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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第3章 封鎖された町
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3-20 魔素水の効能

 

 この世界の汚水処理は、水で流され地下に設置されたスライムプールで処理されていた。


 そんなある日、娼館の裏手で騒ぎが起きた。


 何事かと言ってみると、そこには巨大化したスライムが居た。


 最初に思ったのは「何故ここにスライムが?」だったが、そのスライムは人間の背丈よりも大きく、しかも体表がとても綺麗な青色をしていた。


 そのスライムは暴れているというよりも、楽しんでいるように見えた。


 周りにはこの町の雑役を熟している猫獣人が数名いて、刺股のような武器でスライムを元居た場所に戻そうと奮闘していた。


 俺はそこで獣人達に指示を出しているベインに声を掛けてみた。


「ベイン、これはどういった状況なの?」


 ベインは俺の姿を見ると一瞬緊張したように固まったが、直ぐにばつが悪そうに頭を掻いた。


「こ、これはユニス様、実はあのスライムが突然スライムプールから出てきまして、元の場所に戻そうとしているのです」

「スライムプールには、こんなでかいのが居るの?」

「いや、このくらいのサイズのはずなんですが」


 そう言って、両手を少し広げてバレーボール位のサイズを示していた。


 後ろでは猫獣人達が刺股をスライムに突き出しているが、それを体を変形させて回避していた。


 スライムには手も足もないのに器用に避ける物だと感心してみていると、気のせいか俺の方に近づいて来ているように見えた。


 そこでベインに聞いてみることにした。


「スライムには目があるの?」

「え? いや、アレには目はありませんよ。恐らく匂いとか魔力を察知しているのだと思いますが」

「それじゃあ、何故私を狙っているような動きをしているの?」


 俺がそう尋ねると、ベインは俺とスライムを交互に見比べては首を傾げていた。


「ユニス様の魔力が高いからでしょうか?」

「ちなみに、スライムに捕食されるとどうなるの?」

「ああ、これはステイン種なので汚れを食べてくれますよ」


 ベインは俺が汚いのではないかと疑念をもったのか、先程からすんすんと俺の匂いを嗅いでいるのだ。


 それを見た途端に顔が熱くなるのを感じて、思わず語気が鋭くなっていた。


「ちょ、それはどういう意味です。私が汚いと言いたいのですか?」

「いや、とてもいい匂いですよ」


 うっ、まさかそう切り返されるとは思わなかったぞ。


 だが、冗談抜きであのスライムは俺を狙っているよな。


 それからスライムとの間で鬼ごっこが始まったが、直ぐに娼館の壁に追い詰められていた。


 タイミングを見計らって右か左のどちらかにフェイントをかけて逃げようとしたのだが、スライムはないはずの手を伸ばして俺の体を捕獲したのだ。


 気が付くと俺の視界は青色のレンズを通してみるような感じになっており、なにやらもぞもぞと体を弄られているような感覚があった。


 俺の体はスライムの中にすっぽり包まれていて息が出来ない状態であり、このままでは窒息かゼリー状の体液を飲み込んでの溺死という未来しか見えなかった。


 外にいるベインは何とか引っ張り出そうと頑張ってくれていたが、スライムの体は滑るようで無駄な努力に見えた。


 このままでは本当にまずいのでテクニカルショーツの中からダイビンググローブを取り出すと、それを左手に嵌め思いっきりスライムの魔力を吸い取ることにした。


 後は俺が窒息するが早いかスライムの魔力を吸い尽くすのが早いかの勝負になったが、スライムの体がみるみる小さくなり窒息する前に鼻と口を外に出すことが出来た。


 俺は真っ赤になった顔で息を吸い込むと、なんとか意識を失わないで済んだ。


 いや、今のは本当にやばかった。


 川の向う側で俺に手を振っている、お祖母ちゃんの姿が見えた気がしたぞ。


 スライムは普通のサイズまで縮んだので、後はベイン達がスライムプールに戻して一安心だと思ったが、どうやらそれは早計だったようだ。


 俺の後ろには、顔を真っ赤にして仁王立ちしているブルコが居たからだ。


「ちょっと、この騒ぎは一体なんだい?」


 そのあまりの剣幕に、委縮した猫獣人が思わず身を竦めてとんでもない事を言い出した。


「すみません。ユニス様の魔力が高過ぎて、スライムが肥大化したようです」


 それを聞いたブルコは、油の切れた機械からギギギという擬音が聞えて来そうな動作で俺に振り向いた。


「またお前さんか。毎度毎度厄介毎ばかり持ち込んでくれるね。娼館のトイレは使用禁止だよ」


 俺はなんでと思い抗議したが、ブルコからは今までこんなことは無かったのに俺が住み着いてから問題だらけだと言われてしまうと、流石に返す言葉が無かった。


 まあ、あの日以来娼館が開店休業状態という不満もあるのだろう。


 ここはブルコの機嫌が直るまで、大人しくしていた方が良さそうだ。


 仕方がない、暫くの間は森林地帯で場所を見つける事にしよう。


 狩猟のため森に入った時にも証明されたが、俺には森の魔物は近づかないようなので、森に入って用を足している時にいきなり襲われることも無いだろう。


 俺が森林地帯で用を足すようになって暫くすると、その周辺の植生が変化したような気がした。


 近くに生えていた植物が、何か違う物に変わったようなのだ。


 それは紫色をした先が尖った葉を持ち、黄色い小さな蕾を幾つも付けていた。


 スライムが巨大化した前例があるので、これも何か良くない物かもしれないと詳しい人達に見てもらう事にした。


 そして向かった先は、ウジェ達が居る小屋だ。


 農業をしている人達ならこれも知っていると思ったのだが、残念ながら誰も知らなかった。


 他に詳しそうな人間が思い当たらなかったので、チェチーリアさんにでも聞いてみるつもりで北門を潜りパルラの町中に入ると、傍の倉庫前でクリップボードを手にしたパメラに出会った。


 声を掛けてみると、彼女は倉庫の中に物資を点検した帰りだそうだ。


 そして俺が手に持っている植物を見ると、目を大きく見開いた。


「そ、それは・・・」

「ああ、これ、珍しい植物を見つけたので誰か知っていないかと思ってね。ひょっとして知っているの?」


 見せて欲しいと言うのでパメラに渡すとそれをじっくり調べていたが、やがて俺の方を向くとこれが何なのか教えてくれた。


「これは絶滅したと言われているエクサル草です。この草から若返りの薬と言われるエリクサーの原料が取れます。これが何処にあったのか教えて貰えますか?」


 え? それはちょっと困るというか流石に恥ずかしいな。


「それはちょっと」と言葉を濁すと、パメラは当然ですよねと言う顔をしていた。


 パメラと別れると俺はウジェ達の小屋に逆戻りしていた。


 そしてウジェから魔素水の濃度を測る計器を借りる事にした。


 この計器の目盛りの単位は分からないので勝手にパーセントと呼んでいるが、魔素水泉の水を計った時は目盛りが10を示していた。


 借りてきた計器をパメラがエクサル草と言った草が生えている場所の土に差し込むと、20まである目盛りが振り切れていた。


「おうふっ」


 そのありえない数値を見て、頭を抱えた。


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