4-9 大教国の宣言
アイテール大教国の教都サン・ケノアノールにある国政を司る機関ル・ペルテュには続々と各局の局長を務める枢機卿が集まってきていた。
今日の議題はこの国にとってとても重大な議題があると前触れを出していたので、やって来た枢機卿は皆一応に厳しい表情をしていた。
少し早めに来たドートリッシュは、目を閉じてソフィア・ララ・サン・ロヴァルの骨を鑑定した鑑定士の言葉を思い返していた。
その結論は驚くべきものだったのだ。
ドートリッシュは、女狐が人種では誰も使えない赤色魔法が使えたことや、獣人の待遇改善を行った事と合わせて考え、とても恐ろしい結論に達したのだ。
ル・ペルテュには全部局の長である枢機卿が集まったことで、アイテール大教国の意思決定会議が始まったのだ。
議長を務める総括・内政局長バイスロイ・チェスターフィールド卿が会議の開催を宣言すると、まずは各局の活動報告が行われた。
まず我が国における財政状況を財政局のシニャック枢機卿が行った後、軍事局のベルグラン枢機卿、布教局のロージェル枢機卿、移動局のトリブイヤール枢機卿と進み、ようやくドートリッシュの外交・諜報局の順番が回ってきた。
ドートリッシュはゆっくりと席を立つと、会議に集まった7人の枢機卿の顔を見まわしてから報告を行った。
「我が外交・諜報局は、先日亡くなったロヴァルの女狐の死体を回収しました」
ドートリッシュがそう言うと、集まった枢機卿からは息をのむような音が聞えてきた。
枢機卿達の脳に事の重大性が染み込んできた頃合いで、話を続けることにした。
「女狐の石棺を開くと中にある死体は完全に白骨化しておりました」
「待たれよ。死んだのはつい先日ではないのか、他の石棺と間違ったのではないのか?」
これは当然出てくる疑問である。だが、ドートリッシュにはそれに反論できる証拠があった。
「これを」
そう言うと石化に掛けられていた王家の旗を皆に見せた。
そこにはロヴァル公国の国章である赤色の蝶が描かれており、その下に持ち主の名前である「ソフィア・ララ・サン・ロヴァル」の名前が縫い込んであった。
「おお、これはまさしく女狐の物だ」
周りの枢機卿の顔に納得の表情が現れたところで、他の証拠も出しておくことにした。
「ロヴァル王国の王墓では、ドーマー辺境伯の協力で墓守から女狐の石棺だと確証を得ておりますし、その前に葬られたラヴィニア・ラーラ・サン・ロヴァルの石棺とは色が違います」
そう14年前に埋葬されたソフィアの養女であるラヴィニアの石棺は灰色で、今回女狐の石棺は黒なのだ。
「分かった。今回回収したのが女狐の骨だと認めよう」
先程疑義を差しはさんだ枢機卿がようやく納得したようだ。
では、彼らには更なる衝撃を受けてもらうことにしよう。
「私が魔法使い、占星術師、呪術師らと遺骨を検分したところ、女狐の遺骨からは魔素が全く検出されませんでした」
それを聞いた枢機卿達は、それが何を意味しているのか知っているので皆唖然とした顔になっていた。
「考えられるのは、その骨が死んでから相当期間が経過した物という事になりますが、それは先程提示した証拠でありえない事が証明されています。では、何故魔素がないのか。その答えは呪術師が教えてくれました」
ドートリッシュがそう言って言葉を切ると、話を聞いていた枢機卿達が興味を示しもっとよく聞こうと前のめりになっているのが分かった。
ドートリッシュは十分に引っ張ってから爆弾を落としてやった。
「古の魔法に乗り移りという物があるそうです。これは古い器を捨てて新しい器に魂を移し替えるというものです。この魔法を発動すると古い器には魔素が全く残らないそうです」
「「「な・・・」」」
「我が局の結論は、ソフィア・ララ・サン・ロヴァルが老いた肉体を捨て新しい肉体に乗り移ったと考えております。しかもそれは7百年前から連綿と続けられているのではないかと考えております」
ドートリッシュがそう言うと、周りは騒然となっていた。
当然だ、この事実はある事を示唆しているのだから。
「もしや、最悪の魔女は滅んだわけではなく、生き残りの大魔法使いロヴァルの体に乗り移ったという事か?」
チェスターフィールド卿がそう言ったのでドートリッシュは口角が上がりそうになるのを意思の力で押さえつけ、無表情を装いながら自分の考えを披露した。
「はい、最悪の魔女は討伐されそうになった時、乗り移りの魔法を使い大魔法使いロヴァルに乗り移ったのだと考えられます。後は、何食わぬ顔でそのままロヴァル公国の大公として老いた器を新しい器に乗り換えながら7百年の長きに渡り生き延びているのでしょう」
「すると魔女の乗り移った器というのは・・・・」
「ええ、ジュビエーヌ・ブランヴィル・サン・ロヴァルだと思われます」
周りからは息をのむ音や、独り言を言う声が聞えてきていた。
そんな中、冷静なチェスターフィールドの声がそれを遮っていた。
「それでドートリッシュ卿、この後の事も考えているのであろう?」
「はい、我々はジュビエーヌ・ブランヴィル・サン・ロヴァルが本当に魔女なのか確かめるため身柄の引き渡しを要求します」
「だが、相手は次期大公ぞ、どうやって要求を飲ませるのだ?」
ドートリッシュはそこで一旦溜めを作り、皆の感心が自分に集まるのを待ってから次の言葉を続けた。
「従わなければ力で実行するまでです」
そう言って軍事局のベルグラン枢機卿を見ると視線が合った。
アイテール大教国には3つの軍事組織がある。
1つ目は大教皇ミリオン・アイテールの身辺警護を担当する大教皇親衛隊。
隊長はアンブロシウス・リングダールという細身の男で大教皇に絶対の忠誠を誓っている。
親衛隊自身は百名程度と少数なのだが、実力は高く、あの魔女にも互角以上に戦えるだろうと言われている。
2つ目は各地のディース教の教会を防衛する部隊で、これは布教局ロージェル枢機卿の傘下となっている。
定期的に人員を交代している組織で全体では1万人程の部隊になる。
こちらも暴徒化した民衆から司教達を守るための実力を持っていると言われている。
そして3つ目が軍事局のベルグラン枢機卿が直接指揮する常備軍だ。
ベルグランは満面の笑みを浮かべながら口を開いた。
「我が軍は何時でも実力行使を行う事が出来ます」
「だが、敵は最悪の魔女だ。数を集めても赤色魔法を撃たれたら意味が無いぞ」
「そこはリングダール殿に手伝ってもらいたいと考えております。赤色魔法は膨大な魔力を必要とするため発動までに時間がかかります。詠唱中で無防備となった魔女を飛行魔法が可能な大教皇親衛隊に仕留めて貰うのです」
「「「おおっ」」」
その日の内にロヴァル公国に向けてアイテール大教国から「ソフィア・ララ・サン・ロヴァルの正体は最悪の魔女であり、古の魔法で乗り移り今はジュビエーヌに乗り移っている可能性がある。公国はその疑念を払拭するためその身柄を我が国に預けなければならない。もし拒否するのなら軍事力を持って実力行使する」との宣言が出された。
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