 終着点

 

「ドーン」


 辺境伯の町との間に設置してある警戒用ゴーレムから、敵襲の警報が上がった。


 やれやれ、辺境伯は何が何でもこの町を奪い返したいらしい。


 一度目は5千の軍団、二度目は城攻用ゴーレムだったが、今度は何だろうという好奇心が湧いたので、どんなのがやって来たのか見に行く事にした。


 魔力で作った翅を広げ上空に舞い上がると、そのまま街道を南下していった。


 そして見つけたのは、街道を途切れる事も無く行進してくる大軍団だった。


 だが、その軍団が掲げる旗がいつもの辺境伯軍の旗ではなく、交差した2本の杖の上に聖杯を象った物だった。


 するとその軍団の中から1人の騎士が、俺が滞空している地点まで舞い上がってきた。


 その騎士は銀色の全身鎧と赤色のマントを纏い、兜の間から覗く顔は髭が無くつるりとした肌に細い目をしていた。


「お前がパルラを占拠している雌エルフか?」


 おい、いきなりな挨拶だな。


「そうですが、それが何か?」

「そうか、お前はバルギットの獲物だから見逃してやろう。我々の獲物はジュビエーヌ公女だ。お前が差し出すのなら我が軍はそれで引き上げてやるぞ」

「ジュビエーヌ公女?」

「なんだ、知らないのか? それともとぼけているのか? パルラに居る事は分かっているのだ。大人しく差し出せばよし、拒否するなら10万の兵が相手をする事になるぞ」


 要件は済んだとばかりにそう言った男は、そのまま自軍の中に帰っていってしまった。


 公女と言ったな。


 するとあおいちゃんの身内か。


 これは戻って、あおいちゃんと相談だな。



「と言う訳で、この町に10万の軍勢が迫っているんだよ」


 それを聞いても、あおいちゃんは慌てた様子もなく、テーブルの上に置いてある焼き菓子を食べていた。


「あおいちゃんの孫娘だよね? 助けないの?」

「はあ、何でそう他人事なの?」

「え?」


 あおいちゃんは、相変わらず焼き菓子に手を伸ばしている。


 俺はその仕草を目で追いながら、あおいちゃんの言った言葉を考えていた。


「身に覚えがないの? それとも気付かないふり?」


 あおいちゃんは俺に原因があるとでも言いたそうだ。


 すると1枚の紙を俺に差し出してきた。


 それはアイテール大教国が出した宣言書だった。


「神威君、私を迎えに来た時、棺の中に何か入れたわね?」

「ああ、ビルスキルニルの遺跡にあった骨を入れた」


 するとあおいちゃんは「はぁ」と深いため息をつくと、アイテールが言っているのがあの骨を鑑定した結果だと説明してくれたのだ。


「つまり、俺が余計な事をしたから、こんな大事になったと?」


 そう言ってあおいちゃんの顔を見ると、厳しい顔で頷いてきた。


 俺はそれを見て冷や汗を流していた。


 いや、実際は気温を感じない保護外装のおかげで汗は搔かないのだが。


「つまり神威君は私に『俺のせいで、あおいちゃんの孫娘に迷惑をかけてしまい申し訳ない。ちゃんと責任を取るから、あおいちゃんも手伝ってくれないか』と言うのが正解ね」


 俺はがっくりと項垂れた。


「分かった、それでどうしたらいい?」


 あおいちゃんと迎撃方法について相談したが、やはり10万の大軍となると赤色魔法を使うしか方法が無いらしい。


 そこで百年前にロヴァルで起こった戦争を、少しアレンジして繰り返す事にしたのだ。


 百年前は実際に赤色魔法を撃って攻め込んできた3ヶ国連合軍を文字通り全滅させたが、獅子の慟哭というマジック・アイテムで魔力を増幅したから可能だったという話を信じ込ませたそうだ。


 そのため各国はあおいちゃんを暗殺することはせず、獅子の慟哭を奪うことでその力を削ごうと間者を送ってきたそうだ。


 だから今度はあおいちゃんがジュビエーヌに化けて、獅子の慟哭を使って赤色魔法を撃つふりをして追い返す事になった。


 撃つふりは、虹色魔法の中に発動遅延、魔法演舞、サンプル放出という魔法があるのでそれを使うらしい。


 発動遅延で実際の魔法発動までの時間を稼ぎ、魔法演舞で視覚的に魔法が完成していく過程を見せ、サンプル放出で少しだけ魔法が発動した時の被害を実演して恐怖を煽るそうだ。


 そこまで聞いて、俺はある疑問を想わず口にしてしまった。


「なあ、そんな事が出来るなら、百年前も赤色魔法を撃たなくても良かったんじゃないのか?」


 そして俺は、言ってはいけない事を言ってしまったことに気が付いたのだ。


 あおいちゃんの顔から感情がみるみるうちに消え、能面のような顔になっていたのだ。


 これは拙い。


 だが、あおいちゃんは淡々と事実を話してくれた。


「赤色魔法の惨状を目の当たりにして、二度と撃たないで済むようにこの魔法を覚えたのよ」


 ああ、そうだったんだね。


 この件はこれ以上触れない事にした。


 そして俺の役割は、あおいちゃんが脅しのポーズをしている間、邪魔をしてくるだろう敵を撃退する事だ。


 あおいちゃんがジュビエーヌに化ける理由は、他国の目がある所でジュビエーヌが赤色魔法を撃てると認識されれば、今後この国が攻められる危険が大幅に減るからだ。


「それじゃ、その間、ジュビエーヌ嬢には身を隠してもらう必要があるな」

「そうね。でも何処に居るのかしら?」

「俺も知らないんだよ。仕方ない探しに行くか」


 +++++


 ジュビエーヌが再び気が付くと、そこはベッドの中だった。


 部屋の中は狭く家具もベッドだけだったのでこれが娼館の部屋なのだろうと考えていると、扉が開きメイドの恰好をした女性が入って来た。


「公女殿下、お目覚めですか。私はパメラと言います。元領主館のメイドをしておりましたので、私が公女殿下のお世話を仰せつかりました。よろしくお願いします」


 その立ち居振る舞いは公城に居るメイド達とそん色ない事から、領主館のメイドというのは本当のようだ。


「ここは何処ですか?」

「ここは、えっと、元娼館です」


 目の前のメイドは、ちょっと言いにくそうに頬を掻きながらそう答えてきた。


 やはり、あの時見た光景は夢では無かったのね。


「私は、奴隷として売られたのですか?」

「え? いいえ、そんな事はありません」

「でも、ここは娼館なのでしょう?」

「いえ、元娼館です。殿下の護衛が獣人でしたので、ここに運び込んだのです。この町で人と獣人が同居しているのは、ここだけなのです」

「そうだったのですか。ところで私の弟、クレメントは何処に居るのですか?」

「公子殿下なら護衛の方々と食堂で食事をしているところかと」

「ええっと、パメラさんでしたか。貴女も姐さんとか言う方に仕えているのですか?」

「姐さん? ああ、私は雇われている訳ではありません。どちらかと言うとお互い利用し合う関係・・・といったところでしょうか?」


 メイドさんは何やら考え込んでいましたが、出てきた言葉は何だがドロドロとした関係を示すものだった。


 もしかしたら人間と獣人でお互い反目し合いながらも、打算で協力しているのかもしれませんね。


 私も空腹を感じていたのでベッドから起きると着替えを手伝ってもらい、1階にある食堂に下りて行った。


 そこに居たのは皆若い女性ばかりで、娼館の面影が色濃く表れていた。


 これで本当に元娼館なの?


 だが、そこに小さな女の子を連れた祖父と思しき男性が近づいてくると、私に騎士の礼を取ったのだ。


「公女殿下、このような場所でお目にかかれるとは光栄の至りです」

「貴方は騎士だったのですか?」

「はい、今はもう引退してこうして孫娘と一緒に暮らしております。この町で家を作ってくれるというので、それを待っているところです」

「貴方は獣人達と一緒で、怖くは無いのですか?」

「ユニス様は人間や獣人を差別されません。それを見ているせいか、獣人達も同じように接してくれていますので平気です」


 今、何と言った? ユニス? もしかして・・・


 そこにハッカルが食堂に駆け込んできた。


 その鬼気迫る表情を見れば、何か良くない事が起こったのが直ぐに分かった。


「この町を出て行かなくては」

「ちょっと待って、何があったの?」

「アイテールとバルギットの連中がこの町に攻め込んで来るんだ。手遅れになる前に脱出しなければ」

「なんだって、それは大変だ。姉さま急いで逃げましょう」


 そう言って立ち上がったクレメントをツィツィが制した。


「ちょっと待ってください。脱出すると言ってもまだ準備が整っておりません。少なくとも食料品の調達をしておかないと、この先ままなりませんよ」


 私は先程聞いたユニスという言葉が頭の中を巡っていた。


 確かめなくては、ここに居るのは御祖母様が言っていたユニスなのかどうかを。


 先程の老人に向き直ると最後の質問をした。


「すみません、ユニスというお方は、ひょっとしてエルフなのではないですか?」

「ええ、とてもお美しいエルフの女性です」


 それを聞いた瞬間、自分の中に何かとても暖かい物が込み上げてくるのが分かった。


 これは安心感? 


 ジュビエーヌは公城アドゥーグの私室を逃げ出してから初めて安堵を感じると、自然と涙が溢れてきた。


「姉さま、確かに泣きたくなるお気持ちは分かりますが、今はそれどころではありません。急いでここを脱出しなければなりません」

「クレメント、何処に行くというのです? あの危険な森ですか?」

「え? ですが・・・」

「もういいのです。ここが私達の目的地です」


 御祖母様、私はやっと最後の試験に合格いたしました。


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