3-25 ゴーレムの内部
辺境伯軍は、サソリもどきが破壊されたのを見て退却していった。
そして取り残されたサソリもどきを調べるため、ゴーレム達に集合を命じた。
最悪の場合、ハッチを開いた途端中に潜んでいる敵兵が出てくる可能性があるためだ。
南門からは、こちらの様子を窺っていたジゼルやトラバール達が駆けて来る姿が見えた。
味方ゴーレムに取り囲まれたサソリもどきに、動きは無かった。
そのままハッチを開けるように命じると、2体のゴーレムが腹によじ登りハッチに手を掛けて強引に引き剥がした。
そしてぽっかりと開いた空間に向けてスリングショットを構えると、そこに茶色の弾を打ち込んだ。
スモーク弾が中で炸裂すると、大量の煙を放出し壊されたハッチや罅割れた場所からもうもうと白い煙を噴き上げていた。
暫く待っていると、咳き込みながらこれから社交界にでも出席するのかと勘違いするくらい立派な服を着た男が現れた。
その服も、スモーク弾の煙を浴びで台無しになってはいたが。
そして周りを見て自分が包囲されているのに青ざめていたが、その視線が俺に向くと怒りで顔が真っ赤になっていた。
そして俺を指さすと、悪態をついてきた。
人を指さしてはいけませんと教わらなかったのですか?
「ふ、ふざけるな。なんでゴーレムが50体も居るんだ」
え、普通軍備増強とかってするよね?
「それになんで黄色魔法が使えるんだ?」
普通実力は隠すものだよね?
能ある鷹は爪を隠すってことわざもある事だし。
「ブリージの馬鹿野郎め、この負け戦は俺のせいじゃないぞ」
ああ成程、こちらの戦力分析を見誤って負けた事を他人のせいにしているという事ですね。
まあ、前回攻められた時はこちらのゴーレムは25体だったし、全部は起動させていなかったからな。
敵側の作戦は、人間の盾でこちらのゴーレムを集めて住民もろとも黄色魔法で一掃し、撃ち漏らしは自走バリスタで仕留めるといった感じか。
黄色魔法を知らなかったのは、前回の攻防戦で攻撃魔法を使っていないし、夜襲された時はブルコが怖くて部屋を壊さないように青色魔法までしか使ってなかったから誤解したのだろう。
そしてこちらのゴーレムを一掃した後は、サソリもどきがカルトロップを踏み潰しながら前進し壁を壊して進入路を確保すると、その進入路を使って騎馬隊が一気に突入し、その機動力を生かして生き残りを掃討するという作戦だったのだろう。
こちらの戦力を分析したのは良い方法だと思うけど、戦力を見誤ったツケは払って貰わないとね。
破壊されたハッチからは立派な軍服を着た男に続いて4人の男達が現れ、その場で蹲って咳き込んでいた。
どうやらゴーレムの中には、兵士達は控えていなかったようだ。
「それでおじさん達は降伏するの? それともまだ戦うの?」
「おじ、おじさんだと。俺はドーマー辺境伯軍のヴァスコ・ターニ騎士爵だ。もっと敬え」
何故この手の奴は、負けたのに偉そうなのだろうか。
「それでおじさん騎士さん、降伏しないならこのまま殺してもいいよね?」
「ば、馬鹿者。勿論降伏するが、貴族としての待遇を要求するぞ」
この世界には、ジュネーブ条約のような捕虜に関する規定ってあるのか?
だがベインが昔戦争に負けて、それからずっと奴隷のような事を言っていたよな?
仮にあったとしても、種族が違うとそれは適用されないのではないだろうか?
「それは相手がエルフだったらそうするわ。でも貴方は種族が違うから唯の奴隷よ」
試しにそう言ってみると偉そうな貴族殿は目を見開いて絶句していたので、どうやら図星だったようだ。
だが、捕虜を取るなんて面倒くさい事はしたくないし、このサソリもどきが魔法を使う仕組みとか巨体を動かす動力等色々知りたい事があるので、情報と引き換えに解放する方向で交渉したようが良さそうだな。
「でも、そうね。このゴーレムの事を色々教えてくれるのなら、解放してもいいわよ」
「本当か」
貴族殿は、期待に満ちた声色でそう返してきた。
まあ、自分達が日頃行っている所業を考えれば、亜人の捕虜になりたくないのは当然か。
「このゴーレムは、どうして魔法が使えるの?」
「それは・・・」
そこまで言うと、後ろのゴーレムを見上げてから何やらぶつぶつ言っていたが顔を上げて俺の顔をじっと見て来た。
「それを言ったら無傷で解放してくれるか?」
何か知られると拙い事でもあるようだが、変に隠されて事態が悪くなるよりも自発的に喋らせた方が良さそうだ。
俺は相手の条件を飲むことにした。
すると貴族殿はゴーレムの中にエルフを捕えてあり、そのエルフが魔法を放ったと暴露した。
成程、渋っていた理由はこれか。
俺がエルフと思っているから、同族を虐げている事実を目の当たりにしたら前言を撤回すると思ったのだろう。
降伏した残り4人は、サソリもどきの車長に運転手、それにアーム操縦手とエルフから魔力を引き出す調整士という役割のようだ。
調整士という役割にちょっと引っ掛かりを感じて、そう名乗った男をじっと見つめると見つめられた男は途端に青い顔になり挙動不審になっていた。
どれだけエルフを虐げているんだ?
中を調べるためゴーレム達に命じて裏返っているサソリもどきを元の位置に戻すと、破壊したハッチに階段があるのを見つけた。
階段を下ろし貴族殿と青くなっている調整士とを連れて中に入ろうとすると、俺の腕を掴む者がいた。
ジゼルは俺の腕を掴むと厳しい顔を向けてきた。
「まさか1人で行くんじゃないでしょうね?」
「おい姐さん、それは危険だ。俺も付いて行こう」
一応降伏はしているが、2人にとって人間は信用出来ない人種なのだろう。
ここは大人しく2人に付いて来てもらった方が良さそうだ。
サソリもどきの中は輸送機の貨物室のような感じで、運ばれる兵士が座る長椅子が付いていて、広い空間の天井には城壁を登る梯子に通じる通路もあった。
その広い空間を真っ直ぐ前方まで歩いて行くと、そこに扉がありその先は操縦室になっていた。
操縦室は前に2つ、中央に2つそして後ろの1つにコンソールがあった。
そして先に操縦室に入っていた貴族殿が、操縦室のある一か所を指示した。
「あれが魔法を使える理由だ」
指さされた先を見ると、そこには鎖で両手両足を繋がれて天井から吊るされたエルフが居て、ぐったりとしていて意識が無いようだった。
思わず助けようと一歩踏み出すとジゼルに腕を掴まれた。
「そのエルフに近づいては駄目よ」
最初ジゼルが何を言っているのか分からなかったが、ジゼルはじっと貴族殿を見つめていたので魔眼に良くない裏の顔が現れたのだと直ぐに分かった。
そして青い顔をした調整士の方を見ると、何かのボタンを押そうと待ち構えていた。
そしてエルフの足元には魔法陣が現れていた。
「お前、何をしている?」
俺が指摘すると、青い顔をした調整士は途端に挙動不審になっていた。
すると素早く動いたトラバールが、手に持った剣で調整士を串刺しにした。
あまりにも突然な行動で制止する暇も無かった。
トラバールの容赦のないその行動を見た貴族殿は、顔を青くしていた。
ブックマーク登録ありがとうございます。




