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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第3章 封鎖された町
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3-19 先達との邂逅3

 

「ところであおいちゃんは、この世界で百年も運送屋をやっているのか?」

「違うわよ。今は引退してるけど、少し前まで大公だったのよ」


 うん、大公だって?


 確かこの国は公国のはずだ。


「え、あおいちゃん王様やってたの?」


 そう言うとあおいちゃんは顎を上げてどうだと言わんばかりだが、この国のトップというのなら丁度いい、疑問点を聞いてみる事にした。


「ちなみにこの町を占領した俺は、どんな罪に問われるんだ?」

「そうねえ。不法占拠、強盗、殺人、財産権侵害、営業妨害それから」


 そう言うと、指を折りながら数え上げる俺の罪状が片手の指を越えそうになったのでストップをかけた。


「ちょ、ちょっと待った。それ以上は言わなくていいから」

「冗談よ。ここは表向き対魔物用の要塞ってことになっていて、国から補助金が出ているの。下手に騒ぎを大きくしたら不都合な真実がバレしてしまうから、辺境伯は何も言えないはずよ」

「つまり、お咎め無しと?」

「国としてはね。だけど気をつけなさい。辺境伯は狡猾な男だから、このままにしては置かないわよ」

「何とか負けないように頑張ってみるよ。まあ、最悪の場合森に逃げるけどね」

「あら、神威君には何があってもこの町を占拠し続けて貰わないと困るわね」

「え、何で?」


 その時、扉を開けてジゼルがワゴンを押して中に入ってきた。


 ワゴンの上には、銀製カップとお茶のポットそれに茶菓子が入った皿が置いてあった。


 そこで俺とあおいちゃんが、同じ保護外装を纏った状態だったのに気がついた。


 今の状況をジゼルが見たら、いきなり現れた俺の双子かあるいは俺が自分のオートマタを作ったと思うのではないだろうか?


 いずれにしても外見がそっくりな2人が居たら戸惑うはずだが、俺のそんな想像をしている事等全く関係なく、ジゼルはあおいちゃんの前にお代わりのお茶を置いていた。


「お客様、お茶のお代わりをどうぞ」

「え? あ、どうもありがとう」


 2人のやり取りを見て、もしかしてジゼルの魔眼にはここに居る2人が同じ顔をしたエルフではなく、影島あおいと海城神威に見えているのかもしれないという疑念が湧いてきた。


 そして俺の前にもお代わりのお茶を置くと、俺の顔を見て声のトーンを落とした。


「随分と仲良しになったのね」


 そう言ったジゼルがとても不機嫌そうに見えたので、疑念が確信に変わったのだ。


 ジゼルは俺の返答を聞かないまま俺の後ろに回ると、肩に手を置いて俺の肩越しにあおいちゃんを見ていた。


「初めまして。私はジゼルと言います。ユニスとはベッドを一緒にする仲です」


 ちょ、ちょっと待って。


 なんでそんなに挑発的なの。


 そう言われたあおいちゃんが、目を細めて俺を睨んでいるじゃないか。


「ふうん、さぞ温かいベッドなのでしょうねえ」


 慌てて言い訳をしようとしたが、俺の肩を掴んでいるジゼルの手に力が籠ったので諦める事にした。


 とかく女性の感と言うやつは厄介なのだ。


 男の言い訳なんて簡単に見破ってしまう。


 そう、ここは開き直りが一番だ。


「しょうがないじゃないか。モフモフの尻尾には逆らえん」


 するとあおいちゃんが「ぶふっ」と噴き出していた。


「あら、随分と素直なのね」

「ああ、そうだよ。俺は獣耳も尻尾も大好きだよ。悪いか」

「あら、私も好きよ」


 おい、良いのならいいと最初から言ってくれよと、俺は心の中で突っ込んでいた。


 すると俺の頬にとても柔らかくフワフワした物が触れてきた。


 それはジゼルの尻尾で意図的にスリスリしているのだ。


 俺はその柔らかい感触に思わず顔がにやけると、それをあおいちゃんにしっかり見られていた。


 だが、ジゼルがそれ以上挑発することも無く「ごゆっくり」と言って部屋を出て行ったので、張り詰めていた空気が軽くなったような気がした。


 そしてほっと一息つくと、あおいちゃんはぱくりとお菓子を口に含むとお茶で飲み込んでいた。


「神威君、ところでこの町で何をしているの?」

「ぶほっ」


 そうだった。


 俺が何故ここに居るのかと言う話はまだしていなかったな。


 とりあえずビルスキルニルの遺跡に転移させられてから、今までの事をかいつまんで説明した。


 あおいちゃんはその間黙って俺の説明を聞いていたが、話が終わると質問をしてきた。


「神威君は日本に帰りたいの?」


 俺はじっとあおいちゃんの目を見つめていた。


 どうだろう?


 最初はこの世界に来て銀金財宝を見つけて日本に帰り大金持ちになろうとしたが、今はこの町にかまけて価値のある鉱物も財宝も何も見つけられていないんだよな。


 このまま日本に帰っても破産する未来しかないのだ。


「ちょっと、神威君聞いてる?」


 あ、いかん、自分の世界に入っていた。


「神威君の置かれた状況は理解したからまあいいわ。それで私に感謝していると言ったわね」

「ああ」

「それじゃあ、私のお願いを聞いてくれるかしら?」

「命の恩人なんだ。何だって聞いてやるよ」


 そして俺はあおいちゃんから計画を聞かされて、それに協力する事にしたのだ。



 あおいちゃんから連絡用にと円筒形のマジック・アイテムを貰った。


 これは登録された相手の魔力の質を感知して飛んでいく連絡蝶というマジック・アイテムで、何処に居ても通信出来るらしい。


 ちなみにこれは青色魔法をマジック・アイテム化したんだとか。


 そして上空に舞い上がるとエリアルに帰っていった。


 上空に舞い上がり姿が見えなくなるまで手を振ると、配達してくれた荷馬車5台分の食糧を片付ける事にした。


 荷馬車には小麦や米等の穀物に野菜、調味料の他、何に使うのかも分からない王家の紋章やらロヴァル公国軍の軍旗等も入っていた。


 そしてあおいちゃんが言うには、この国に人達には和食はあまり人気が無いそうだ。


 まあ土地が変われば好みも変わるので、そう言う事もあるのだろう。


 俺は個人的に楽しむつもりだけどね。


 とりあえず荷馬車と預かった物品は、紫煙草を乾燥させるための倉庫が使っていないのでそこに保管しておくことにした。


 そして荷台にあった栽培用の種はウジェ達に渡して畑に撒いてもらう事にして、食料品は獣人と人間達でどうやって配分しようかと考えていると、パメラとビアッジョがやって来て俺の元で働きたいと言ってきた。


 ビアッジョはあおいちゃんから間者だと聞いていたので、恐らくは協力するようにとでも指示を受けたのだろう。


 パメラの方は情報収集が目的だろう。


 丁度食料も手に入ったから、ベイン達も呼んで配給の手配を頼むことにした。


 +++++


 パルラから戻って来たソフィアは警備の隙を突いてこっそり離宮に入ると、それまで替え玉をしていたエルメリンダと交代した。


「エルメリンダご苦労様、問題は無かったかしら?」


 エルメリンダは変装を解き、いつもの侍女長の姿に戻るとソフィアに一礼してきた。


「はい、主様が不在だったことは誰にも気づかれておりません」

「そう、もう下がっていいわよ」


 エルメリンダが部屋から出て行った後でソフィアは、引き出しの中に入っている手提げ金庫の鍵を開けるとその中に入っていた小さな入れ物を取り出した。


 そしてその中に入っている錠剤を一つ摘まむと、それ口に含みベッドに横になった。


 翌朝、前大公陛下が病気になったと離宮内では大騒ぎになった。


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