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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第4章 ロヴァル騒動
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4-8 新たな方針

 

 俺はあおいちゃんと一緒にパルラに戻って来た。


 あおいちゃんは、既にソフィア・ララ・サン・ロヴァルの擬態を解いて元の保護外装の姿に戻っているので、俺達の外見は当然だが瓜二つだ。


 パルラの町の住民に何て説明しようかという事になって、とりあえず双子の姉妹という設定で行くことにした。


 そしてこの世界で一日の長があるあおいちゃんが姉役でいいだろうと提案したら、強く抵抗されたので俺が姉役になった。


 名前も俺の「ユニス・アイ・ガーネット」という名前にちなんで「アオイ・エル・ガーネット」にしていた。


 アルファベットだとIの次はJじゃないかと言ったら、JもKも可愛くないそうだ。


 娼館には上空から直接行っても良かったのだが、あおいちゃんの存在を知らせるため南門から中に入る事にした。


 南門にはトラバール達元剣闘士が警備していて、俺達の姿を見て目を丸くしていた。


 そんな彼らに笑顔で手を振ってやると、ようやく再起動したトラバールが声を掛けてきた。


「姐さんが2人居る。色々規格外だと思っていたが、ついに分裂したのか」

「私はアメーバか」

「アメーバとは何だ?」


 い、いかん、思わず素で突っ込んでしまったぞ。


 隣ではあおいちゃんが噴き出しているが、トラバールなら直ぐに忘れるだろう。


「紹介するわ。私の双子の妹アオイよ」

「お、おう・・・俺はトラバールだ。よろしくな、妹ちゃん。全く見分けは付かないがな」

「ええ、よろしくね。獅子人さん」


 トラバールと挨拶を交わしてパルラの町中に入って行くと、早速周囲からの視線が一斉にこちらに注がれた。


 まあ、俺が2人居るように見えるんだから仕方がないよな。


 そんな俺達に声を掛ける人物がいた。


「2人のユニスさ~ん、お茶でもどうですかぁ。今なら美味しいお菓子もありますよ~」


 声が聞えた方向を向くと、そこには人間種の女性が手を振っていた。


 人間達は宿屋で避難生活をしているとばかり思っていたが、こんな場所で何をしているのだろう?


「えっと、貴女はここで何をしているのですか?」

「単なる暇潰しです。1日中宿の中に居たら息が詰まるんですよ。幸いな事に町中に出ても安全そうなので、こうやって息抜きをしています」

「そうなんですか。それじゃせっかくですから、お茶を頂きましょう」

「はい、それにしてもユニス様が2人居るとは思いませんでした」

「ああ、こっちは双子の妹のアオイです」


 俺があおいちゃんを紹介すると、女性はベルタと名乗った。


 そして厨房に入ると、そこでお茶とお菓子を作り持ってきてくれた。


 俺達は紅茶と焼き菓子を楽しみながら、これからの事を話し合った。


「神威君、この世界をどう思う?」


 どうと言われても、地球じゃないという事しか分からない。


 あまり考えていなかったが、あのうさん臭い男が言った言葉が頭の片隅にあった。


「俺が調べていた海底遺跡は、シュメール人が造った物だという話だったが?」

「へえ、神威君はここが惑星ニビルだと思っているんだ」


 ニビルとは、シュメール人が来たとされる惑星の名だ。


「いや、そこまでは考えていないが、可能性として有りなのでは?」

「ふうん、成程ね。確かにバンダールシア語はシュメール語と同じ膠着語だけど、この地の宗教は戦と豊穣の神ディースを信仰していてアヌンナキでは無いわ。ところでこの保護外装をどう思う?」


 そう言われて俺は自分の姿を眺めてみた。


 この着ぐるみは見事に俺の体と一体化していて、既に自分の皮膚と思うほど慣れてしまっている。


「地球人がこの世界で生きてく為の宇宙服?」


 あおいちゃんは俺の答えが気に入ったのか、にっこり微笑むとお茶を一口飲んでいた。


 俺もその動きに釣られて自分のカップからお茶を一口飲むと、焼き菓子に手をだした。


「どうしてそんな物があると思う?」


 そう言われると、都合良くあの場所にあったのは何故なのだろうかと考えてみた。


 地球でも海に入るときはスキューバの装備を付ける。宇宙に行けば宇宙服を着るのだ。


 つまりその場所で生存出来る装備を身に着けるという事だ。


「誰かが地球から人をこの地に招くために作った・・・とか?」

「あり得る話よね。だけど、この技術を今の人間や獣人達が知らないのは何故だと思う?」


 言われてみるとビルスキルニルの遺跡と呼ばれる場所は、人が作ったにしては気軽に行けるような場所では無いのだ。


 するとまだ会っていない誰かが居るか、それとも・・・


「あおいちゃんは、この保護外装が失われた技術だと言いたいのか?」


 するとあおいちゃんの顔がぱあっと綺麗な笑顔になった。


 どうやらこの試験に合格したようだ。


「そうなのよ。私はね、滅びた文明がこの地にもあると思っているの。それにこの世界の魔法が虹色魔法と呼ばれているのに、誰も赤色魔法が使えないのはおかしいと思わない?」


 確かにそうだ。この世界で俺に向けられた攻撃魔法は、最大の物でも黄色魔法なのだ。


 それなら虹色じゃなくて五色魔法でいいじゃないか。


 だが、誰もそれに疑問を持った様子は無い。


「するとあおいちゃんは既に滅亡した古代文明がビルスキルニルの遺跡を作り、虹色魔法を使っていたと?」

「その仮説を裏付けるための証拠を探すのよ」


 何だか、とても嬉しそうだ。


 あ、そうか、あおいちゃんは考古学者だった。


「もしかして死を演じたのは、遺跡調査がしたかったからなのか?」

「ええ、そうよ。それが私の生き甲斐なの」

「なら、何で大公なんてやってたの?」


 俺がそう尋ねると、あおいちゃんの目からハイライトが消えた。


 あれ、俺なんか拙い事を聞いたか?


 するとあおいちゃんが森の中でソフィア・ララ・サン・ロヴァルという名の少女に出会い、国に招かれた事を話してくれた。


 そこで戦争が起こりエリアルを3ヶ国連合軍に攻められた時、赤色魔法で敵を蹴散らしたそうだ。


 その時、魔法に吸い込まれるようにソフィアが消えてしまったので、混乱を避けるため擬態の魔法でソフィアに化けていたそうだ。


 後は逃げる事も出来ず、ずるずると大公をやっていたのか。


「それじゃ、これから思う存分好きな事をしたらいいさ」

「あら? 手伝ってくれないの?」

「俺は何処にあるかもわからない遺跡を探すなんて事は御免だ。それよりも金になる物を探したいね」


 俺の目的は、この地で金銀財宝を見つけて抵当に入っている俺の店を取り戻す事で、土いじりじゃない。


「地球に戻る方法も無いのに、宝を探してどうするの?」


 俺は言葉に詰まってしまった。


 帰る方法が無いのは、百年もの間帰れない先例が目の前に居る事からも明白だった。


「なんか、変な事考えていそうだけど、可能性が無い訳じゃないのよ」

「本当か?」

「ええ、地球からこっちに来た転移が虹色魔法だとしたら? 神威君もあの遺跡で赤色魔法を覚えたんじゃないの? どこかの遺跡に転移の魔法書が眠っているとは思わない?」


 確かに可能性としてはあり得る話だな。


 だが、何処にあるかも分からない遺跡をどうやって探すんだ?


「それじゃ役割分担しましょう」

「え、何?」


 するとあおいちゃんは自分と俺を順番に指さした。


「馬鹿ねえ、私は考古学者よ。そう言う事はプロに任せなさい。神威君はパトロンをお願いね」


 パトロン? どうやって金を稼げと? 


 俺が困惑していると、あおいちゃんが話を続けていた。


「神威君はこの町で私が必要とする費用と物資を調達してね」

「つまり、この町を占拠し続けろと?」


 あおいちゃんは黙ったままにっこり微笑んでいた。


 どうやら俺がこの町を占拠し続けるのは規定路線らしい。


 そして俺はこの町を発展させて、あおいちゃんの遺跡調査のために費用を捻出しなければならないようだ。


 何故だろう? あおいちゃんに上手い事乗せられているような気がするぞ。


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