3-23 トマーゾの決断
トマーゾ達が連れて来られたのは、領都ダラム近郊の平原だった。
そこで次の命令が来るまで待機していると、軽い地響きと共に巨大なゴーレムが現れた。
そして住民達は、そのゴーレムの周囲を歩くように命令されたのだ。
道なりに進んで行くとやがて大きな城壁と開いたままの門が現れ、どうやらゴーレムの目的地がここのようだった。
ゴーレムが停止すると、トマーゾ達はゴーレムの前に集まるように命令された。
門の前には多数のゴーレムがこちらの侵攻を阻むように隊列を組んでいて、それを見た住民達がトマーゾの周りに集まって来ては口々に不安を口にしていた。
「おいトマーゾ、本当にあのゴーレム共の中に突っ込んで行くつもりか?」
「ああ、それしか俺達に生き残る道は無い」
「だ、だが、トマーゾよ、あの腕を振り回されたら俺達死ぬぞ」
「「「そうだ、そうだ」」」
移動中はトマーゾの話を聞いて敵側に寝返るという話になっていたが、目の前のゴーレムを見てからはその意思が揺らいでいるようだった。
ここはもう一押ししておいた方が良さそうだ。
「いいかお前達、さっき上空に現れた亜人を見ただろう。あれは俺達が居たから攻撃して来なかったんだ。あのゴーレム達も俺達を攻撃しないはずだ。だが、ぐずぐずしていたら敵と辺境伯のゴーレムに挟まれて俺達は全滅するぞ」
「「「うっ・・・」」」
トマーゾがそう言うと、遺族達は目の前のゴーレムと背後に居るゴーレムを見比べながら考え込んでいた。
そんな時、ドーマー辺境伯軍の中から1騎の騎馬が近づいて来て、馬上から声を掛けてきた。
「よいか、これからお前達が突撃する先にはお前達の家族を殺した敵がいる。あの開いている城門から中に入って、亜人共を殺すことがお前達の任務だ。我々騎士団もお前達の後に続いて町を攻めるが、それまではお前達が頑張るのだ。鐘の音を2つ聞いたら、それを合図に一斉にあの城門に向けて前進するのだ。分かったな」
トマーゾはこの場に集められて家族達を眺めて見ると、同じ村出身者も居たが多くは別の村の出身者のようで知らない顔が多かった。
だが、皆一様に不安そうな顔をしてトマーゾの話を聞いていた。
「皆、聞いただろう。俺達は弾避けだ」
それを聞いた遺族達は、意味が分からないようで皆首を傾げていた。
トマーゾは、その顔に噛んで含めるように詳しく説明することにした。
「俺は昔、騎士団に居たんだ。そこで住民を盾にして抵抗する貴族と戦ったんだが、住民達にこちらに来るように言ったが皆躊躇してな。結局全員戦闘に巻き込まれて死んだ。ここでも同じ目に遭うぞ」
それを聞いた代表者達は驚いた顔をしながらも信じられないのか、首を横に振っている者が多かった。
「そ、それじゃどうしたらいいんじゃ?」
「敵の亜人がお人好だと信じて、突っ込むしかない」
「このまま逃げたらどうだ?」
「待て、逃げたら後ろから刺されるぞ。俺達の生きる道はあの門の向こう側にしかない」
そう言ってトマーゾは、目の前にある城壁に囲まれ開いている城門を指さした。
他の連中もそれに釣られて城門を見ていた。
「でも、あの先には家族を殺した亜人が居るんだぞ」
「そうだ、どうせなら辺境伯様の言葉の通り、仇討をした方がいいんじゃないのか?」
トマーゾは、ここが重要な局面であることが分かっていた。
集まった皆の顔を順番に見ながら固い意思を表情に表しながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「いいか、俺達が生きられる可能性があるのは、あの城門の向こう側だけだ。死んだ家族を悼むより、生きている家族を大事にしろ。後ろにいる騎士に追いつかれる前にあの門を潜った者だけが、生きるチャンスを掴める。だから、小さな子供は抱き上げて必死に走れ」
「わ、分かった。だが、中の獣人に殺される危険があるだろう」
「俺が先に入ってどんな奴か見極める。俺が降伏したらお前達も迷わず従うんだ」
トマーゾがそう言い放って集まった皆の顔を見回していると、戸惑った顔をしていたが、やがて覚悟を決めたのか厳しい顔になり、大きく頷いていた。
相談をしている俺達を見て、不信に思った隊長が俺達に元にやって来た。
「お前達何をやっているんだ?」
「門の中に入ってからの行動を皆で相談しておりました。隊長様には家族の復讐に手を貸してくださる事を感謝しております」
「そうか」
トマーゾがそう言うと、司令官は満足そうな顔で頷いていた。
「それでは鐘の音を2つ聞いたら、それを合図に前進するのだぞ」
「畏まりました」
トマーゾは家族たちの顔を見まわしてから、周りの連中に声を掛けていた。
「皆、行くぞ」
そう言うとトマーゾは孫娘を抱き抱えて、力の限り城門に向かって走りだした。
他の家族もトマーゾと同じ行動を取っているところを見ると、ある程度は俺の事を信用してくれているのが分かった。
ドーマー辺境伯の軍隊は、自分達が声を掛ける前に勝手に走り出した平民達に唖然としている間に、トマーゾ達は敵ゴーレムの隊列に向けて突っ込んでいった。
背後からは隊長の怒鳴り声が聞こえたがそれよりも気掛かりな敵ゴーレムの動きを見ていると、不思議な事に左右に分かれて南門までの道を開けてくれたのだ。
トマーゾは小脇に抱えた孫娘を抱き直すと、必死に門に向けて走り続けた。
既に孫娘を抱えた左腕は痺れ、両足は既に感覚が無くなってきていたが、それでも走る事を止めたりはしなかった。
これは賭けなのだ。
「皆死にたくなかったら立ち止るな。一気に走り込め」
トマーゾは開いている城門を睨みつけながら、内心は扉を閉ざされるのではないかとか城壁に現れた弓兵にいきなり矢を射かけられるのではないかと内心恐れていた。
だが何事も無かったかのように、呆気なく門を通過していた。
その先には腕組みをした金髪の亜人が立っており、その眼は冷たくこちらを警戒しているようだった。
そしてその後ろに凶悪な顔をした虎や猫等の獣人達が武器を構えており、同じようにじっとこちらを見つめていた。
その獣人の中には最も狂暴だと言われる獅子獣人も居た。
久しぶりに見る獣人の姿はとても恐ろしく、後ろに居る住民達の緊張も伝わってきた。
ここで対応を誤れば、孫娘もろとも殺されてしまうだろう。
その時、目の前の亜人が話しかけてきた。
「貴方達は何故ここに来たのです?」
目の前の亜人の冷たい声が聞えた。
後ろに居る獣人達も俺の答えが気に入らなければ、いつでもとびかかれるよう武器を構え直した。
ここで早く降伏を宣言しなければ拙い事態になりそうなのは十分理解しているのだが、トマーゾ自身ここまで孫娘を抱えての全力疾走で疲れ果て、手に持った斧を杖代わりにしてやっと立っている有様で息が上がりとても喋れる状態ではなかった。
それは相手からは態と時間稼ぎをしているように見えたので、場の空気はみるみるうちに悪くなっていった。
そんな緊張した空気の中、全く予期しない声がこの場の緊張を一気に吹き飛ばしたのだ。
「ママにあいにきたの~」
それはトマーゾが左腕に抱えていた孫娘の声だった。
目の前の亜人の顔は険しそうな顔から徐々に穏やかな顔に変わっていくと、ファビアと同じ視線になるように膝を落として微笑みかけてきた。
「ママのお名前は何て言うの?」
「チェチーリア・アゴストだよぉ」
そこでトマーゾは、ファビアに母親が死んだことをまだ話していない事実にはっとなった。
目の前の亜人からいきなりお前の母親は死んだと告げたら、ファビアがどんなに悲しむか分からなかった。
もしかすると亜人に罵声を浴びせて再び険悪な空気になったら、悲惨な結果になる可能性もあるのだ。
だが、そんなトマーゾの心配をよそに、亜人はファビアに語りかけていた。
「あら、チェチーリアさんの娘さんなのね。貴女のお母さんには、いつもお世話になっているのよ。ウジェ、このお嬢ちゃんをチェチーリアさんの所まで案内して上げて。それから残りの方達は・・・七色の孔雀亭に案内してあげた方がよさそうね。きっとそこに家族がいるはずだから」
その言葉を聞いたトマーゾは、驚きで目を見開いた。
「生きて・・・・いるのか?」




