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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第3章 封鎖された町
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3-27 再会

 

 トマーゾは、亜人がウジェと呼んでいた犬獣人に案内されて広い道を歩いていた。


 亜人の話だとチェチーリアと交流があるようなことを言っていたが、それは娘が働いている場所と何か関係があるという事なのだろうか?


「えっと、ウジェさんでしたか」

「はい、そうですよ」

「あの亜人・・・」

「ユニス様ですか」

「ええ、その、ユニス・・・様は、人間をどう思っているのでしょうか?」

「言っている意味が良く分かりませんが、住んでいる娼館の中には確か人間の方も沢山いますよ」

「娼館? そんな所に住んでいるのですか?」



 トマーゾはウジェという犬獣人に案内されて娼館にやってきたのだが、最初に目に飛び込んできたのは豊満なボディを惜しげも無く晒した女性の姿で、その煽情的な広告看板を見て慌ててファビアの目を手で覆った。


 だが一瞬遅かったようでファビアはその看板を見て「わあ、綺麗なお姉さん」と無邪気に喜んでいたが、トマーゾはそれには答えることができなかった。


 そのまま孫娘を抱いて娼館の中に入ると、犬獣人はそのまま食堂まで案内してくれた。


 そこには久しぶりに見た娘の姿があり、その視線がトマーゾ達を捕えると驚いた顔に変わった。


「父さん、それにファビアまで」


 娘のその声に直ぐに孫娘が反応した。


「うん、ママ、どこ?」


 ファビアは直ぐに母親の姿を見つけるとトマーゾの腕の中から抜け出し、両手を突き出ながら母親に向かって駆け出して行った。


 チェチーリアはそんな孫娘を抱き上げると、孫娘を嬉しそうにあやしていた。


 トマーゾはそんな母娘の姿を眩しそうに眺めていた。


 そこで初めてファビアに母親が死んだと言わなくて、本当に良かったと思ったのだった。


 するとファビアにお腹から、可愛らしい音が聞えてきた。


「おなかすいた」

「まあ大変。直ぐにご飯作るわね」


 そう言って厨房の中に消えると、料理を作る音と匂いが漂ってきた。


 ファビアは椅子に座りながら料理が出来るのを待っているが、その床につかない足をぶらぶらさせている姿は、久しぶりの母親の手料理を楽しみにしているのがありありと分かった。


「ファビアお待たせ。さ、食べて。ああ、父さんのもあるからね」


 トマーゾは出された食事を見て驚いた。


 それはボルガ村での食事とは雲泥の差があったからだ。


 そしてそんな食事を見て、とても心配になってきた。


「お前、こんな豪華な食事を作ってしまって大丈夫なのか? 辺境伯様とかあのエルフとかに咎められないのか?」


 トマーゾがそう聞くと、ファビアが俺の声で不安になったのか食べるのを止めてしまった。


 だが俺の心配をよそに、娘はファビアの頭を撫でながら「食べても大丈夫よ」と言って笑っていた。


 そしてファビアが安心して食事を再開すると、ちょっと怒ったような顔を俺に向けてきた。


「ちょっと父さん、ファビアを怖がらせないでよ」

「おっと、これはすまん」


 隣ではファビアは木で出来たスプーンをしっかり握って美味しそうに食べていて、その顔はとても幸せそうだ。


 その姿を眺めながら今朝、死を覚悟していたのがまるで悪い夢でも見ていたような気になっていた。


「どれ、俺もこのご馳走を頂くとしようか」


 そう言ってトマーゾは、娘が作ってくれた料理をスプーンで掬うと口に運んだ。


 それはとても味の濃い食べ物で、野菜が口の中で砕かれるとうま味が口の中に広がっていった。


 久しぶりにお腹いっぱい食べたファビアは幸せそうな顔をして船を漕ぎ始めたので、チェチーリアに頼んで部屋で休ませると、この町の状況について尋ねてみた。


 チェチーリアの話は三文芝居に出て来そうな明らかにおかしな内容だったが、事実がそうである以上信じない訳にはいかなかった。


 でもなんでたった1人で、5千の兵に勝てるのかという疑問は残った。


「と言うわけで、ユニス様は信用できるわ」

「そうか。まさかお前を殺さないために死を偽装するとはな。危うく恩人に切りかかるところだったよ。すると他の連中の家族も皆生きているんだな?」

「ええ、多分七色の孔雀亭に居ると思うわよ」

「ああ、それで他の家族をその宿に案内したのか」

「それで、これからどうするの?」


 トマーゾは辺境伯を裏切ったので、既に帰る場所を失っていた。


 今頃は裏切った腹いせに家は壊され、畑は他の農民の物になっている事だろう。


「この町で暮らすことは出来るのか?」

「それは・・・分からないわね」


 チェチーリアが言い淀んだのは、この町が封鎖されていて食料が外から入って来ないからのようだ。


 そしてその食料を確保するため、獣人達が森で狩猟をしているそうだ。


 そんな町に人が増える事は、迷惑でしかないだろう。


「それじゃ、俺が頼んでみるから口添えをしてもらえるか?」

「ええ、分かったわ」


 +++++


 ブルコのネチネチとした小言からようやく解放されると、ジゼルと一緒に夕食を食べるため食堂にやって来た。


 時間帯的には人間種が食べている時間帯だが、最近は俺が入って行っても文句を言われる事も少なくなっていた。


 その事をチェチーリアさんに聞いてみると、宝飾店で助けたマウラ・ピンツァが他の女性達に色々話してくれたそうだ。


 情けは人の為ならずという言葉は、この世界でも当てはまるようだ。


 チェチーリアさんには、人数がまた増えたので食事を作る量の事を知らせる必要もあった。


 食堂にはチェチーリアさんの父親も居て、何か言いたそうな顔でこちらを見ていた。


「チェチーリアさん、実は娼館にエルフが33人程増えたので、明日からの食事をお願いします」

「はい、分かりました。それと」


 そう言うとチェチーリアさんは、カウンターに座っている自分の父親の方に視線を向けた。


 それに釣られて父親の方を見ると、椅子から立ち上がって俺に話しかけてきた。


「ユニス様、私はチェチーリアの父親でトマーゾと言います。その、なんだ、今回は助けて貰ったのでお礼を言わせてほしい。ありがとう。それと、お願いがあるんだが」


 まさか、チェチーリアさんを連れて行きたいという事だろうか?


 まあ、小さい子供には母親が必要だし、もしそうなら快く送り出さなければならないな。


「何でしょうか?」

「実は、その、この町で暮らしたいんです」

「ええ、いいですよ」


 この町は封鎖されていて出て行けないんだから、この町で暮らす以外方法はないのだ。


 問題はどこまで長期化するかという点なんだよね。


 すると今度は、チェチーリアさんが口を挟んできた。


「あの、ユニスさん、父が言っているのはここにずっと住みたいという意味なんですが」

「え?」


 思わず声が裏返ってしまった。


 こんな獣人だらけの町に住みたがる人間がいるとは思わなかったが、それが希望だというのなら何とかしないといけないな。


 住むとなるといつまでも宿屋と言う訳にも行かないので、住宅を建てる必要があった。


 幸いな事にこの町はかなりゆとりのある都市計画になっているので、建物を建てる場所には困らなかった。


 問題は食料だが、それも魔素水があればなんとかなるだろう。


「ええ、構いませんよ」


 俺がそう答えると、2人ともとても嬉しそうな顔をしていた。


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