4-4 衣料の改善2
豚の貯金箱に大量に入っている金貨の山を見てようやくルーチェも仕事をする気になってくれたようだ。
先程の裁縫士が居る部屋に戻ってくると、資金の心配はない事を報告していた。
「とりあえず獣人達の普段着が欲しいのです。生地持ち込みで作成してもらえませんか」
「ええっと」
ミナーリはがっかりしたような声色だった。
裁縫士が仕事を受けると言って、営業が嫌がるという事はやはり利益率の関係か?
貴族相手であればオーダーメードの服1着作るのに相当な利益が上がるが、平民の普段着だと薄利多売になり旨味が殆ど無いのだろう。
だが、商売になる、つまり利益が上がるのなら話は別だろう。
チェチーリアさんから聞いた平民服は1着あたり新品でも5百ルシア程度と言っていた。
「獣人達の服1着あたり千ルシア払いましょう。それでどうでしょうか?」
「え、千ルシアですかぁ? それでいかほどの量を?」
そう言いながら頭の中ではさっとそろばんを弾いているのだろうな。
俺はこの町に居る獣人達の人数を書いたメモを広げた。
「とりあえず男性が241人、女性が50人なのでそれぞれ3着ずつお願いします」
そう言って百万ルシアとなる大金貨1枚をミナーリの掌の上に置いた。
するとミナーリは直ぐに店側の利益等を計算しているのだろう。その顔はとても嬉しそうだった。
「男性用は上着とズボンね。女性用はワンピースでお願い。それで腰のあたりから尻尾が出せるようにスリットを付けて下さい。具体的な場所はジゼルの尻尾を参考にしてください」
そう言って隣に居るジゼルを見ると裁縫士達の視線も一緒にジゼルの方に移っていた。
ジゼルは黙って後ろを向くと尻尾を持ち上げて裁縫士に場所を見せてくれた。
裁縫士は仲間達と相談すると言って出て行くと、残されたミナーリは俺の顔を見ていた。
「それじゃ次はユニスさんの服ですね」
そう言うと俺の腕を掴むと商品が陳列されているスペースに連れて行った。
広大なスペースの中、人形に着せてある服はどれも貴族の紳士淑女が身に付けるような豪奢な服ばかりだった。
そして生地を触らなくても一目で分かるような高級な生地をふんだんに使っていた。
「どうですかぁ。ユニス様ならスタイルも良いですからぁ、こんなドレスとおってもお似合いですよぉ」
金貨の山は人を変えるようで、ミナーリもすっかり営業モードだ。
これが漫画なら彼女の瞳はきっとYENやUSDの通貨記号になっている事だろう。
それにしても展示してある服はどれもこれも高級なドレスばかりだった。
俺が欲しいのは普段着なんだけどなあ。
それでもミナーリの勢いに押されて全ての区画の商品を見て回る事になった。
それが終わると今度は下着コーナーだった。
そこにあったのはカボチャパンツのようなズロースやドレス生地に汗染みが付かないようにするためのインナーだけだった。
この世界ではあまり下着という物に感心が無いようだ。
ドレスで全てがカバーされてしまうのならならこれでもいいのだろうが、今履いている短いパニエスカートだと完全にはみ出してしまう。
俺が不満そうな顔をしていたのだろう。ミナーリが心配そうな声で聞いてきた。
「お気に召しませんかぁ?」
「ちょっと違うかなあ」
「それじゃあオーダーメードにしましょうかぁ。裁縫さん達にイメージを言って貰えれば何とかなると思いますよぅ」
そう言うと俺の腕を掴んで店の奥にぐいぐいと引っ張っていった。
そして連れて行かれた先は裁縫士達の控室だった。
「それじゃあ、どんな服が欲しいのかぁ言ってみてくださあぃ」
ミナーリが俺にそう言って促すと部屋に居る裁縫士達が一斉にこちらを注目してきた。
その中にはジゼルも居て俺に向かって期待を込めた視線を送っていた。
ジゼルの魔眼が気になって仕方が無かったが、ここで断る勇気も出なかったので仕方なく説明を始める事にした。
そこでブラウスやチュニックそれにTシャツ等の上着、スカートやパンツ等の地球での普段着を説明していった。
そしてハイソックスが分かるか聞いてみると騎士達の全身鎧の中に履くタイツのような物だという事で理解してもらえた。
これなら問題無いと踝までの物と膝上までの物をお願いした。
「お前さん、鎧を纏うのかの?」
「いや、スカートに合わせるだけよ」
そう言うと裁縫士達は目を丸くしていた。
「どうしたんですか?」
「お前さん、他の服もそうだが体の線を出し過ぎじゃぞ」
「そうじゃのう。お前さんそんなに男に飢えとるんか? これじゃあ、男共に襲ってくださいといっているようなもんじゃぞ」
え、ちょっと待てい。なんでそうなる。
「ちょっと、何ですかそれは。私は別に男に媚びを売るつもりはありませんよ」
「そうなのかの?」
そう言って俺が着ている露出の多いメイド服を見ていた。
駄目だ、幾ら否定してもこれじゃ全く説得力が無い。
「私は人間の町には行かないのですから何の問題ありませんよ」
「ま、まあ、本人がそう言うのなら、いいんじゃないかのう?」
「そうじゃのう」
何だか残念なモノでも見るような眼になっている気がするが、ここは気にしては負けだと思う事にした。
するとミナーリが空気を読んだのか話題を変えてくれた。
「それじゃあ、次は下着にしましょう。ユニスさん、どうぞイメージを言って下さぁい」
服に関しては似たような物があったので口で説明しても裁縫士達に理解してもらえたが、先程見学した下着コーナーを見る限り、言葉だけでは裁縫士達にイメージを思い描いてもらうのは難しそうだ。
ではどうするか?
口で駄目なら視覚的にイメージしてもらうしかない。
テクニカルショーツに手を伸ばすとハンカチを取り出した。
そしてハンカチを二つ折りにして逆三角形を作り、そのままに腰のあたりまで下げて行くと皆の視線もそれに合わせて下がっていった。
手に持ったハンカチを腰に当てると逆三角形の頂点となった部分が丁度股間に当たるのだ。
「前がこんな感じです」
そう言うと集まった裁縫士は目を見開いて「おお」と感嘆の声を上げていた。
次にハンカチを2つに折り長方形にすると、後ろ向きになって尻がすっぽり隠れるようにハンカチを当てた。
「後ろはこんな感じの下着を作ってほしいのです」
すると裁縫士達は俺が履いている娼館のパニエスカートを見ながらぽんと手を叩いた。
「成程のう、そのスカートにはそんな下着じゃないと丸見えになるわな」
「こんなうっすい布で大丈夫なのか?」
「そうじゃ、尻の形がまる見えじゃぞ?」
「へえぇ、ユニスさんこれってなんて言うんですかぁ?」
「えっと、パ・・・ショーツです」
「ふうん、ショーツですかぁ。これが最後ですかぁ?」
そう言われてジゼルの顔を見た。
ここにあおいちゃんが居たらコスプレ用の衣装を注文するのかと突っ込まれそうだが、ジゼルの魔眼に海城神威が映っていたら変態だと思われるのだろうか?
だがそれだけは勘弁して欲しいものだ。
それにこれは必要なのだ。
胸にある2つの突起物が揺れて結構邪魔になるし、他人の視線も感じるからな。
ここは鈍感力を高めて言ってしまおう。
「次はこれです」
そう言ってハンカチを先程と同じように三角にして更に折ってサイズを小さくするとそれを胸に当てた。
「両胸にこの様に当てて包み込みます。そして紐を背中に回して吊り上げます」
するとそこに居た裁縫士もミナーリも更にはジゼルまで黙ったままだった。
うう、何か言ってくれよ。
俺だって自分で言ってて恥ずかしいんだぞ。
保護外装を纏っていると汗は出ないが、気分的に嫌な汗が背中を流れるような感じがした。
その後、再起動した裁縫士達から色々質問され、それに答えてようやく理解してもらえた。
「お前さん、欲しいのはこれで全部かの?」
終わった。
俺は燃え尽きたよ。
真っ白にはなっていないが一線を越えて新境地に達したぜ。
「ええ、これで全部ですね」
すると裁縫士達が一斉に立ち上がるとこちらに迫ってきた。
何か不穏な空気を感じで後ずさると、更に迫って来るので壁際まで追い詰められていた。
そこで裁縫士達の手にメジャーがあるのを見てミナーリがオーダーメードだと言っていたのを思い出していた。
それからはあちこちのサイズを計られたのだ。
そしてミナーリからはまた名前を聞かれたので「ブラ」とだけ答えておいた。
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