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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第3章 封鎖された町
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3-22 人間の盾

 

 俺は手持ちの材料を色々組み合わせて、小さなメガホンを作っていた。


 今までゴーレムを操るときは鐘や笛を使っていたが、より複雑な行動を命令できるようにしたいと思ったからだ。


 出来上がったのは小さな旅行用ドライヤーくらいの大きさだが、これで命令を発するときちんと動くという仕組みだった。


 早速試してみるため南門に行くとそこでスリープ状態になっているゴーレムに「起動」と命じてみると、それまでオブジェだったゴーレムが突然シャキッと姿勢を正すとこちらに振り返り次の命令を待っていた。


 現在パルラの町に設置してある戦闘用ゴーレムは、50体にまで増えていた。


 せっかくなので全部集めてそれぞれ1班10体の班分けをして、今度は班毎に集合とか前進とかの命令を発すると見事な機動で動き出した。


 これなら前にジゼルが言っていたマスゲームも簡単に出来そうだった。


 暫くゴーレム達の訓練をしてから、元の位置に戻すと娼館に戻る事にした。


「ドーン」


 南の空に警戒用に設置してあるゴーレムから、敵の襲来を知らせる魔法弾が打ち上がった。


 どうやら辺境伯軍がリベンジに来たようだ。


 前回はカルトロップで進入路を限定してそこに催涙弾を撃ち込んだが、今回はそれを研究して勝てると踏んで攻めてきたはずだ。


 最も考えられるのが攻城兵器だ。


 地球の歴史でも城壁を持つ町を攻めるのに、中にバリスタ等を装備した攻城塔が使われた記述もあるのだ。


 そんな物は町に来る前に潰しておくに限るので街道を進軍している無防備な所を黄色魔法で一気に蹴散らす事にした。


 敵もこちらを殺しに来るのだから、同じように殺される覚悟はあるのだろう。


 先手必勝は戦いのセオリーである。


 娼館を出るとそのまま上空に舞い上がり敵がやって来る街道目指して南下すると、予想通り敵軍の中に巨大な物体がいた。


 それは尾が短いサソリのような外見をしており、短い尾から頭部の後ろまで伸びた溝の中には梯子が収納されていた。


 その梯子は、はしご車の梯子のように持ち上がってはその先端が伸びるようだ。


 そして頭の両側から伸びている前足の先には巨大なハサミが付いていて、解体現場で見かける解体用重機のハサミに似ていた。


 戦い方はあのハサミで城壁を崩し、その隙間に背中に収納した梯子を伸ばして兵士がなだれ込むのだろう。


 味方の戦闘用ゴーレムの何倍も大きい攻城用ゴーレムは、さしずめサソリもどきと言ったところか。


 早速黄色魔法で吹き飛ばしてやろうと接近すると、サソリもどきの周りには小さな子供を含む住民が取り囲んでいた。


「うそだろう」


 今サソリもどきに魔法を放ったら、周りに居る住民を全員巻き込んでしまう。


 俺が逡巡していると敵兵に見つかったようで、隊列の後方にいた弓兵が前に出ると一斉に矢を放ってきた。


 上空に向けて放たれた矢は、次第に運動エネルギーを失い次々と落下していった。


 だが何時までもここに居ても仕方がないので、パルラに帰る事にした。


 パルラに戻ってくると獣人達に集まってもらった。


 皆俺の深刻そうな顔を見て、悪い事が起こった事を悟ったようだ。


「姐さんよ、俺達は最後まで付き合うぜ」


 トラバールが皆を代表して俺にそう言ってきた。


 誰も逃げると言わないのは驚きだ。


 そこで先程見て来たものを皆に説明すると、その卑怯なやり方に皆憤慨しているようだった。


 これからあの連中が攻めてくるので、急いで迎撃態勢を整える必要があった。


 そこでやる気十分の獣人達に協力してもらう事にした。


 まず剣闘士は剣による接近戦になるので北門をオーバン達豹獣人5名に、南門はトラバール達37名に守備をお願いした。


 そしてベイン達は森林地帯での狩りで弓を扱える事が分かっているので、城壁に布陣させ敵兵が壁を登ってきたら狙い撃ってもらう事にした。


 北門の警備に向かうオーバンには、小屋に居るウジェ達に声を掛けて城門の中に避難するように頼むことにした。


 獣人達への指示が終わると南門上の城壁に上り、そこで50体のゴーレムを起動させると南門の前に集合させた。


 南門の上から敵が現れるのを待っていると、いつの間にかやって来たジゼルが俺の隣に来ていた。


 ジゼルの顔はちょっと不安そうだったが、それでも俺の手を取って頷いてきた。


 その眼は覚悟を決めているような気がした。


 やがてやって来たサソリもどきが停止すると、百人前後の住民達がその前に集まって人間の盾を作っていた。


 住民達の中には斧等の武器を持った者も居たが、大半は鋤や鎌等で武装していた。


 湾岸戦争等で米軍からの空爆を恐れて軍事基地の周りに住民達で盾を作っていたが、それを目の前でやられるとは思ってもみなかった。


 俺は住民達が怖がって逃げてくれることを祈りメガホンを手に取ると、ゴーレム達に展開命令を発した。


 ゴーレム達は無駄のない動きで2列横隊になると、ボディビルダーのフロントダブルバイセプスのポージングをしてサソリもどきの前に居る住民達を威嚇した。


「効き目は無いみたいね」


 隣でジゼルがぽつりと声を漏らしていたが、住民達は何が起こっているのか分かっていないようでキョロキョロ周りを見ているだけだった。


 他に打つ手が無い状況で困っていると、サソリもどきの前に居た住民達が走り出したのだ。


 どうやら正面から攻めて来るようだ。


 魔法を撃てない以上ゴーレム達を回り込ませてサソリもどきの動きを止めるしかないので、メガホンを取ると早速ゴーレム達に左右に分かれるように指示をだした。


 するとサソリもどきの前に居た住民達が、雄叫びを上げながらゴーレム達が開けた隙間を目指して走り込んできた。


 南門の中で控えているトラバール達を見下ろすと声を掛けた。


「皆、住民達が突っ込んでくるけど出来るだけ殺さずに無力化してね」

「おう任せて貰おう」


 俺はそう言ったトラバールの顔を見ていた。


 ガサツなトラバールが一番心配なんだけど、ここは任せろと言ったのだから信用しておこう。


 そして振り返って住民達の突撃を見ていると、可笑しな点があるのに気が付いた。


 人間の盾で守っていた敵のサソリもどきを置き去りにしているのだ。


 後ろでは住民達に置き去りにされた兵士達がなにやら号令をかけていてサソリもどきを前進させようとしていたが、その動きは鈍く住民達の間に空間が広がっていた。


 この状況で住民達だけを先に突撃させる意味が分からず戸惑っていると、住民達は味方のゴーレムが開けた空間を走り抜け真っ直ぐ南門を目指していた。


 気が付くと住民の手には武器や農機具は既になく、その手の中には幼い我が子を抱き抱えていた。


 その姿を見た俺は住民達と敵軍との間にゴーレム達を割り込ませて住民達が危害を加えられないようにすると、急いで城壁の上から降りて南門の中に走り込んでくる住民達を待ち構えた。


 やがて一丸となって南門を潜ってきた住民達は、真っ直ぐこちらに向かってきた。


 その先頭を走っている体格が良い初老の男性は、左手の中に小さな女の子を抱え右手には戦斧を握っていた。


 そのまま襲い掛かって来る危険もあったが、幼い娘を抱えてそのような暴挙に及ぶとは考えられなかったので、次にどのような行動を起こすのか見守る事にした。


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